夜更けのコインランドリー
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〜夜更けのコインランドリー〜
路地裏にひっそりと佇むコインランドリー。
深夜2時。
週に1度、溜まった洗濯物をまとめて洗うために、ここへ訪れるのが私の日課だった。
大量の衣類を機械の奥に押し込み、硬貨を投入する。
スタートボタンを押すと、ドラムがカタカタと回転を始めた。
終わるまでの間、私は室内に設置されている自販機で温かいコーヒーを買い、ベンチに腰を下ろした。
クルクルと回る洗濯物を眺めながら、コーヒーを一口含む。
「温かい……」
連日のパトロールと後処理で疲れ果てた体に染み渡る。
ふと自分の手元に目を落とすと、指先は紫がかり、季節外れの霜焼けで赤く腫れていた。
私の個性は『氷結』。
炎の個性を持つ母と、氷の個性を持つ父。
その間に生まれたため、個性は氷なのに、私の身体は母の性質を強く引き継いでしまった。
冷気を出せば出すほど、自らの体温は奪われ、細胞は凍てつく。
耐寒仕様のヒーロースーツに守られてはいるけれど、酷使した後の身体は、いつも凍傷寸前だった。
「……っ、痛……」
指先の刺すような痛みに顔をしかめた、その時だった。
不意に私の小さな影に、大きな影が重なった。
「寒そうだな、アンタ」
低く、掠れた声。
驚いて顔を上げると、そこにはフードで顔が隠れた、長身の男が立っていた。
「あ……そうなんです。ちょっと、冷え性なもので」
動揺を隠すように愛想笑いを浮かべたけれど、彼の視線は鋭く私の指先を見つめたままだ。
「冷え性ってレベルじゃねぇだろ。指、死んでんぞ」
彼は鼻で笑うと、私の隣に腰を下ろした。
本来なら、プロヒーローとして警戒すべき風体なのに、不思議と恐怖はなかった。
それどころか、彼が左隣に座った瞬間、凍えきっていた左半身の感覚がじわりと戻るのを感じた。
彼が纏う空気が異常に熱い。
「……温かい」
「は?」
「あ、いえ!変な意味じゃなくて。……アナタ、すごく体温が高いんですね。羨ましいです」
私が力なく笑うと、彼は怪訝そうにこちらを凝視した。
「羨ましい、ね。……皮肉か?」
「本気ですよ。私、氷を出す個性なのに、身体が耐えられないんです。笑っちゃいますよね」
ポツリと、誰にも言えない弱音が溢れた。
相手がどこの誰だか分からない他人だからこそ、言えたのかもしれない。
彼はしばらく黙って回転する洗濯物を眺めていたけれど、静かに言葉を紡いだ。
「……俺も、似たようなもんだ。俺の炎は、俺自身を焼き尽くす」
彼は自嘲するように笑い、ポケットから引き抜いた手を、少しだけ私の方へ向けた。
そこには、火傷で爛れて痛々しいケロイド状の肌が顔を出した。
「アナタも苦労してきたんですね」
「……まあな」
彼はそれ以上語ろうとはしなかったけれど、お互い重なり合うものを感じたのか、言葉なんて不要だった。
やがて、終了を告げる電子音が店内に響き渡った。
私は残りのコーヒーを一気に飲み干し、そっと立ち上がった。
乾いた洗濯物をカゴに詰めていると、背後から彼が話しかけてきた。
「じゃあ、俺は行く」
振り向くと、彼は洗濯をしにきた様子もなく、手ぶらでその場を立ち去ろうとした。
「待って!」
気が付けば、私は彼の背中を呼び止めていた。
「私、毎週この時間にここへ来るの。……また、会えますか?」
彼は足を止め、振り返ることなく答えた。
「……気が向けばな」
闇に溶けていく背中を見送りながら、私は自分の指先を見つめた。
あんなに痛んでいた霜焼けの赤みが、彼の熱に当てられて、少しだけ和らいでいた。
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