無償の友情
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いつものように、私は1階の気配を伺いながら、泥棒のように音を殺して階段を下りた。
食事やお風呂は、親が寝静まるか、あるいは外出している隙を狙うのが私の日常だ。
薄暗いキッチンで冷蔵庫を開ける。
これは夜ご飯の食材。
こっちはお父さんの晩酌用。
……そしてこれは、食べたら怒られる高いデザート。
「……何もない」
結局、私に許された選択肢は、冷凍庫の隅に追いやられたご飯だけだった。
それを温め、梅干しと海苔でおにぎりを握る。
あ、インスタントの味噌汁……これくらいなら、いいよね。
お盆に乗せた質素な食事を運び、自室へ戻ろうと足をかけた、その時だった。
「コソコソ泥棒みたいに………」
「お母さん……!」
運悪く帰宅した母と、廊下で鉢合わせてしまう。
「ごめんなさい、ごめんなさい……っ」
射抜くような冷たい視線に耐えきれず、私はお盆が揺れるのも構わず階段を駆け上がった。
自室のドアを勢いよく開ける。
心臓がうるさく鳴っていた。
「よお」
そこには、当然のように不審者さんがいた。
世間一般から見れば、不審者が部屋に居座る光景こそが異常なのだろう。
だけど、今の私にとっては、母と向かい合う空気よりも、ここでカチカチとゲームを鳴らす彼の背中の方が、ずっと安心できた。
「旨そうな物、持ってるな」
「1つ食べますか?」
「ああ」
彼がゲームを中断し、こちらを向く。
多めに握っておいてよかった。
そのせいで母に見つかるリスクは増したけれど、彼と分かち合うためだと思えば、少しだけ報われる気がした。
おにぎりを差し出しながら、ふと疑問が湧く。
……どうやって食べるんだろう。
顔面を覆う、あの不気味な手の装飾。
あれを着けたままでは、食事など不可能なはずだ。
外すのか、それとも、あの手は身体の一部で、どこかに別の口が……。
そんな想像を巡らせていると、彼はあっけなく手の装飾を顔から剥ぎ取った。
「……」
息を呑んだ。
露わになったその素顔を、私はまじまじと見つめてしまう。
異様な眼差し、血色の悪い肌。
どこか病的で不健康な印象は拭えない。
だけど、それを差し引いても、彼の顔立ちは驚くほど整っていた。
額から頬へと刻まれた干乾びたような皺や、右目と口元に刻まれた裂傷はワイルドだし、右の口元にあるホクロもセクシーだ。
「……何見てんだよ。俺の顔に、怯えてんのか」
おにぎりを無造作に頬張り、指に付いた米粒をぺろりと舐めとりながら、彼は不機嫌そうに目を細めた。
その仕草も含めて、
「……格好良いな、って」
「は?」
眉間に深い皺を寄せ、彼は「何言ってんだコイツ」と言わんばかりの表情を浮かべた。
自分でも分かっている。あまりにも馬鹿正直で、場違いな言葉だ。
でも、伝えたかった。
「……アンタ、やっぱり変なヤツだな」
呆れたように鼻を鳴らし、彼は再び手の装飾を顔に着けてゲームに戻った。
怒っていない。
その事実に安堵していると、画面を見つめたまま彼が言った。
「……ニュースとか、見ないのか?」
「見ていないです。ゲームしかしてないから、時事には疎いです」
「……ふーん」
興味がなさそうに、彼は返事をした。
もしかしたら、この人は私が知らないだけで、世間を騒がせている極悪人なのかもしれない。
あるいは、どこかの物好きな俳優がお忍びで他所様の家で勝手にゲームをしているのか。
後者なら救いがあるけれど、きっと答えは前者なんだろう。
名前を知らなくても、この特徴的な容姿で検索をかければ、すぐに答えは出るだろう。
だけど、それはしたくなかった。
知るのが怖かった。
真実を知ってしまったら、この奇妙で穏やかな日常が、二度と戻らない気がしたから。
