無償の友情
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~無償の友情~
今日も外の光を浴びず、この四畳半の部屋で1日を終えるのだろうか。
別に監禁されているワケでも、箱入り娘なワケでもない。
どちらかと言わずとも、両親は私を外へ連れ出そうと躍起になっている。
だけど、学校で苛めにあってから、私は心を閉ざし、引きこもりになってしまった。
毎日毎日ゲームをして、眠くなったら寝る。
そんな同じことの繰り返し。
だから、今日もそんな日になると信じて疑わなかった。
あの日、彼が窓の外に現れるまでは。
「……っ」
心臓が跳ね上がる。
ここは建物の2階だ。
それなのに、その男は平然とベランダに佇んでいた。
細身な体型に無造作な白髪、全身に「人の手」の様な物が着いている。
誰がどう見ても怪しい、得体の知れない不気味な雰囲気を纏っている男性。
男が窓ガラスの鍵にそっと指先を触れさせた瞬間、錠は粉々に砕け散った。
そして、初めから開いていましたと言わんばかりの態度で部屋へと侵入してきた。
「っ!!」
悲鳴を上げようとしても、長らく誰とも話さなかった声帯は、空気の抜けるような音しか出さない。
床を叩いて階下の母に知らせるべきか。
いや、そんな刺激を与えれば殺されるかもしれない。
死の恐怖が、鉛のように私の身体を床へ縫い付けた。
指先から力が抜け、握りしめていたコントローラーが、ゴトッ、と鈍い音を立てて床を転がった。
男は立ち止まり、視線を落とす。
そして、奇妙なほどゆっくりとした動作でそれを拾い上げた。
「これ、何のゲーム?」
耳を疑った。
命のやり取りを覚悟した場所で、男が真っ先に興味を示したのは、私の手元にあったゲームだった。
混乱の中で、私の思考は完全にショートした。
その結果、恐怖を追い越して口から飛び出したのは、あまりに場違いな指摘だった。
「土足……」
部屋を汚されたくない。
汚したら母に叱られる。
そんな現実逃避のような思考に行き着いた。
「……あはははっ!いや~ごめんごめん」
男は一瞬、虚を突かれたように目を丸くし、それから腹を抱えて笑い出した。
その笑い声には悪意よりも、純粋な可笑しさが混じっているように聞こえた。
男は意外なほど素直に、その場で器用に靴を脱ぎ捨てる。
悪い人じゃないのかもしれない。
いや、少なくともいい人ではない。
「これでいい?」
脱いだ靴を、律儀に窓の外のベランダへ並べる男。
床に残った泥の跡は気になる。
だけど、この異常な状況下でこれ以上指摘する勇気はもう残っていなかった。
「で、これは何のゲーム?」
男は再び、好奇心剥き出しの目で、テレビ画面を見つめた。
「ゾンビハザード……です」
「へ~面白いの?」
「別に……」
ただの暇潰しだ。
他にやりたいことがないからやっているだけ。
いくつか所持している、たまたま選ばれたゲームソフトなだけ。
それ以上でも以下でもない。
「そう……少しやらせてよ」
「どうぞ」
私は自分が座っていた場所をずれて、テレビ画面の見やすい位置を不審者さんに譲った。
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