燈矢君、お父さんと何を話したんだろう。
怒られなかったかな？
叩かれたりしなかったかな？

燈矢君のことばかり考えていたら、気付けば朝になっていた。

ぼんやりしながら、朝の支度をしてリビングに入る。

食卓には私の好きなメニューが並べられていた。
いつもは栄養第一のお母さんが朝からこれを作るなんて……。

私は先に席に着いていたお父さんに挨拶をした。


「おはようございます」

「ああ、おはよう」


昨日のことを聞く勇気なんかなくて、様子を伺うけれど、いつもと変わらないお父さん。


「なんだ」

「あ、いえ……なんでもないです」


じろじろ見すぎたのか怪しまれてしまった。


「そうだ……。その……あれだ、具合が悪いならちゃんと言いなさい。足の怪我とか、傷が残ったら大変だからな」

「え？……はい」


変だ。おかしい。
私を気遣ってくれるお父さんも、朝から私の好きなメニューを作ってくれたお母さんも。

ひょっとして燈矢君が両親に何か言ったの？

確かあの山奥でいつも練習をしていると言っていた。
今晩も行ったら会えるかな？

その日はずっとソワソワしながら過ごした。

夜が待ち遠しい。

そして、両親が寝静まった頃。
私はあらかじめ用意をしていた靴を持ってベランダに出た。

二階にある自室。
まさかここから出入りする日が来ようとは。

それに、この個性がこんなときに役立つなんて。

靴紐をキュッと結んでから、借りていた燈矢君の靴も忘れずに抱えた。

そして躊躇せずにベランダから飛び降りる。
燈矢君に会いたい気持ちの方が大きくて、恐怖心は感じない。

着地をする寸前の地面を個性で反発させて、まるでトランポリンのように弾ませた。

数回バウンドした後、最後にはスタッと着地。

私は記憶を辿って昨日の場所まで掛けた。