姿形が変わっていようとも
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あれから年月が経ち、私は社会人になった。
特に個性を活かすでもなく、普通の事務員。
今日もなんの変哲もない日常を送る。
だけど、平穏はあまりにも呆気なく崩れ去る。
働いているビルに、激しい振動と爆鳴が襲った。
気が付いたときには、私は暗闇の中にいた。
「うっ……あ、が……」
右足はコンクリートの様な硬いもので押し付けられていて、身動きが取れない。
瓦礫の破片が入ったのか、目もうまく開けられない。
……私、このまま誰にも見つけてもらえずに死ぬのかな。
薄れゆく意識の中で、ふと思い出す。
彼の死から何年も経ち、思い出さなくなるくらいには傷は癒えたはずなのに。
あの日、真っ白な花が生けられていた、想い人の机を。
あの世に行けば、燈矢君と同じところに行けるかな。
それも悪くないかも……。
それか、もし彼が生きていたら……。
もし彼が、あの日夢に描いた理想通りヒーローになっていたなら。
この絶望の中から私を救い出してくれただろうか。
「ふっ……、あは……」
死を目前にして、思わず笑みが溢れた。
その時、瓦礫を平然と踏み越える足音が聞こえた。
「何笑ってんだ」
低く、掠れた男の声。
ヒーローではない。
ましてや、同じ被害者の怯えを含んだ声でもない。
そうなれば、残された候補はヴィランのみ。
この際、誰でもよかった。
だけど、答えようにも乾いた喉は音をなさない。
ただ、パクパクと口が動くのみ。
すると、男が近付いてきた。
その瞬間、私の『超嗅覚』が狂ったように反応した。
鼻を突くのは、焦げた肉と腐敗臭。
その臭いに混ざって、太陽みたいな温かい匂いが鼻をくすぐった。
かつて、私が好きになったあの人の、あの匂い。
でも、そんなはずはない。
だって、燈矢君は……。
「助けてほしいか?」
無慈悲な問いかけ。
それよりも確認したいことがあった。
目が見えるなら、今すぐ瞼を抉じ開けて、その正体を暴きたい。
あなたは誰?
どうして、死んだはずの彼と同じ匂いがするの?
「燈矢……君……?」
絞り出したその名は、あまりにも場違いだったはずだ。
彼は死んだのだから……。
だけど、男の呼吸がわずかに乱れた。
やがて、男は無言で私を押し潰していた瓦礫を退かした。
「名前、今は荼毘で通している」
「だ……び……」
「お前がここから生き延びることができたら、俺を探せばいい」
突き放すような言い方。
だけど、その言葉にはどこか、私と彼を繋ぎ止めようとしているようにも思えた。
男が背を向け、去ろうとする。
その去り際。
「またな、●●ちゃん」
囁かれた私の名前。
それは、死者の復活を知らせるものだった。
皮肉なことだ。
彼はヒーローではなく、ヴィランとして私の前に現れた。
だけど、溢れ出した涙は悲しみによるものではない。
立ち込める炎の中、私は生きる意志を取り戻した。
待っていて、燈矢君。
どんな暗闇の中でも、私はアナタの匂いを絶対に見つけ出すから。
たとえ、姿形が変わっていようとも。
ーーFinーー
特に個性を活かすでもなく、普通の事務員。
今日もなんの変哲もない日常を送る。
だけど、平穏はあまりにも呆気なく崩れ去る。
働いているビルに、激しい振動と爆鳴が襲った。
気が付いたときには、私は暗闇の中にいた。
「うっ……あ、が……」
右足はコンクリートの様な硬いもので押し付けられていて、身動きが取れない。
瓦礫の破片が入ったのか、目もうまく開けられない。
……私、このまま誰にも見つけてもらえずに死ぬのかな。
薄れゆく意識の中で、ふと思い出す。
彼の死から何年も経ち、思い出さなくなるくらいには傷は癒えたはずなのに。
あの日、真っ白な花が生けられていた、想い人の机を。
あの世に行けば、燈矢君と同じところに行けるかな。
それも悪くないかも……。
それか、もし彼が生きていたら……。
もし彼が、あの日夢に描いた理想通りヒーローになっていたなら。
この絶望の中から私を救い出してくれただろうか。
「ふっ……、あは……」
死を目前にして、思わず笑みが溢れた。
その時、瓦礫を平然と踏み越える足音が聞こえた。
「何笑ってんだ」
低く、掠れた男の声。
ヒーローではない。
ましてや、同じ被害者の怯えを含んだ声でもない。
そうなれば、残された候補はヴィランのみ。
この際、誰でもよかった。
だけど、答えようにも乾いた喉は音をなさない。
ただ、パクパクと口が動くのみ。
すると、男が近付いてきた。
その瞬間、私の『超嗅覚』が狂ったように反応した。
鼻を突くのは、焦げた肉と腐敗臭。
その臭いに混ざって、太陽みたいな温かい匂いが鼻をくすぐった。
かつて、私が好きになったあの人の、あの匂い。
でも、そんなはずはない。
だって、燈矢君は……。
「助けてほしいか?」
無慈悲な問いかけ。
それよりも確認したいことがあった。
目が見えるなら、今すぐ瞼を抉じ開けて、その正体を暴きたい。
あなたは誰?
どうして、死んだはずの彼と同じ匂いがするの?
「燈矢……君……?」
絞り出したその名は、あまりにも場違いだったはずだ。
彼は死んだのだから……。
だけど、男の呼吸がわずかに乱れた。
やがて、男は無言で私を押し潰していた瓦礫を退かした。
「名前、今は荼毘で通している」
「だ……び……」
「お前がここから生き延びることができたら、俺を探せばいい」
突き放すような言い方。
だけど、その言葉にはどこか、私と彼を繋ぎ止めようとしているようにも思えた。
男が背を向け、去ろうとする。
その去り際。
「またな、●●ちゃん」
囁かれた私の名前。
それは、死者の復活を知らせるものだった。
皮肉なことだ。
彼はヒーローではなく、ヴィランとして私の前に現れた。
だけど、溢れ出した涙は悲しみによるものではない。
立ち込める炎の中、私は生きる意志を取り戻した。
待っていて、燈矢君。
どんな暗闇の中でも、私はアナタの匂いを絶対に見つけ出すから。
たとえ、姿形が変わっていようとも。
ーーFinーー
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