これはきっと花粉症のせい
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数日後の朝。
教室の様子はいつもと変わらないはずなのに、私の視界は、フィルターがかかったようにぼんやり霞んで見える。
「……はっくしゅ。……んん゛っ、けほっ」
いつものくしゃみの後に、嫌な咳が続いた。
「なあ」
頭上から降ってきた低い声に、私は視線を向けた。
そこには、いつもより深く眉間に皺を寄せた田中が、私の顔をじっと覗き込んでいる。
「……何?ティッシュなら、ほら、まだあるから大丈夫だよ」
私は、机のフックにぶら下げた箱ティッシュと、ゴミ袋代わりにしているコンビニのビニール袋を指差した。
「そうじゃなくて……。本当にそれ、花粉症だけか?」
「何をいまさら。この時期に私がこれ以外の理由で鼻を垂らすワケないじゃない」
強がってみるものの、声に覇気が出ない。
「いや……◯◯、お前……風邪も引いてんじゃねぇかっと思って」
田中の言葉に、私は自分の体調を改めて確認してみた。
言われてみれば、確かにおかしい……。
数日前までサラサラした水みたいな質感の鼻水が、今はねっとりと粘度を増している。
色も、透明からなんだか怪しい緑色に変わり始めた。
それに、喉の奥の不快感。
花粉症特有のイガイガとは違い、唾を飲み込むたびにズキッと痛む。
いつの間にか、花粉症の症状に風邪が混ざり込んでいたのだ。
「……まあ、だとしても鼻が詰まってるのは同じだし。そのうち風邪も花粉症も、まとめて一緒に治るでしょう」
乾いた笑みを浮かべ、自分に言い聞かせるように返してみる。
すると、田中はあからさまに呆れ果てた顔をした。
「風邪なめんなよ。悪化したらどうすんだ」
いつもおちゃらけている田中のトーンが、今はひどく真剣だ。
私はその気恥ずかしさを誤魔化すように、少しだけ意地悪く笑ってみせた。
「……何よ。もしかして田中、私のこと心配してくれてるの?」
普段なら「んなワケねぇだろ、自意識過剰!」と言って、大笑いしながらはぐらかすはずの彼。
そんな田中が、一瞬、バツの悪そうな顔をして視線を逸らす。
「……心配して、悪いかよ」
ぶっきらぼうに投げられたその言葉が、私の耳に残る。
田中は自分の鞄を漁ると、未開封のスポーツドリンクを私の机に置いた。
「それ飲んで、水分補給しろ。……あと、今日の部活はもう休んで帰れ。んで、その足ですぐに病院行け。分かったか?」
騒がしいだけの同級生のはずなのに、こんな時だけまともなことを言うから、何も言い返せなくなってしまう。
「……うん、分かった。ありがとう、田中」
ペットボトルのひんやりした結露を、熱い頬に押し当てる。
鼻が詰まっているせいで、自分の声がずいぶん鼻にかかった、甘えたような響きになってしまった気がして、私は慌てて視線を机の上に落とした。
ーーFinーー
教室の様子はいつもと変わらないはずなのに、私の視界は、フィルターがかかったようにぼんやり霞んで見える。
「……はっくしゅ。……んん゛っ、けほっ」
いつものくしゃみの後に、嫌な咳が続いた。
「なあ」
頭上から降ってきた低い声に、私は視線を向けた。
そこには、いつもより深く眉間に皺を寄せた田中が、私の顔をじっと覗き込んでいる。
「……何?ティッシュなら、ほら、まだあるから大丈夫だよ」
私は、机のフックにぶら下げた箱ティッシュと、ゴミ袋代わりにしているコンビニのビニール袋を指差した。
「そうじゃなくて……。本当にそれ、花粉症だけか?」
「何をいまさら。この時期に私がこれ以外の理由で鼻を垂らすワケないじゃない」
強がってみるものの、声に覇気が出ない。
「いや……◯◯、お前……風邪も引いてんじゃねぇかっと思って」
田中の言葉に、私は自分の体調を改めて確認してみた。
言われてみれば、確かにおかしい……。
数日前までサラサラした水みたいな質感の鼻水が、今はねっとりと粘度を増している。
色も、透明からなんだか怪しい緑色に変わり始めた。
それに、喉の奥の不快感。
花粉症特有のイガイガとは違い、唾を飲み込むたびにズキッと痛む。
いつの間にか、花粉症の症状に風邪が混ざり込んでいたのだ。
「……まあ、だとしても鼻が詰まってるのは同じだし。そのうち風邪も花粉症も、まとめて一緒に治るでしょう」
乾いた笑みを浮かべ、自分に言い聞かせるように返してみる。
すると、田中はあからさまに呆れ果てた顔をした。
「風邪なめんなよ。悪化したらどうすんだ」
いつもおちゃらけている田中のトーンが、今はひどく真剣だ。
私はその気恥ずかしさを誤魔化すように、少しだけ意地悪く笑ってみせた。
「……何よ。もしかして田中、私のこと心配してくれてるの?」
普段なら「んなワケねぇだろ、自意識過剰!」と言って、大笑いしながらはぐらかすはずの彼。
そんな田中が、一瞬、バツの悪そうな顔をして視線を逸らす。
「……心配して、悪いかよ」
ぶっきらぼうに投げられたその言葉が、私の耳に残る。
田中は自分の鞄を漁ると、未開封のスポーツドリンクを私の机に置いた。
「それ飲んで、水分補給しろ。……あと、今日の部活はもう休んで帰れ。んで、その足ですぐに病院行け。分かったか?」
騒がしいだけの同級生のはずなのに、こんな時だけまともなことを言うから、何も言い返せなくなってしまう。
「……うん、分かった。ありがとう、田中」
ペットボトルのひんやりした結露を、熱い頬に押し当てる。
鼻が詰まっているせいで、自分の声がずいぶん鼻にかかった、甘えたような響きになってしまった気がして、私は慌てて視線を机の上に落とした。
ーーFinーー
