幸せの重み
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春休みが明け、桜が散り始めた。
始業式が終わったばかりの教室には、浮ついた空気など微塵もない。
配られた進路希望調査という1枚の白い紙が、私たちに現実を突きつける。
昨年は同じクラスだった夕とも、今年は離れてしまった。
私は自分の白紙の調査票を握りしめ、彼のクラスへと向かった。
「夕ー?」
教室の引き戸を開けた瞬間、風を切る音と怒号が聞こえた。
「よっしゃあ!ローリング・サンダー・ホームラン!!」
「うおっ、危ねぇ!」
見れば、夕が箒をフルスイングし、男子生徒が投げた雑巾の玉を完璧に捉えたところだった。
汚れた塊が、恐ろしい速度で私の顔のすぐ横をすり抜けていく。
「うああっ!?」
場所が悪ければ顔面に食らっていたかもしれない。
「おう、●●!どうした!」
夕は箒を杖のようにつき、太陽のような屈託のない笑顔で私を呼んだ。
額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
「どうしたじゃないでしょ!こんなところで野球してたら危ないって!」
「ワハハっ!悪い悪い!」
絶対に反省していない。
私は軽く咳払いをしてから、当初の聞きたかったことを尋ねた。
「夕はさ、進路どうするの?」
進路希望調査の紙をヒラヒラと見せる。
地元か、都会か。
あるいは就職か。
学力の差は分かっている。
だけど、少しでも彼の近くにいたいと思っていた。
それなのに、夕の口から飛び出したのは、意外な言葉だった。
「旅人」
「……旅人?!」
耳慣れない言葉に、思考が停止する。
旅人ってあの各地を旅する人……のことよね。
「ふざけてるの?そんな職業、進路調査に書けないよ」
呆れを含めて返した私に、夕は真剣そのものの眼差しを向けた。
「至って真面目だ!俺、世界一周してぇんだよ!そんで、色んなもんを目に焼き付け、肌に感じさせたい!」
その瞳は、もっとずっと遠く、水平線の先を見つめているようだった。
嘘じゃない。
この人は本気で、私の手の届かない場所へ行こうとしている。
せっかく付き合えたのに、1年後には遠距離恋愛が待ち構えているなんて。
いや、卒業と同時、もしくはそれより前に別れる可能性だってある。
だけど、もし付き合い続ける未来があるとしたら……。
私が行かないでって言ったらどうする?
諦めてくれる?
それとも呆れる?
付き合っているとは言え、今はまだそんなことを言える勇気が私にはなかった。
……。
…………。
その後、自分の教室へ戻ったけれど、私の頭の中は夕の進路のことでいっぱいだった。
「夕が旅人……」
ダメだ、頭が回らない。
私はどうしたいのだろう。
確実に言えることと言えば、別れたくない。
ただ、それだけだ。
始業式が終わったばかりの教室には、浮ついた空気など微塵もない。
配られた進路希望調査という1枚の白い紙が、私たちに現実を突きつける。
昨年は同じクラスだった夕とも、今年は離れてしまった。
私は自分の白紙の調査票を握りしめ、彼のクラスへと向かった。
「夕ー?」
教室の引き戸を開けた瞬間、風を切る音と怒号が聞こえた。
「よっしゃあ!ローリング・サンダー・ホームラン!!」
「うおっ、危ねぇ!」
見れば、夕が箒をフルスイングし、男子生徒が投げた雑巾の玉を完璧に捉えたところだった。
汚れた塊が、恐ろしい速度で私の顔のすぐ横をすり抜けていく。
「うああっ!?」
場所が悪ければ顔面に食らっていたかもしれない。
「おう、●●!どうした!」
夕は箒を杖のようにつき、太陽のような屈託のない笑顔で私を呼んだ。
額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
「どうしたじゃないでしょ!こんなところで野球してたら危ないって!」
「ワハハっ!悪い悪い!」
絶対に反省していない。
私は軽く咳払いをしてから、当初の聞きたかったことを尋ねた。
「夕はさ、進路どうするの?」
進路希望調査の紙をヒラヒラと見せる。
地元か、都会か。
あるいは就職か。
学力の差は分かっている。
だけど、少しでも彼の近くにいたいと思っていた。
それなのに、夕の口から飛び出したのは、意外な言葉だった。
「旅人」
「……旅人?!」
耳慣れない言葉に、思考が停止する。
旅人ってあの各地を旅する人……のことよね。
「ふざけてるの?そんな職業、進路調査に書けないよ」
呆れを含めて返した私に、夕は真剣そのものの眼差しを向けた。
「至って真面目だ!俺、世界一周してぇんだよ!そんで、色んなもんを目に焼き付け、肌に感じさせたい!」
その瞳は、もっとずっと遠く、水平線の先を見つめているようだった。
嘘じゃない。
この人は本気で、私の手の届かない場所へ行こうとしている。
せっかく付き合えたのに、1年後には遠距離恋愛が待ち構えているなんて。
いや、卒業と同時、もしくはそれより前に別れる可能性だってある。
だけど、もし付き合い続ける未来があるとしたら……。
私が行かないでって言ったらどうする?
諦めてくれる?
それとも呆れる?
付き合っているとは言え、今はまだそんなことを言える勇気が私にはなかった。
……。
…………。
その後、自分の教室へ戻ったけれど、私の頭の中は夕の進路のことでいっぱいだった。
「夕が旅人……」
ダメだ、頭が回らない。
私はどうしたいのだろう。
確実に言えることと言えば、別れたくない。
ただ、それだけだ。
