燃えかす少女と蒼炎の君
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夜道は底冷えするほど静かだった。
足音だけがアスファルトの上で響く中、彼を家まで案内する。
「お前、名前は?」
「えっ……?」
唐突に尋ねられて驚いた。
「これから燃やす家のヤツの名前くらい、聞いておこうと思ってな」
「……●●です」
上の名前は言わなくていいよね?
だって、この後に捨てる名字なんだもの。
「アナタの名前は?」
「は?」
自分は私の名前を聞いてきたくせに……。
聞き返されると思っていなかったのか、少し高圧的な反応をされてしまった。
だから私も言い返した。
彼の言葉を借りて。
「これから私の家を燃やす人の名前くらい、聞いておこうと思って」
「フンッ……今は荼毘で通している」
「荼毘……」
「別に覚えなくてもいい」
そうは言うけれど、そんなことできるはずがない。
そうこうしているうちに、家の前に到着した。
「ここです」
「へぇ、立派なところじゃねぇか」
荼毘は肩をすくめて口笛を吹く。
確かに、傍目にはそう映るのかもしれない。
中身は空虚なハリボテなのに。
門灯の明かりが、まるでこの家のうわべだけの明るさを強調している気がした。
そんな偽りの家の最奥にある私の部屋。
いつも1人で火を出す練習していた場所。
もう思い出したくもない。
思い出す必要もない。
だって、これから跡形もなくなるのだから。
「……お願い。燃やして」
「いいんだな?」
荼毘の目がわずかに見開かれる。
「……」
「嫌なら言えよ。今ならまだやめてやってもいい」
どうして、わざわざそんなことを聞くの?
私の決心が揺らがないか確かめているの?
そんなことありえないのに。
「いいから、早く」
「仰せのままに」
荼毘は短く喉で笑いながら、腕を前へ差し出す。
そこから蒼い炎が、夜の闇を焼き破るように家へと伸びていった。
全てを焼き尽くすほど冷酷で、静かで、そして優しい炎。
蒼い炎は容赦なく家を包み込む。
火の粉は夜風に舞い、木材は爆ぜ、窓ガラスが割れ落ちる。
家族は眠っているのか、逃げ出すどころか悲鳴すら聞こえない。
聞こえるのは、パチパチと燃え盛る炎の音だけ。
その光景を私はじっと見つめる。
涙は出なかった。
そんなとき、
「自分の過去を燃やすのは気分がいいだろ?」
荼毘が満足気に尋ねてきた。
それに私は無言で頷く。
建物の原型が分からなくなるにつれ、私の心は少しずつ軽く、そして暖かくなっていく気がした。
それはまるで、燃えかすだった私の中に、小さな火種が宿ったような。
けれど、その余韻はすぐに壊された。
遠くから、けたたましいサイレンの音が近付く。
「チッ、もう来たのか。意外と早かったな」
荼毘は鋭い視線で音のする方角を睨みつけた。
「面倒になる前にずらかるぞ」
「でも……」
「牢屋にぶちこまれたいのか」
「分かった……」
本当は最後まで燃え尽きる様を見届けたかったけれど、どうやら叶わないようだ。
荼毘が私の腕を掴むと、サイレンがする方とは反対の方へ足を進めた。
その途中、私は一瞬だけ家を振り返った。
だけど、そこには元の形を思い出せないほど、変わり果てた黒い物体があるだけ。
バイバイ……。
私は思い出と共に家を燃やしたんだ。
足音だけがアスファルトの上で響く中、彼を家まで案内する。
「お前、名前は?」
「えっ……?」
唐突に尋ねられて驚いた。
「これから燃やす家のヤツの名前くらい、聞いておこうと思ってな」
「……●●です」
上の名前は言わなくていいよね?
だって、この後に捨てる名字なんだもの。
「アナタの名前は?」
「は?」
自分は私の名前を聞いてきたくせに……。
聞き返されると思っていなかったのか、少し高圧的な反応をされてしまった。
だから私も言い返した。
彼の言葉を借りて。
「これから私の家を燃やす人の名前くらい、聞いておこうと思って」
「フンッ……今は荼毘で通している」
「荼毘……」
「別に覚えなくてもいい」
そうは言うけれど、そんなことできるはずがない。
そうこうしているうちに、家の前に到着した。
「ここです」
「へぇ、立派なところじゃねぇか」
荼毘は肩をすくめて口笛を吹く。
確かに、傍目にはそう映るのかもしれない。
中身は空虚なハリボテなのに。
門灯の明かりが、まるでこの家のうわべだけの明るさを強調している気がした。
そんな偽りの家の最奥にある私の部屋。
いつも1人で火を出す練習していた場所。
もう思い出したくもない。
思い出す必要もない。
だって、これから跡形もなくなるのだから。
「……お願い。燃やして」
「いいんだな?」
荼毘の目がわずかに見開かれる。
「……」
「嫌なら言えよ。今ならまだやめてやってもいい」
どうして、わざわざそんなことを聞くの?
私の決心が揺らがないか確かめているの?
そんなことありえないのに。
「いいから、早く」
「仰せのままに」
荼毘は短く喉で笑いながら、腕を前へ差し出す。
そこから蒼い炎が、夜の闇を焼き破るように家へと伸びていった。
全てを焼き尽くすほど冷酷で、静かで、そして優しい炎。
蒼い炎は容赦なく家を包み込む。
火の粉は夜風に舞い、木材は爆ぜ、窓ガラスが割れ落ちる。
家族は眠っているのか、逃げ出すどころか悲鳴すら聞こえない。
聞こえるのは、パチパチと燃え盛る炎の音だけ。
その光景を私はじっと見つめる。
涙は出なかった。
そんなとき、
「自分の過去を燃やすのは気分がいいだろ?」
荼毘が満足気に尋ねてきた。
それに私は無言で頷く。
建物の原型が分からなくなるにつれ、私の心は少しずつ軽く、そして暖かくなっていく気がした。
それはまるで、燃えかすだった私の中に、小さな火種が宿ったような。
けれど、その余韻はすぐに壊された。
遠くから、けたたましいサイレンの音が近付く。
「チッ、もう来たのか。意外と早かったな」
荼毘は鋭い視線で音のする方角を睨みつけた。
「面倒になる前にずらかるぞ」
「でも……」
「牢屋にぶちこまれたいのか」
「分かった……」
本当は最後まで燃え尽きる様を見届けたかったけれど、どうやら叶わないようだ。
荼毘が私の腕を掴むと、サイレンがする方とは反対の方へ足を進めた。
その途中、私は一瞬だけ家を振り返った。
だけど、そこには元の形を思い出せないほど、変わり果てた黒い物体があるだけ。
バイバイ……。
私は思い出と共に家を燃やしたんだ。
