男の子のお姫様
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体育館の扉を開けると、パイプ椅子がずらりと並べられており、既に満席に近い状態だった。
「人、いっぱいだね。席空いてるかな」
「本当だね。……あっ、あそこ空いてる!」
私たちはカオリが見つけた最後尾に近い2つの空席に滑り込むようにして腰掛けた。
やがて、ざわめきを切り裂くようにして場内アナウンスが響く。
「ただいまより1-A組による演劇、シンデレラを開幕いたします」
その言葉を合図に照明が落ち、体育館は一瞬にして静かになった。
『昔々、病気で母を亡くし、父が連れてきた再婚相手と共に暮らすことになった1人の少女がいました』
静かなナレーションと共に、舞台中央に1本のスポットライトが落ちる。
そこにいたのは、すすけてボロボロになった衣装を纏い、床に膝をついて雑巾がけをする1人の少女。
深く俯いていて、こちらからは顔が見えない。
『彼女は継母に仕事を押し付けられたあげく、2人の義姉にいじめられて、“灰かぶりのシンデレラ”と呼ばれていました』
「シンデレラ、ここがまだ汚れているわよ!」
甲高い声を上げて現れたのは、先ほど宣伝に来ていた派手なドレスの男の子だ。
てっきり彼がヒロインだと思っていたのに、どうやら意地悪な義姉役らしい。
じゃあ、あの雑巾がけをしている子は……?
「……はい、お姉様。すぐに掃除し直します」
義姉の傲慢な命令に応えるように、ゆっくりと顔を上げたシンデレラ。
その瞬間、私の呼吸が止まった。
そこにいたのは、浩輔君だった。
シンデレラ役だったんだ……。
「来てほしくない」と拒み続けていた理由が明らかになる。
だけど、本人がどれほど気にしていようとも、彼は驚くほど可愛らしかった。
小柄で華奢な肩、端正な顔立ち。
カツラの下から覗く瞳は、どこかあどけなさも感じられる。
『ある日、王様が3日間開く舞踏会で、王子様が花嫁を探すという話が舞い込んできました。シンデレラも舞踏会に参加したいとお願いしましたが、継母は認めません』
物語は進み、継母たちが去った舞台で、シンデレラ、もとい浩輔君が歌い出した。
独白のような歌声。
少しだけ緊張で震えているのが分かる。
だけど、彼が手の甲にお経のようなセリフを書き込んでいた背景を知っていれば、その積み重ねてきた努力が痛いほど伝わってきた。
やがて魔女が登場し、魔法の杖が振られる。
一瞬の暗転の後、再び照らされた舞台には、見違えるような純白のドレスに身を包んだお姫様が立っていた。
「綺麗……」
私は思わず呟いていた。
「さあ舞踏会へお行き。ただし、12時の鐘が鳴る前に帰るんだよ。さもないと魔法が解けてしまうから」
魔女がシンデレラに仕上げのガラスの靴を履かせると、カボチャを模した手作りの馬車に乗り、舞踏会へと向かった。
舞踏会へ着くと、待っていた王子様役は、凛々しくタキシードを着こなした女子生徒だった。
「美しい方……どうか私と踊っていただけませんか」
「……ええ、喜んで」
2人は音楽に合わせてくるくると踊り始める。
向かい合わせになると、王子様役の彼女の方が浩輔君より少しだけ背が高い。
ぎこちなくリードされる浩輔君の足取り。
それがまた可愛らしさを彷彿とさせる。
夜更けまで踊り続け、時計の針が12時を指すと、大きな鐘が鳴り響く。
「いけない、もう帰らないと!」
浩輔君は階段に見立てた台を駆け下り、わざとらしくガラスの靴を脱ぎ捨て、夜の闇へと消えていった。
物語はグリム童話の筋書き通り、幸福な結末へと向かう。
王子様が持ってきたガラスの靴を彼が履くと、それはぴったりと収まった。
『こうして、王子様とシンデレラは結ばれ、幸せに暮らしました。めでたし、めでたし』
ナレーションが終わると同時に、大きな拍手が沸き起こった。
舞台には、主役から裏方、小道具の担当まで、クラス全員が登壇して横一列に並ぶ。
浩輔君は、隣の王子様役の女の子と手を繋ぎ、立っていた。
「最後まで見てくださり、ありがとうございました!」
