歪んだ正義
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「臭い、取れたかな……」
事務所を出る前にシャワーを浴びたけれど、いまいち分からない。
そんな心配をしながら、例の公園へと向かった。
公園は相変わらず物寂しげで、街灯だけが静かに照らす。
その微かな光を頼りに、モンちゃんを探す。
「モンちゃ〜ん?パン持ってきたよ〜!出ておいで〜」
ベンチの周りをぐるりと見て回り、草むらを掻き分け、公衆トイレも覗いた。
だけど、モンちゃんはいなかった。
昨日より遅い時間だから、既にご飯食べた後なのかな。
そうなると、あのパーカーの彼も今日は来ないことになる。
「あーあ……」
拍子抜けだ。
私はドカッとベンチに腰掛け、空を見上げた。
「……」
かろうじて1つ2つ見えるだけの星。
待っていても星が増えるワケでもないのに。
こんなところで座っていても意味ないのに。
私はしばらくベンチから動けずにいた。
……。
…………。
さすがに冷えてきたし、そろそろ帰らないと。
そう思っていると、誰かが公園に入ってきた。
もしかして不審者?
ヒーローである私が怖気づくワケにもいかず、その不審者らしき人物が変な行動をしないように、じっと見張る。
やがて、顔が見えるくらいまで近付いてきた彼は、私にひとこと言った。
「アンタ、こんな時間までいるのかよ」
昨日会った、例のパーカーの彼だ。
それが分かっただけで、一気に肩の力が抜けた。
「もう帰ろうと思っていたところです」
そう言いながらも、心のどこかでもう少し彼と話したかった。
その気持ちが伝わったのか、パーカーの彼は私の隣に腰を下ろした。
ふわりと微かにパンの匂いが鼻をかすめる。
「モンちゃんの餌なら俺がもうやったから」
「そうですか……。一応私も持ってきたんですけど……」
袋に入ったパンの耳を見せると、彼が少し笑った気がした。
「なら、そのパンは俺が食うよ」
「えっ……?」
返事も聞かないうちに、彼は私の手から袋を奪い取り、おもむろに食べ始めた。
まあ、別にいいけど……。
それにしても、その食べっぷり……。
そんなにお腹空いていたのかな?
それならモンちゃんじゃなくて、自分でパンを食べればいいのに。
動物を優先する、優しい人なのかな?
そう考えるだけで、仕事のイライラがじわりと溶けていく。
気が付けばパンの袋は空っぽ。
「ご馳走さん」
「いえいえ」
「……」
「……」
静かな空間に、冷たい夜風が2人の間を抜ける。
「なんだか、落ち着きますね……。昼間とは全然違う世界みたいで」
私はそっと口にする。
本当に違う世界みたいだ。
昼間の嫌なことなんて、なかったかのような。
ここに来れば……、この人といるときは、自分がヒーローだと言うのが忘れられる気がする。
彼は自分の名前を言わないし、私も敢えて聞かない。
もちろん自分の素性も明かさない。
それが気楽で、心地よかったのかもしれない。
「相当疲れているんだな」
ふと、彼がこちらを見ずに言う。
「かもしれないですね。理想と現実の違いに、疲れちゃったのかもしれません」
「理想……か」
彼はポケットに手を突っ込んだまま、夜空をぼんやり見上げた。
「アンタが何に対して疲れているのか知らないけど……。俺は理想だとか現実だとかより、信念を強く持つ方が大切だと思う」
「信念、ですか……?」
私は思わず聞き返す。
「例えそれが悪だとしても」
悪でもいい、そんなふうに言い切る人がいるなんて、今まで考えもしなかった。
考えがまとまらずに黙っていると、不意に彼が私の方に視線を向ける。
「アンタなら分かるんじゃないのか?“いいこと”をしてるだけじゃ、何も変わらないって」
ヒーローに憧れて頑張ってきたはずなのに、何も変わらない現実が確かにそこにあって、私もきっとそれに気付いていた。
つまり、肩の力を抜けってことかな?
