これはきっと花粉症のせい
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朝、田中からティッシュを貰ってから数時間。
長い長い午前中の授業が終わり、ようやく迎えたお昼休み。
私は鞄からお弁当箱を取り出し、パカッと蓋を開けた。
中には、母が作ってくれた色鮮やかなおかずが並んでいるけれど、鼻が完全に詰まりきっている私には、その美味しそうな匂いが一切届かない。
「……はぁ。やっぱり、味、分かんないや」
ポツリと溢れた落胆の呟き。
卵焼きを口に運んでも、ただの柔らかい固形物を噛んでいるような感覚。
大好きな唐揚げでさえ、カリカリの何かを噛んでいるような味気なさだ。
記憶で味を補完しながら咀嚼するけれど、ただただ虚しいだけだった。
あまりの悔しさに、私は一旦箸を置き、鼻をかんでリセットすることを決意した。
制服のポケットから、朝、田中に貰ったポケットティッシュを引っ張り出す。
だけど、指先に触れたその厚みは薄く、心許なかった。
残りはあと2、3枚といったところか。
明日からは箱ティッシュをまるごと持ってこないと……。
そんなことを考えていると、ことりとお弁当箱のすぐ隣に、小さなプラスチックの容器が置かれた。
青と白のパッケージ。
購買のデザートコーナーでよく見かける、市販のヨーグルトだ。
驚いて顔を上げると、そこには少し気恥ずかしそうに首の後ろを掻いている田中が立っていた。
「……何、これ?」
「何って、見りゃ分かんだろ。ヨーグルトだよ」
田中はぶっきらぼうに言った。
「いや、それは分かるけど……どうしたの?」
「あー……いや。昨日見たテレビで、ヨーグルトに含まれる成分……乳酸菌?が花粉症に効くってやってたから。ほら、差し入れ」
赤点常習犯の田中からは、想像もつかないような豆知識。
私は思わず、フッと口元を緩めた。
「田中が知ってるようなこと、私が知らないワケないじゃん。毎朝食べてるよ」
「……あ?なんだよ、知ってたのか。じゃあ、いらねぇか」
図星を突かれてバツが悪そうに、田中がヨーグルトに手を伸ばしかける。
私は慌てて、その容器を両手で包み込むようにして手元に引き寄せた。
「……いる。いるよ。ありがとう、田中」
「……おう、食え」
田中は少しだけ耳を赤くして、フイッと顔を背けると、自分の席へと戻っていった。
アルミの蓋を剥がすと、微かに酸味のある、冷たい匂いがしたような気がした。
スプーンですくって口に含む。
つるんとした喉越しと、ほのかな甘み。
もちろん鼻が詰まっているせいで、味覚は曖昧だ。
それでも、田中の不器用な優しさが嬉しかった。
これで、本当に治ったりして……。
だけど、この時の私はまだ知らなかった。
私の体の中では、自分でも気付かないうちに、さらに悪い方向へと向かっていることを。
長い長い午前中の授業が終わり、ようやく迎えたお昼休み。
私は鞄からお弁当箱を取り出し、パカッと蓋を開けた。
中には、母が作ってくれた色鮮やかなおかずが並んでいるけれど、鼻が完全に詰まりきっている私には、その美味しそうな匂いが一切届かない。
「……はぁ。やっぱり、味、分かんないや」
ポツリと溢れた落胆の呟き。
卵焼きを口に運んでも、ただの柔らかい固形物を噛んでいるような感覚。
大好きな唐揚げでさえ、カリカリの何かを噛んでいるような味気なさだ。
記憶で味を補完しながら咀嚼するけれど、ただただ虚しいだけだった。
あまりの悔しさに、私は一旦箸を置き、鼻をかんでリセットすることを決意した。
制服のポケットから、朝、田中に貰ったポケットティッシュを引っ張り出す。
だけど、指先に触れたその厚みは薄く、心許なかった。
残りはあと2、3枚といったところか。
明日からは箱ティッシュをまるごと持ってこないと……。
そんなことを考えていると、ことりとお弁当箱のすぐ隣に、小さなプラスチックの容器が置かれた。
青と白のパッケージ。
購買のデザートコーナーでよく見かける、市販のヨーグルトだ。
驚いて顔を上げると、そこには少し気恥ずかしそうに首の後ろを掻いている田中が立っていた。
「……何、これ?」
「何って、見りゃ分かんだろ。ヨーグルトだよ」
田中はぶっきらぼうに言った。
「いや、それは分かるけど……どうしたの?」
「あー……いや。昨日見たテレビで、ヨーグルトに含まれる成分……乳酸菌?が花粉症に効くってやってたから。ほら、差し入れ」
赤点常習犯の田中からは、想像もつかないような豆知識。
私は思わず、フッと口元を緩めた。
「田中が知ってるようなこと、私が知らないワケないじゃん。毎朝食べてるよ」
「……あ?なんだよ、知ってたのか。じゃあ、いらねぇか」
図星を突かれてバツが悪そうに、田中がヨーグルトに手を伸ばしかける。
私は慌てて、その容器を両手で包み込むようにして手元に引き寄せた。
「……いる。いるよ。ありがとう、田中」
「……おう、食え」
田中は少しだけ耳を赤くして、フイッと顔を背けると、自分の席へと戻っていった。
アルミの蓋を剥がすと、微かに酸味のある、冷たい匂いがしたような気がした。
スプーンですくって口に含む。
つるんとした喉越しと、ほのかな甘み。
もちろん鼻が詰まっているせいで、味覚は曖昧だ。
それでも、田中の不器用な優しさが嬉しかった。
これで、本当に治ったりして……。
だけど、この時の私はまだ知らなかった。
私の体の中では、自分でも気付かないうちに、さらに悪い方向へと向かっていることを。
