勇気を下さい
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病室を出た廊下。
そこには、見覚えのある赤と白の髪の少年が、気まずそうに壁にもたれかかっていた。
「轟君……」
視線を落としている彼の姿を見て、恐らく先ほどのミチルちゃんとのやり取りを聞かれていたのだろう。
「起きて大丈夫なのか」
轟君は私に気付くと、そっと壁から背を離した。
「え……あ、うん。なんとか」
そもそも、なぜ彼がここにいるんだろう。
私と轟君の間柄では、お見舞いなんてあり得ない。
ミチルちゃんの知り合いだろうか?
いや、彼女の口からも轟君の話なんて聞いたことがないし、そんな様子もなかった。
……あ、そうか。
「もしかして、私たちを助けてくれたのって、轟君?」
「……ああ」
素っ気ないけれど、確かな肯定。
やっぱり、そうだったんだ。
あの濁流の中で意識を失った私とミチルちゃんを、彼は救い出してくれた。
ヒーローを目指す彼のことだ。
例え嫌いな相手でも、困っていれば迷わず手を貸す。
それがヒーローだから。
「助けてくれて、ありがとう。……私、てっきり轟君に嫌われていると思ってたから」
私は自嘲気味に笑いかけた。
「違う……」
「違う?」
「嫌ってなんか、いない」
意外なほどはっきりとした否定に、私は瞬きを繰り返した。
そんなに、気を遣わなくていいのに……。
「その……この間、学校の校門で、◯◯さんのスカートが捲れて……」
やっぱり、あの日のことだ。
あの醜い火傷の痕を見られて、不快な思いをさせてしまっていたんだ。
それとも、同じ火傷をもつ人として、助けてくれたとか?
「し……」
「し?」
「……下着が見えて、申し訳なくなって避けてた」
「あ……え……。下着っ!?」
あまりに予想外すぎる言葉に、顔がカッと熱くなるのが分かった。
下着……。
誰も私の下着なんて興味がないと思っていたし、それ以上に火傷の痕のことで頭がいっぱいだった。
「私、火傷の痕を見られたかと思って。それで、気まずいのかと……」
「火傷?あー……。それは別に、気にも留めてなかった」
「そ、そうなんだ……。そっか。そっか」
私が何年も悩み続けて、隠し続けてきたものは、彼にとっては意識に留まるほどのものでもなかった。
拍子抜けしたけれど、それ以上に、重たい何かがすっと落ちたような感覚だった。
「その……だからってワケじゃないけど。スカートの丈、もう少し短くしてもいいと思う。せっかく、白い肌なんだから」
轟君は少しだけ視線を逸らし、頬を微かに染めて言った。
彼に釣られるように、私の体温もさらに上がっていく。
「う、うん。そうしてみるね」
「ああ」
沈黙が流れる。
だけど、それはさっきまでの重苦しい沈黙とは全く違う、どこか温かいものだった。
「……じゃあ、俺はそろそろ行く」
「うん、本当にありがとう!」
去っていく彼の背中を見送る。
その後姿は、救助訓練のときみたいに、やっぱりヒーローのようだった。
「……よしっ!」
私は自分の両頬をパチンと叩いて、気合を入れ直した。
轟君に、とびきりの勇気を貰ったんだ。
自分の一部であるこの肌も、そして、傷ついたミチルちゃんとのわだかまりも。
全部ひっくるめて、ちゃんと向き合いたい。
私はもう一度、病室の扉に手をかけた。
「ミチルちゃん、話したいことがあるの────」
カーテンの向こう側へ、私は一歩を踏み出した。
ーーFinーー
そこには、見覚えのある赤と白の髪の少年が、気まずそうに壁にもたれかかっていた。
「轟君……」
視線を落としている彼の姿を見て、恐らく先ほどのミチルちゃんとのやり取りを聞かれていたのだろう。
「起きて大丈夫なのか」
轟君は私に気付くと、そっと壁から背を離した。
「え……あ、うん。なんとか」
そもそも、なぜ彼がここにいるんだろう。
私と轟君の間柄では、お見舞いなんてあり得ない。
ミチルちゃんの知り合いだろうか?
いや、彼女の口からも轟君の話なんて聞いたことがないし、そんな様子もなかった。
……あ、そうか。
「もしかして、私たちを助けてくれたのって、轟君?」
「……ああ」
素っ気ないけれど、確かな肯定。
やっぱり、そうだったんだ。
あの濁流の中で意識を失った私とミチルちゃんを、彼は救い出してくれた。
ヒーローを目指す彼のことだ。
例え嫌いな相手でも、困っていれば迷わず手を貸す。
それがヒーローだから。
「助けてくれて、ありがとう。……私、てっきり轟君に嫌われていると思ってたから」
私は自嘲気味に笑いかけた。
「違う……」
「違う?」
「嫌ってなんか、いない」
意外なほどはっきりとした否定に、私は瞬きを繰り返した。
そんなに、気を遣わなくていいのに……。
「その……この間、学校の校門で、◯◯さんのスカートが捲れて……」
やっぱり、あの日のことだ。
あの醜い火傷の痕を見られて、不快な思いをさせてしまっていたんだ。
それとも、同じ火傷をもつ人として、助けてくれたとか?
「し……」
「し?」
「……下着が見えて、申し訳なくなって避けてた」
「あ……え……。下着っ!?」
あまりに予想外すぎる言葉に、顔がカッと熱くなるのが分かった。
下着……。
誰も私の下着なんて興味がないと思っていたし、それ以上に火傷の痕のことで頭がいっぱいだった。
「私、火傷の痕を見られたかと思って。それで、気まずいのかと……」
「火傷?あー……。それは別に、気にも留めてなかった」
「そ、そうなんだ……。そっか。そっか」
私が何年も悩み続けて、隠し続けてきたものは、彼にとっては意識に留まるほどのものでもなかった。
拍子抜けしたけれど、それ以上に、重たい何かがすっと落ちたような感覚だった。
「その……だからってワケじゃないけど。スカートの丈、もう少し短くしてもいいと思う。せっかく、白い肌なんだから」
轟君は少しだけ視線を逸らし、頬を微かに染めて言った。
彼に釣られるように、私の体温もさらに上がっていく。
「う、うん。そうしてみるね」
「ああ」
沈黙が流れる。
だけど、それはさっきまでの重苦しい沈黙とは全く違う、どこか温かいものだった。
「……じゃあ、俺はそろそろ行く」
「うん、本当にありがとう!」
去っていく彼の背中を見送る。
その後姿は、救助訓練のときみたいに、やっぱりヒーローのようだった。
「……よしっ!」
私は自分の両頬をパチンと叩いて、気合を入れ直した。
轟君に、とびきりの勇気を貰ったんだ。
自分の一部であるこの肌も、そして、傷ついたミチルちゃんとのわだかまりも。
全部ひっくるめて、ちゃんと向き合いたい。
私はもう一度、病室の扉に手をかけた。
「ミチルちゃん、話したいことがあるの────」
カーテンの向こう側へ、私は一歩を踏み出した。
ーーFinーー
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