無償の友情
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私が寂しいと思った感情を返して欲しい。
翌日、時計の針はお昼過ぎを指していた。
重い瞼を擦りながら意識を浮上させた私の耳に、真っ先に飛び込んできたのは、聞き覚えのある電子音とコントローラーの操作音だった。
「え……っ」
飛び起きて視線を向ければ、そこには昨日と同じ背中があった。
昨夜、嵐のように去っていったはずの不審者さんが、当たり前のように私の部屋でゲームをしている。
「よう、起きたか。邪魔してるぜ」
呆然とする私を余所に、彼は画面を見つめたまま淡々と言った。
そういえば、昨日、窓の鍵は彼の手によって無惨に砕かれていたのだ。
親に壊れた理由なんて話せるワケもなく、修理もできずに放置されていた鍵。
そのせいで、彼の再来を許してしまった。
「安心しろ、靴はちゃんと脱いだからな」
「あ……はい。……ありがとうございます?」
律儀なのか不躾なのか、もはや判断に困る。
私はベッドに座り直し、毛布を抱え込むようにして彼のプレイを眺めた。
昨日と同様、危なっかしい手つき。
画面の中のキャラクターは、何度も敵の攻撃を食らっている。
「あの……ゲーム、好きなんですか?」
このくらいなら、聞いても許されるだろうか。
「仲間がゲーム好きなんだよ」
「仲間……」
意外な言葉に、少しだけ胸がざわついた。
「仲間は大切な存在。仲間の好きな物を好きになりたい。だから俺はこのゲームのことを知りたい」
その声は驚くほど静かで、迷いがなかった。
「そっか……」
羨ましいと思ってしまった。
仲間のために、慣れないゲームに四苦八苦する彼。
その仲間という人は、どれほど幸せだろうか。
私にも、そんな風に思ってくれる誰かがいたら。
私の存在を、私の好きなものを、必死に知ろうとしてくれる人がいたなら。
私は抱えた毛布に顔を埋めた。
「ところで、昨日のアレはなんだ」
不意に、彼が問いかけてきた。
「……アレ?」
「お前が母親に何かした途端、諦めたように階段を降りただろう」
「え、なんで知ってるの!……ですか」
驚きのあまり敬語を忘れ、声を荒らげてしまった。
彼は画面から視線を逸らさないまま、左手でドアの脇を指差した。
「そこ」
「そこ?……あっ!」
そこには、昨日までは確実になかったはずの、小さな、けれどはっきりと向こう側が見える穴が空いていた。
昨日、彼が窓の鍵を砕いたように、あの時、彼は壁をも壊して外を覗き見ていたのだ。
何かを壊す音の正体は、これだったのか。
目立たない場所とはいえ、一度気付いてしまえば、気になって仕方がない。
母にバレたらどうしようという不安で、頭が痛くなる。
そんな私の焦りなど露知らず、彼は追い打ちをかけるように尋ねてきた。
「で、なんの個性だ」
隠し通せる相手ではないだろう。
私は諦めて、小さく息を吐いた。
「個性『施錠』。相手のその時の感情をしばらくロックできるの。大したことないですよ」
「ふーん」
あんなに食いついてきたくせに、種明かしをした途端、彼はひどく淡白な反応を返した。
この手のタイプの人は、答えを知ればすぐに興味を失くす。
きっとゲームの攻略法だって、教えた瞬間に彼はゲームをやめるだろう。
教えないようにしないと。
………あれ、なんで?
興味を失くしてくれた方が、彼は早くいなくなってくれるかもしれないのに……。
私は、誰かと話がしたかったのかもしれない。
例えそれが、得体の知れない不審者さんでも。
翌日、時計の針はお昼過ぎを指していた。
重い瞼を擦りながら意識を浮上させた私の耳に、真っ先に飛び込んできたのは、聞き覚えのある電子音とコントローラーの操作音だった。
「え……っ」
飛び起きて視線を向ければ、そこには昨日と同じ背中があった。
昨夜、嵐のように去っていったはずの不審者さんが、当たり前のように私の部屋でゲームをしている。
「よう、起きたか。邪魔してるぜ」
呆然とする私を余所に、彼は画面を見つめたまま淡々と言った。
そういえば、昨日、窓の鍵は彼の手によって無惨に砕かれていたのだ。
親に壊れた理由なんて話せるワケもなく、修理もできずに放置されていた鍵。
そのせいで、彼の再来を許してしまった。
「安心しろ、靴はちゃんと脱いだからな」
「あ……はい。……ありがとうございます?」
律儀なのか不躾なのか、もはや判断に困る。
私はベッドに座り直し、毛布を抱え込むようにして彼のプレイを眺めた。
昨日と同様、危なっかしい手つき。
画面の中のキャラクターは、何度も敵の攻撃を食らっている。
「あの……ゲーム、好きなんですか?」
このくらいなら、聞いても許されるだろうか。
「仲間がゲーム好きなんだよ」
「仲間……」
意外な言葉に、少しだけ胸がざわついた。
「仲間は大切な存在。仲間の好きな物を好きになりたい。だから俺はこのゲームのことを知りたい」
その声は驚くほど静かで、迷いがなかった。
「そっか……」
羨ましいと思ってしまった。
仲間のために、慣れないゲームに四苦八苦する彼。
その仲間という人は、どれほど幸せだろうか。
私にも、そんな風に思ってくれる誰かがいたら。
私の存在を、私の好きなものを、必死に知ろうとしてくれる人がいたなら。
私は抱えた毛布に顔を埋めた。
「ところで、昨日のアレはなんだ」
不意に、彼が問いかけてきた。
「……アレ?」
「お前が母親に何かした途端、諦めたように階段を降りただろう」
「え、なんで知ってるの!……ですか」
驚きのあまり敬語を忘れ、声を荒らげてしまった。
彼は画面から視線を逸らさないまま、左手でドアの脇を指差した。
「そこ」
「そこ?……あっ!」
そこには、昨日までは確実になかったはずの、小さな、けれどはっきりと向こう側が見える穴が空いていた。
昨日、彼が窓の鍵を砕いたように、あの時、彼は壁をも壊して外を覗き見ていたのだ。
何かを壊す音の正体は、これだったのか。
目立たない場所とはいえ、一度気付いてしまえば、気になって仕方がない。
母にバレたらどうしようという不安で、頭が痛くなる。
そんな私の焦りなど露知らず、彼は追い打ちをかけるように尋ねてきた。
「で、なんの個性だ」
隠し通せる相手ではないだろう。
私は諦めて、小さく息を吐いた。
「個性『施錠』。相手のその時の感情をしばらくロックできるの。大したことないですよ」
「ふーん」
あんなに食いついてきたくせに、種明かしをした途端、彼はひどく淡白な反応を返した。
この手のタイプの人は、答えを知ればすぐに興味を失くす。
きっとゲームの攻略法だって、教えた瞬間に彼はゲームをやめるだろう。
教えないようにしないと。
………あれ、なんで?
興味を失くしてくれた方が、彼は早くいなくなってくれるかもしれないのに……。
私は、誰かと話がしたかったのかもしれない。
例えそれが、得体の知れない不審者さんでも。
