無償の友情
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初めて出会ったあの日から、何日が過ぎただろうか。
不審者さんは、今もなお私の部屋の特等席を陣取り、一向にクリアの兆しが見えないゲームと格闘し続けている。
画面の中では、彼が操作するキャラクターが何度も無残な死を遂げている。
いつになったら、この奇妙な時間は終わるのだろう。
ふと、そんな疑問が口をついて出た。
「……クリア、できそうですか?」
私の問いに、彼はコントローラーを握る手に力を込め、低い声で答えた。
「できなかったときは……このゲームが壊れることを意味するからな」
さらりと告げられた物騒な言葉に、背筋が凍る。
冗談には聞こえなかった。
彼が本気で言っているのだと悟り、私は慌てて提案を口にする。
「あ、あの!他のゲームに変えてみるとか。どうですか?」
私の部屋の棚には、パズルやRPG、音楽ゲームなど、彼でももう少し手軽に遊べそうなジャンルが並んでいる。
とにかく、早く満足して、早くクリアして、私の日常から立ち去ってほしかった。
それなのに。
「それは出来ない。アイツとどっちが先にクリアするか競っているから。変えるならそれからだな」
即答だった。
「そうですか……」
アイツというのは、先日話していたお仲間さんのことだろうか。
落胆すると同時に、ある考えが脳裏をよぎる。
もしこのゲームをクリアしたとしても、また別のゲームで競うことになれば、彼はまたここへ通ってくるということだろうか。
もし彼のお目当てのゲームが私の手元になければ、どうなるんだろう。
「買っておけ」と命令されるのだろうか。
それに、もし次のゲームが今より難しいものだったら……。
……きっと、またクリアするまでに途方もない時間がかかるんだろうな。
この人、本当にゲーム下手だし。
呆れ混じりの溜息を飲み込む。
よくよく考えれば、名前も、素性も、その素顔さえも知らない。
それなのに、いつの間にか私は、背後でカチカチと音を立てる彼を、自分の風景の一部として受け入れ始めている。
不思議なものだ。
……。
…………。
やがて、夕日が沈み始めた頃。
「今日はもう帰る」
「あ、はい」
「ゲーム、このままにしておけよ。セーブデータ消したらどうなるか……分かってるよな?」
「分かっていますって、消しませんよ」
「……」
「?」
帰ると言ったはずの彼が、窓際でふと足を止めた。
何か言い忘れたことでもあるのかと、私はベッドの上で首を傾げる。
「アンタ、変わっているな」
「え……」
予想だにしない言葉に、思考が一瞬フリーズする。
顔を覆うあの手の形の装飾のせいで、彼の表情を窺い知ることはできない。
だけど、その柔らかい物言いで、何故か微笑んでいるように見えた。
不気味な不審者に「変わっている」なんて言われたら、普通なら嫌悪感を抱くはずだ。
それなのに、嬉しく思ってしまうなんて……。
「じゃあな」
「あ……はい」
彼は今度こそ、自ら砕いた鍵の窓ガラスを乱暴に開け、夜の闇へと消えていった。
1人残された部屋。
私は誘われるように窓辺に寄り、数日ぶりに外の世界を覗き込んだ。
冷たい夜風が頬を撫でるけれど、彼の気配はもうどこにも残っていない。
「また、明日も来るのかな……」
誰もいない闇に向かって、私はぽつりと呟いた。
不審者さんは、今もなお私の部屋の特等席を陣取り、一向にクリアの兆しが見えないゲームと格闘し続けている。
画面の中では、彼が操作するキャラクターが何度も無残な死を遂げている。
いつになったら、この奇妙な時間は終わるのだろう。
ふと、そんな疑問が口をついて出た。
「……クリア、できそうですか?」
私の問いに、彼はコントローラーを握る手に力を込め、低い声で答えた。
「できなかったときは……このゲームが壊れることを意味するからな」
さらりと告げられた物騒な言葉に、背筋が凍る。
冗談には聞こえなかった。
彼が本気で言っているのだと悟り、私は慌てて提案を口にする。
「あ、あの!他のゲームに変えてみるとか。どうですか?」
私の部屋の棚には、パズルやRPG、音楽ゲームなど、彼でももう少し手軽に遊べそうなジャンルが並んでいる。
とにかく、早く満足して、早くクリアして、私の日常から立ち去ってほしかった。
それなのに。
「それは出来ない。アイツとどっちが先にクリアするか競っているから。変えるならそれからだな」
即答だった。
「そうですか……」
アイツというのは、先日話していたお仲間さんのことだろうか。
落胆すると同時に、ある考えが脳裏をよぎる。
もしこのゲームをクリアしたとしても、また別のゲームで競うことになれば、彼はまたここへ通ってくるということだろうか。
もし彼のお目当てのゲームが私の手元になければ、どうなるんだろう。
「買っておけ」と命令されるのだろうか。
それに、もし次のゲームが今より難しいものだったら……。
……きっと、またクリアするまでに途方もない時間がかかるんだろうな。
この人、本当にゲーム下手だし。
呆れ混じりの溜息を飲み込む。
よくよく考えれば、名前も、素性も、その素顔さえも知らない。
それなのに、いつの間にか私は、背後でカチカチと音を立てる彼を、自分の風景の一部として受け入れ始めている。
不思議なものだ。
……。
…………。
やがて、夕日が沈み始めた頃。
「今日はもう帰る」
「あ、はい」
「ゲーム、このままにしておけよ。セーブデータ消したらどうなるか……分かってるよな?」
「分かっていますって、消しませんよ」
「……」
「?」
帰ると言ったはずの彼が、窓際でふと足を止めた。
何か言い忘れたことでもあるのかと、私はベッドの上で首を傾げる。
「アンタ、変わっているな」
「え……」
予想だにしない言葉に、思考が一瞬フリーズする。
顔を覆うあの手の形の装飾のせいで、彼の表情を窺い知ることはできない。
だけど、その柔らかい物言いで、何故か微笑んでいるように見えた。
不気味な不審者に「変わっている」なんて言われたら、普通なら嫌悪感を抱くはずだ。
それなのに、嬉しく思ってしまうなんて……。
「じゃあな」
「あ……はい」
彼は今度こそ、自ら砕いた鍵の窓ガラスを乱暴に開け、夜の闇へと消えていった。
1人残された部屋。
私は誘われるように窓辺に寄り、数日ぶりに外の世界を覗き込んだ。
冷たい夜風が頬を撫でるけれど、彼の気配はもうどこにも残っていない。
「また、明日も来るのかな……」
誰もいない闇に向かって、私はぽつりと呟いた。
