これはきっと花粉症のせい
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ーーおまけ(田中side)ーー
キュッキュッと、体育館の床にバッシュが擦れる音が響く。
いつも通りの激しい練習の最中、俺はボールを拾うフリをして、ふと外の景色に視線をやった。
夕暮れ時のグラウンド。
オレンジ色に染まり始めた校門に向かって、トボトボと歩いていく小さな後ろ姿が、ぽつんと見えた。
「……よし、ちゃんと帰ったな」
俺の言いつけをしっかり守って、部活を休んで病院へ向かう◯◯の姿を見て、胸の奥で小さく安堵の息を漏らした。
数日前の夜のことを思い出す。
リビングでテレビをつけると、たまたま花粉症特集がやっていた。
脳裏に浮かぶのは、涙目になりながら鼻をすすっている◯◯の顔。
普段ならチャンネルを変えるかスマホをいじり出すような内容なのに、気が付けば画面を食い入るように見つめていた。
『────そこで、手軽に対策できるのがヨーグルトなんです!』
テレビのナレーターがそんな声をあげる。
「へえ、ヨーグルトがいいんだ……」
独り言のように小さく呟いたつもりだった。
だが、その瞬間、背後から強烈な気配を感じる。
「アンタ花粉症じゃないのに、やたら熱心に見てるわね。……あ、さては女の子のためね?」
ビールの缶を片手にした姉貴が、ニヤニヤしながら俺の脇腹を小突いてきた。
「痛っ!……るせぇ、なんでもいいだろ!」
慌てて顔を背けたものの、耳まで一気に熱くなるのが自分でも分かった。
「おーおー、青春だねぇ!」
「もう、あっち行けって!」
冷やかされてめちゃくちゃ恥ずかしかったけれど、俺はリモコンを握りしめたまま、乳酸菌だとかビフィズス菌の情報を、必死になって頭の中にメモした。
その翌日、意気揚々と購買でヨーグルトを買うまではよかったが、教室で手渡す頃には、緊張のあまり「いらねぇか」なんてつい素っ気なく言っちまった。
だけど、喜んで受け取ってくれたのが嬉しかった。
それなのに、少しは効くどころか、風邪まで併発しちまうなんてな……。
アイツは「風邪なんてそのうち治る」なんて簡単に言って笑っていたけれど、俺は全然笑えなかった。
頭をよぎるのは、2年の春高準々決勝のコートだ。
あの日、日向が発熱し、試合の途中で強制退場させられた。
コートを去る日向の背中と、もっと早くアイツの不調に気付いてやれたら、という強烈な後悔。
あんな思いは、俺だって、他の誰だって、もう二度と御免だ。
だからこそ、◯◯が花粉症と偽り風邪を甘く見ているのを、どうしても見過ごせなかった。
体調不良ってやつを、絶対に侮っちゃいけないんだ。
「……にしても」
ボールを小脇に抱え、パシッと叩く。
脳裏に焼き付いて離れないのは、朝の◯◯の顔だ。
いつもなら俺の軽口に生意気に言い返してくるクセに、今日のアイツは明らかに元気がなかった。
風邪のせいか、それとも鼻が詰まっているせいか、いつもよりトロンと潤んだ瞳。
少し赤くなった耳たぶ。
それに、鼻声のせいで、おねだりでもされているみたいに甘ったるく響いた「ありがとう」の声。
「っ、あークソっ!何考えてんだ俺は!」
ブンブンと首を振って、急激に熱くなっていく自分の顔を誤魔化すように、わざと大きな声を張り上げた。
アイツが風邪を引いて弱っているっていうのに、不覚にも、いつもより何倍も色っぽく見えちまったなんて、口が裂けても本人には言えねぇ。
「おい田中!何1人で顔赤くして騒いでんだ。集中しろ!」
「なんだ、龍!エロいことでも考えてたのか!?」
「え、縁下……。ノヤさん……。そ、そんなんじゃねぇよ!さあ、練習練習!」
ジロジロと見てくる仲間たちの視線から逃げるように、俺はいつも以上の力で床を蹴り跳んだ。
