夜更けのコインランドリー
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それからというもの、週に1度、夜も更けた頃、私たちは顔を合わせるようになった。
場所はいつも、街外れのコインランドリー。
ガタガタと回る乾燥機の音だけが、私たちの沈黙を埋めてくれる。
「……また凍傷か。学習しねぇな、お前は」
彼はいつもの定位置、古びたプラスチックのベンチに深く腰掛け、呆れたように鼻を鳴らした。
私の指先は、今日も救助活動で無理をしたせいで、感覚を失い、紫色に染まっている。
「しょうがないじゃない。……仕事なんだもの」
「ハッ、ご立派なことで」
毒づきながらも、彼はごく自然に私の手を引き寄せた。
そして、その大きな掌で、私の指先を包み込む。
その途端、熱が流れ込んでくる。
彼の体温は、普通の人間のそれとは明らかに違っていた。
皮膚を焼き焦がさんばかりの熱。
だけど、熱に強い私の身体にはとても心地よかった。
「痛ぇか?」
「……ううん。あったかい。……生き返るみたい」
解けていく指先の感覚に、思わず視線を落とす。
継ぎ接ぎだらけの彼の皮膚。
時折、彼の身体から熱い蒸気が漏れ出している。
「アナタは熱くないんですか?……その、個性と身体が合わないって言っていたから……」
「熱いんだろうな」
その返答は、あまりに他人事のようだった。
「どういう意味?自分の身体でしょう?」
「俺の神経は、とっくに焼き切れて死んでる。熱さも痛みも、もう何も感じねぇ」
彼はどこか遠くを見るような目で、窓の外を見つめた。
その横顔があまりに寂しげで、私は反射的に、ポケットから取り出した物を、彼に握らせた。
「……お節介かもしれないけど。……はい、これ受け取って」
それは、酷使した肌を労わるために、私がいつも使っている、チューブタイプの高保湿の軟膏。
「……何だこれ」
「私の特注品なの。……熱さを感じなくても、身体は正直に悲鳴を上げているはずだから。少しでも、火傷が楽になればいいなって。……使ってほしいの」
彼は一瞬、信じられないものを見るように目を見開いた。
そして、喉の奥でククッと低い笑いを漏らすと、軟膏を無造作にポケットへ放り込んだ。
「……お前、本当にバカだな。俺みたいな得体の知れない男に」
「バカでいいですよ。困っている人がいたら、助けたい性分なんです」
それが、ヒーローだから。
タイミングを見計らったように乾燥機が止まり、店内に静寂が戻る。
それと同時に、彼が立ち上がる。
「……やっぱり、もう行っちゃうんですか?」
「お前も洗濯が終われば、ここに用はねぇだろ」
「そうですけど……。でも、まだ……」
言い淀む私を見下ろし、彼は不敵に口元を吊り上げた。
「なんてツラしてんだよ。……生きていれば、また、そのうち会えるだろう」
そう言い残し、彼は夜の闇へと消えていった。
場所はいつも、街外れのコインランドリー。
ガタガタと回る乾燥機の音だけが、私たちの沈黙を埋めてくれる。
「……また凍傷か。学習しねぇな、お前は」
彼はいつもの定位置、古びたプラスチックのベンチに深く腰掛け、呆れたように鼻を鳴らした。
私の指先は、今日も救助活動で無理をしたせいで、感覚を失い、紫色に染まっている。
「しょうがないじゃない。……仕事なんだもの」
「ハッ、ご立派なことで」
毒づきながらも、彼はごく自然に私の手を引き寄せた。
そして、その大きな掌で、私の指先を包み込む。
その途端、熱が流れ込んでくる。
彼の体温は、普通の人間のそれとは明らかに違っていた。
皮膚を焼き焦がさんばかりの熱。
だけど、熱に強い私の身体にはとても心地よかった。
「痛ぇか?」
「……ううん。あったかい。……生き返るみたい」
解けていく指先の感覚に、思わず視線を落とす。
継ぎ接ぎだらけの彼の皮膚。
時折、彼の身体から熱い蒸気が漏れ出している。
「アナタは熱くないんですか?……その、個性と身体が合わないって言っていたから……」
「熱いんだろうな」
その返答は、あまりに他人事のようだった。
「どういう意味?自分の身体でしょう?」
「俺の神経は、とっくに焼き切れて死んでる。熱さも痛みも、もう何も感じねぇ」
彼はどこか遠くを見るような目で、窓の外を見つめた。
その横顔があまりに寂しげで、私は反射的に、ポケットから取り出した物を、彼に握らせた。
「……お節介かもしれないけど。……はい、これ受け取って」
それは、酷使した肌を労わるために、私がいつも使っている、チューブタイプの高保湿の軟膏。
「……何だこれ」
「私の特注品なの。……熱さを感じなくても、身体は正直に悲鳴を上げているはずだから。少しでも、火傷が楽になればいいなって。……使ってほしいの」
彼は一瞬、信じられないものを見るように目を見開いた。
そして、喉の奥でククッと低い笑いを漏らすと、軟膏を無造作にポケットへ放り込んだ。
「……お前、本当にバカだな。俺みたいな得体の知れない男に」
「バカでいいですよ。困っている人がいたら、助けたい性分なんです」
それが、ヒーローだから。
タイミングを見計らったように乾燥機が止まり、店内に静寂が戻る。
それと同時に、彼が立ち上がる。
「……やっぱり、もう行っちゃうんですか?」
「お前も洗濯が終われば、ここに用はねぇだろ」
「そうですけど……。でも、まだ……」
言い淀む私を見下ろし、彼は不敵に口元を吊り上げた。
「なんてツラしてんだよ。……生きていれば、また、そのうち会えるだろう」
そう言い残し、彼は夜の闇へと消えていった。
