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救助訓練が終わりに差し掛かる頃、空からはしとしとと雨が降り出した。
皮肉にもその雨が火災エリアの火を鎮め、訓練は予定より早く切り上げられることになった。
「●●ちゃん、お疲れ様〜!」
「ミチルちゃんもお疲れ様」
合流したミチルちゃんは、自分の担当エリアがいかに過酷だったかを身振り手振りで語り出した。
「本当に散々だよー!私のところ、全然助けに来てくれないんだもん。狭い場所で縮こまってなきゃいけなかったから、もう身体がバキバキ……」
彼女の話を聞きながら、私はふと、自分を軽々と引き上げてくれたあの強い手の感触を思い出していた。
私は……恵まれていた方なんだな。
訓練とはいえ、やっぱり轟君に感謝しないと。
そんな会話をしながら帰路についた私たちだったけれど、いつも渡る川の前に差し掛かった瞬間、足が止まった。
「……何、これ……」
連日の雨のせいか、川は濁流となり、今にも堤防を越えそうなほどに増水していた。
いわゆる外水氾濫だ。
茶色く濁った水が、轟音を立てて橋の脚を叩いている。
「うわ、凄いね……。ねえ、危ないから遠回りしない?」
「大丈夫、大丈夫!遠回りするの面倒だし、早く帰って休みたいもん!ほら、行こうよ!」
私の制止も聞かず、ミチルちゃんはひょいひょいと足早に橋へと足を踏み出した。
次の瞬間だった。
ミチルちゃんの姿が、視界から消えた。
ほんの数秒の出来事だった。
「……ミチルちゃん?」
返事はない。
「ミチルちゃん!!」
慌てて身を乗り出して川を覗き込むと、数メートル下、激流の中に突き出た岩に必死でしがみついている彼女の姿があった。
足を滑らせ、そのまま転落してしまったのだ。
「た、助けて……っ、●●ちゃん!」
ミチルちゃんの悲鳴が濁流の音にかき消されそうになる。
運良く岩に引っかかったようだけれど、打ち寄せる波の力は強く、彼女の細い腕はすでに限界を迎えようとしていた。
早く、早くなんとかしなきゃ……!
だけど、視界に入る濁流に足がすくむ。
私の個性は湿気で体調が良くなるとはいえ、泳ぎが得意になるワケじゃない。
それどころか、私は救助訓練で溺れる役だけは避けたい、と祈ったほどのカナヅチだ。
こんな猛烈な流れの中に飛び込んで、何ができる?
私が救助に向かっても、2人まとめて流されるのがオチなんじゃないか。
二次被害。
その言葉が頭をよぎり、膝がガタガタと震え出す。
「手が……もう、限界……っ」
ミチルちゃんの指が、じりじりと岩の表面を滑っていくのが見えた。
彼女の顔が恐怖に歪む。
理屈じゃない……。
二次被害だとか、カナヅチだとかどうでもいい。
私が助けないと。
ここで彼女を見捨てると、私は一生、自分を許せないだろう。
「……ミチルちゃん、今行くから!!」
恐怖で強張る身体を、意志の力で無理やり動かす。
私は制服のまま、茶色の濁流の中へと勢いよく飛び込んだ。
皮肉にもその雨が火災エリアの火を鎮め、訓練は予定より早く切り上げられることになった。
「●●ちゃん、お疲れ様〜!」
「ミチルちゃんもお疲れ様」
合流したミチルちゃんは、自分の担当エリアがいかに過酷だったかを身振り手振りで語り出した。
「本当に散々だよー!私のところ、全然助けに来てくれないんだもん。狭い場所で縮こまってなきゃいけなかったから、もう身体がバキバキ……」
彼女の話を聞きながら、私はふと、自分を軽々と引き上げてくれたあの強い手の感触を思い出していた。
私は……恵まれていた方なんだな。
訓練とはいえ、やっぱり轟君に感謝しないと。
そんな会話をしながら帰路についた私たちだったけれど、いつも渡る川の前に差し掛かった瞬間、足が止まった。
「……何、これ……」
連日の雨のせいか、川は濁流となり、今にも堤防を越えそうなほどに増水していた。
いわゆる外水氾濫だ。
茶色く濁った水が、轟音を立てて橋の脚を叩いている。
「うわ、凄いね……。ねえ、危ないから遠回りしない?」
「大丈夫、大丈夫!遠回りするの面倒だし、早く帰って休みたいもん!ほら、行こうよ!」
私の制止も聞かず、ミチルちゃんはひょいひょいと足早に橋へと足を踏み出した。
次の瞬間だった。
ミチルちゃんの姿が、視界から消えた。
ほんの数秒の出来事だった。
「……ミチルちゃん?」
返事はない。
「ミチルちゃん!!」
慌てて身を乗り出して川を覗き込むと、数メートル下、激流の中に突き出た岩に必死でしがみついている彼女の姿があった。
足を滑らせ、そのまま転落してしまったのだ。
「た、助けて……っ、●●ちゃん!」
ミチルちゃんの悲鳴が濁流の音にかき消されそうになる。
運良く岩に引っかかったようだけれど、打ち寄せる波の力は強く、彼女の細い腕はすでに限界を迎えようとしていた。
早く、早くなんとかしなきゃ……!
だけど、視界に入る濁流に足がすくむ。
私の個性は湿気で体調が良くなるとはいえ、泳ぎが得意になるワケじゃない。
それどころか、私は救助訓練で溺れる役だけは避けたい、と祈ったほどのカナヅチだ。
こんな猛烈な流れの中に飛び込んで、何ができる?
私が救助に向かっても、2人まとめて流されるのがオチなんじゃないか。
二次被害。
その言葉が頭をよぎり、膝がガタガタと震え出す。
「手が……もう、限界……っ」
ミチルちゃんの指が、じりじりと岩の表面を滑っていくのが見えた。
彼女の顔が恐怖に歪む。
理屈じゃない……。
二次被害だとか、カナヅチだとかどうでもいい。
私が助けないと。
ここで彼女を見捨てると、私は一生、自分を許せないだろう。
「……ミチルちゃん、今行くから!!」
恐怖で強張る身体を、意志の力で無理やり動かす。
私は制服のまま、茶色の濁流の中へと勢いよく飛び込んだ。