号令に合わせて、全員が深々とお辞儀をする。
こうして、客席からの惜しみない拍手の中、幕がゆっくりと降りていった。
「人、いっぱいだね。席空いてるかな」
「本当だね。……あっ、あそこ空いてる!」
私たちはカオリが見つけた最後尾に近い2つの空席に滑り込むようにして腰掛けた。
やがて、ざわめきを切り裂くようにして場内アナウンスが響く。
「ただいまより1-A組による演劇、シンデレラを開幕いたします」
その言葉を合図に照明が落ち、体育館は一瞬にして静かになった。
『昔々、病気で母を亡くし、父が連れてきた再婚相手と共に暮らすことになった1人の少女がいました』
静かなナレーションと共に、舞台中央に1本のスポットライトが落ちる。
そこにいたのは、すすけてボロボロになった衣装を纏い、床に膝をついて雑巾がけをする1人の少女。
深く俯いていて、こちらからは顔が見えない。
『彼女は継母に仕事を押し付けられたあげく、2人の義姉にいじめられて、“灰かぶりのシンデレラ”と呼ばれていました』
「シンデレラ、ここがまだ汚れているわよ!」
甲高い声を上げて現れたのは、先ほど宣伝に来ていた派手なドレスの男の子だ。
てっきり彼がヒロインだと思っていたのに、どうやら意地悪な義姉役らしい。
じゃあ、あの雑巾がけをしている子は……?
「……はい、お姉様。すぐに掃除し直します」
義姉の傲慢な命令に応えるように、ゆっくりと顔を上げたシンデレラ。
その瞬間、私の呼吸が止まった。
そこにいたのは、浩輔君だった。
シンデレラ役だったんだ……。
「来てほしくない」と拒み続けていた理由が明らかになる。
だけど、本人がどれほど気にしていようとも、彼は驚くほど可愛らしかった。
小柄で華奢な肩、端正な顔立ち。
カツラの下から覗く瞳は、どこかあどけなさも感じられる。
『ある日、王様が3日間開く舞踏会で、王子様が花嫁を探すという話が舞い込んできました。シンデレラも舞踏会に参加したいとお願いしましたが、継母は認めません』
物語は進み、継母たちが去った舞台で、シンデレラ、もとい浩輔君が歌い出した。
独白のような歌声。
少しだけ緊張で震えているのが分かる。
だけど、彼が手の甲にお経のようなセリフを書き込んでいた背景を知っていれば、その積み重ねてきた努力が痛いほど伝わってきた。
やがて魔女が登場し、魔法の杖が振られる。
一瞬の暗転の後、再び照らされた舞台には、見違えるような純白のドレスに身を包んだお姫様が立っていた。
「綺麗……」
私は思わず呟いていた。
「さあ舞踏会へお行き。ただし、12時の鐘が鳴る前に帰るんだよ。さもないと魔法が解けてしまうから」
魔女がシンデレラに仕上げのガラスの靴を履かせると、カボチャを模した手作りの馬車に乗り、舞踏会へと向かった。
舞踏会へ着くと、待っていた王子様役は、凛々しくタキシードを着こなした女子生徒だった。
「美しい方……どうか私と踊っていただけませんか」
「……ええ、喜んで」
2人は音楽に合わせてくるくると踊り始める。
向かい合わせになると、王子様役の彼女の方が浩輔君より少しだけ背が高い。
ぎこちなくリードされる浩輔君の足取り。
それがまた可愛らしさを彷彿とさせる。
夜更けまで踊り続け、時計の針が12時を指すと、大きな鐘が鳴り響く。
「いけない、もう帰らないと!」
浩輔君は階段に見立てた台を駆け下り、わざとらしくガラスの靴を脱ぎ捨て、夜の闇へと消えていった。
物語はグリム童話の筋書き通り、幸福な結末へと向かう。
王子様が持ってきたガラスの靴を彼が履くと、それはぴったりと収まった。
『こうして、王子様とシンデレラは結ばれ、幸せに暮らしました。めでたし、めでたし』
ナレーションが終わると同時に、大きな拍手が沸き起こった。
舞台には、主役から裏方、小道具の担当まで、クラス全員が登壇して横一列に並ぶ。
浩輔君は、隣の王子様役の女の子と手を繋ぎ、立っていた。
「最後まで見てくださり、ありがとうございました!」
号令に合わせて、全員が深々とお辞儀をする。
こうして、客席からの惜しみない拍手の中、幕がゆっくりと降りていった。