「ありがとうございます。なんだか元気が出た気がします」
「そう、よかった」
短い沈黙が流れる。
そのうち、どこからか小さな駆け足が聞こえてきた。
「……?」
視線を向けると、茂みの陰から黒猫のモンちゃんが顔を出していた。
「モンちゃん!」
名前を呼ぶと、モンちゃんは彼ではなく私の足元に擦り寄ってきた。
私はしゃがみ込み、モンちゃんの背中をゆっくりと撫でる。
モンちゃんは気持ちよさそうに目を細めながら、小さく喉を鳴らした。
「アンタ、モンちゃんに好かれてるな」
彼が呆れたようで、どこか嬉しそうに呟く。
なんだか、ヒーローじゃない私を受け入れてくれたみたいで、嬉しかった。
夜風は相変わらず冷たいけれど、モンちゃんの体温と、隣にいる彼の存在が、不思議と胸の奥を温めてくれる。
もう少しだけ、この時間が続けばいいのに。
事務所を出る前にシャワーを浴びたけれど、いまいち分からない。
そんな心配をしながら、例の公園へと向かった。
公園は相変わらず物寂しげで、街灯だけが静かに照らす。
その微かな光を頼りに、モンちゃんを探す。
「モンちゃ〜ん?パン持ってきたよ〜!出ておいで〜」
ベンチの周りをぐるりと見て回り、草むらを掻き分け、公衆トイレも覗いた。
だけど、モンちゃんはいなかった。
昨日より遅い時間だから、既にご飯食べた後なのかな。
そうなると、あのパーカーの彼も今日は来ないことになる。
「あーあ……」
拍子抜けだ。
私はドカッとベンチに腰掛け、空を見上げた。
「……」
かろうじて1つ2つ見えるだけの星。
待っていても星が増えるワケでもないのに。
こんなところで座っていても意味ないのに。
私はしばらくベンチから動けずにいた。
……。
…………。
さすがに冷えてきたし、そろそろ帰らないと。
そう思っていると、誰かが公園に入ってきた。
もしかして不審者?
ヒーローである私が怖気づくワケにもいかず、その不審者らしき人物が変な行動をしないように、じっと見張る。
やがて、顔が見えるくらいまで近付いてきた彼は、私にひとこと言った。
「アンタ、こんな時間までいるのかよ」
昨日会った、例のパーカーの彼だ。
それが分かっただけで、一気に肩の力が抜けた。
「もう帰ろうと思っていたところです」
そう言いながらも、心のどこかでもう少し彼と話したかった。
その気持ちが伝わったのか、パーカーの彼は私の隣に腰を下ろした。
ふわりと微かにパンの匂いが鼻をかすめる。
「モンちゃんの餌なら俺がもうやったから」
「そうですか……。一応私も持ってきたんですけど……」
袋に入ったパンの耳を見せると、彼が少し笑った気がした。
「なら、そのパンは俺が食うよ」
「えっ……?」
返事も聞かないうちに、彼は私の手から袋を奪い取り、おもむろに食べ始めた。
まあ、別にいいけど……。
それにしても、その食べっぷり……。
そんなにお腹空いていたのかな?
それならモンちゃんじゃなくて、自分でパンを食べればいいのに。
動物を優先する、優しい人なのかな?
そう考えるだけで、仕事のイライラがじわりと溶けていく。
気が付けばパンの袋は空っぽ。
「ご馳走さん」
「いえいえ」
「……」
「……」
静かな空間に、冷たい夜風が2人の間を抜ける。
「なんだか、落ち着きますね……。昼間とは全然違う世界みたいで」
私はそっと口にする。
本当に違う世界みたいだ。
昼間の嫌なことなんて、なかったかのような。
ここに来れば……、この人といるときは、自分がヒーローだと言うのが忘れられる気がする。
彼は自分の名前を言わないし、私も敢えて聞かない。
もちろん自分の素性も明かさない。
それが気楽で、心地よかったのかもしれない。
「相当疲れているんだな」
ふと、彼がこちらを見ずに言う。
「かもしれないですね。理想と現実の違いに、疲れちゃったのかもしれません」
「理想……か」
彼はポケットに手を突っ込んだまま、夜空をぼんやり見上げた。
「アンタが何に対して疲れているのか知らないけど……。俺は理想だとか現実だとかより、信念を強く持つ方が大切だと思う」
「信念、ですか……?」
私は思わず聞き返す。
「例えそれが悪だとしても」
悪でもいい、そんなふうに言い切る人がいるなんて、今まで考えもしなかった。
考えがまとまらずに黙っていると、不意に彼が私の方に視線を向ける。
「アンタなら分かるんじゃないのか?“いいこと”をしてるだけじゃ、何も変わらないって」
ヒーローに憧れて頑張ってきたはずなのに、何も変わらない現実が確かにそこにあって、私もきっとそれに気付いていた。
つまり、肩の力を抜けってことかな?
「ありがとうございます。なんだか元気が出た気がします」
「そう、よかった」
短い沈黙が流れる。
そのうち、どこからか小さな駆け足が聞こえてきた。
「……?」
視線を向けると、茂みの陰から黒猫のモンちゃんが顔を出していた。
「モンちゃん!」
名前を呼ぶと、モンちゃんは彼ではなく私の足元に擦り寄ってきた。
私はしゃがみ込み、モンちゃんの背中をゆっくりと撫でる。
モンちゃんは気持ちよさそうに目を細めながら、小さく喉を鳴らした。
「アンタ、モンちゃんに好かれてるな」
彼が呆れたようで、どこか嬉しそうに呟く。
なんだか、ヒーローじゃない私を受け入れてくれたみたいで、嬉しかった。
夜風は相変わらず冷たいけれど、モンちゃんの体温と、隣にいる彼の存在が、不思議と胸の奥を温めてくれる。
もう少しだけ、この時間が続けばいいのに。