空中でボールをひっぱたきながらも、俺の頭の中は、今さっき校門を出ていった◯◯のことで完全にいっぱいになっていた。
キュッキュッと、体育館の床にバッシュが擦れる音が響く。
いつも通りの激しい練習の最中、俺はボールを拾うフリをして、ふと外の景色に視線をやった。
夕暮れ時のグラウンド。
オレンジ色に染まり始めた校門に向かって、トボトボと歩いていく小さな後ろ姿が、ぽつんと見えた。
「……よし、ちゃんと帰ったな」
俺の言いつけをしっかり守って、部活を休んで病院へ向かう◯◯の姿を見て、胸の奥で小さく安堵の息を漏らした。
数日前の夜のことを思い出す。
リビングでテレビをつけると、たまたま花粉症特集がやっていた。
脳裏に浮かぶのは、涙目になりながら鼻をすすっている◯◯の顔。
普段ならチャンネルを変えるかスマホをいじり出すような内容なのに、気が付けば画面を食い入るように見つめていた。
『────そこで、手軽に対策できるのがヨーグルトなんです!』
テレビのナレーターがそんな声をあげる。
「へえ、ヨーグルトがいいんだ……」
独り言のように小さく呟いたつもりだった。
だが、その瞬間、背後から強烈な気配を感じる。
「アンタ花粉症じゃないのに、やたら熱心に見てるわね。……あ、さては女の子のためね?」
ビールの缶を片手にした姉貴が、ニヤニヤしながら俺の脇腹を小突いてきた。
「痛っ!……るせぇ、なんでもいいだろ!」
慌てて顔を背けたものの、耳まで一気に熱くなるのが自分でも分かった。
「おーおー、青春だねぇ!」
「もう、あっち行けって!」
冷やかされてめちゃくちゃ恥ずかしかったけれど、俺はリモコンを握りしめたまま、乳酸菌だとかビフィズス菌の情報を、必死になって頭の中にメモした。
その翌日、意気揚々と購買でヨーグルトを買うまではよかったが、教室で手渡す頃には、緊張のあまり「いらねぇか」なんてつい素っ気なく言っちまった。
だけど、喜んで受け取ってくれたのが嬉しかった。
それなのに、少しは効くどころか、風邪まで併発しちまうなんてな……。
アイツは「風邪なんてそのうち治る」なんて簡単に言って笑っていたけれど、俺は全然笑えなかった。
頭をよぎるのは、2年の春高準々決勝のコートだ。
あの日、日向が発熱し、試合の途中で強制退場させられた。
コートを去る日向の背中と、もっと早くアイツの不調に気付いてやれたら、という強烈な後悔。
あんな思いは、俺だって、他の誰だって、もう二度と御免だ。
だからこそ、◯◯が花粉症と偽り風邪を甘く見ているのを、どうしても見過ごせなかった。
体調不良ってやつを、絶対に侮っちゃいけないんだ。
「……にしても」
ボールを小脇に抱え、パシッと叩く。
脳裏に焼き付いて離れないのは、朝の◯◯の顔だ。
いつもなら俺の軽口に生意気に言い返してくるクセに、今日のアイツは明らかに元気がなかった。
風邪のせいか、それとも鼻が詰まっているせいか、いつもよりトロンと潤んだ瞳。
少し赤くなった耳たぶ。
それに、鼻声のせいで、おねだりでもされているみたいに甘ったるく響いた「ありがとう」の声。
「っ、あークソっ!何考えてんだ俺は!」
ブンブンと首を振って、急激に熱くなっていく自分の顔を誤魔化すように、わざと大きな声を張り上げた。
アイツが風邪を引いて弱っているっていうのに、不覚にも、いつもより何倍も色っぽく見えちまったなんて、口が裂けても本人には言えねぇ。
「おい田中!何1人で顔赤くして騒いでんだ。集中しろ!」
「なんだ、龍!エロいことでも考えてたのか!?」
「え、縁下……。ノヤさん……。そ、そんなんじゃねぇよ!さあ、練習練習!」
ジロジロと見てくる仲間たちの視線から逃げるように、俺はいつも以上の力で床を蹴り跳んだ。
空中でボールをひっぱたきながらも、俺の頭の中は、今さっき校門を出ていった◯◯のことで完全にいっぱいになっていた。
4/4ページ