そんなことを考えながら、私は残りの冷えかけたおにぎりを口に運び、温かい味噌汁で胃の奥へと流し込んだ。
食事やお風呂は、親が寝静まるか、あるいは外出している隙を狙うのが私の日常だ。
薄暗いキッチンで冷蔵庫を開ける。
これは夜ご飯の食材。
こっちはお父さんの晩酌用。
……そしてこれは、食べたら怒られる高いデザート。
「……何もない」
結局、私に許された選択肢は、冷凍庫の隅に追いやられたご飯だけだった。
それを温め、梅干しと海苔でおにぎりを握る。
あ、インスタントの味噌汁……これくらいなら、いいよね。
お盆に乗せた質素な食事を運び、自室へ戻ろうと足をかけた、その時だった。
「コソコソ泥棒みたいに………」
「お母さん……!」
運悪く帰宅した母と、廊下で鉢合わせてしまう。
「ごめんなさい、ごめんなさい……っ」
射抜くような冷たい視線に耐えきれず、私はお盆が揺れるのも構わず階段を駆け上がった。
自室のドアを勢いよく開ける。
心臓がうるさく鳴っていた。
「よお」
そこには、当然のように不審者さんがいた。
世間一般から見れば、不審者が部屋に居座る光景こそが異常なのだろう。
だけど、今の私にとっては、母と向かい合う空気よりも、ここでカチカチとゲームを鳴らす彼の背中の方が、ずっと安心できた。
「旨そうな物、持ってるな」
「1つ食べますか?」
「ああ」
彼がゲームを中断し、こちらを向く。
多めに握っておいてよかった。
そのせいで母に見つかるリスクは増したけれど、彼と分かち合うためだと思えば、少しだけ報われる気がした。
おにぎりを差し出しながら、ふと疑問が湧く。
……どうやって食べるんだろう。
顔面を覆う、あの不気味な手の装飾。
あれを着けたままでは、食事など不可能なはずだ。
外すのか、それとも、あの手は身体の一部で、どこかに別の口が……。
そんな想像を巡らせていると、彼はあっけなく手の装飾を顔から剥ぎ取った。
「……」
息を呑んだ。
露わになったその素顔を、私はまじまじと見つめてしまう。
異様な眼差し、血色の悪い肌。
どこか病的で不健康な印象は拭えない。
だけど、それを差し引いても、彼の顔立ちは驚くほど整っていた。
額から頬へと刻まれた干乾びたような皺や、右目と口元に刻まれた裂傷はワイルドだし、右の口元にあるホクロもセクシーだ。
「……何見てんだよ。俺の顔に、怯えてんのか」
おにぎりを無造作に頬張り、指に付いた米粒をぺろりと舐めとりながら、彼は不機嫌そうに目を細めた。
その仕草も含めて、
「……格好良いな、って」
「は?」
眉間に深い皺を寄せ、彼は「何言ってんだコイツ」と言わんばかりの表情を浮かべた。
自分でも分かっている。あまりにも馬鹿正直で、場違いな言葉だ。
でも、伝えたかった。
「……アンタ、やっぱり変なヤツだな」
呆れたように鼻を鳴らし、彼は再び手の装飾を顔に着けてゲームに戻った。
怒っていない。
その事実に安堵していると、画面を見つめたまま彼が言った。
「……ニュースとか、見ないのか?」
「見ていないです。ゲームしかしてないから、時事には疎いです」
「……ふーん」
興味がなさそうに、彼は返事をした。
もしかしたら、この人は私が知らないだけで、世間を騒がせている極悪人なのかもしれない。
あるいは、どこかの物好きな俳優がお忍びで他所様の家で勝手にゲームをしているのか。
後者なら救いがあるけれど、きっと答えは前者なんだろう。
名前を知らなくても、この特徴的な容姿で検索をかければ、すぐに答えは出るだろう。
だけど、それはしたくなかった。
知るのが怖かった。
真実を知ってしまったら、この奇妙で穏やかな日常が、二度と戻らない気がしたから。
そんなことを考えながら、私は残りの冷えかけたおにぎりを口に運び、温かい味噌汁で胃の奥へと流し込んだ。
