幸せの重み
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〜幸せの重み〜
私の想い人、西谷夕の視線の先には、いつも1人の女性が映っていた。
烏野高校の誇る美人な先輩、清水潔子さん。
同じ学年の田中龍之介と2人、騒がしく彼女を追いかけ回す背中を、私は何度見てきただろうか。
そんな夕が、今、私の部屋にいる。
“同級生”から“彼氏”という肩書きに変わって。
だけど、私の心にはまだ不安が残っていた。
「本当によかったの?」
私は膝を抱えたまま、唐突に問いかけた。
「んあ?何がだ?」
床に座り込んだ夕は、手慣れた手つきでバレーボールを磨いている。
キュッキュッという摩擦音が部屋に響く。
彼は視線をボールに向けたまま返事をした。
「清水先輩のこと。……あんなに、好きだったのに」
磨く手が、一瞬だけ止まる。
「ああ、そんなことか。前も言っただろ、潔子さんは今でも素敵な人だ。だがな、俺が認めた男と付き合うことになったんだ。そこに口を挟むような野暮な真似はしねぇよ」
夕は顔を上げ、カラリとした笑顔を向けた。
その瞳に曇りはない。
清水先輩が高校卒業後すぐに田中君と付き合い始めたことで、夕は失恋した。
傷心の彼を見て「今しかない」と縋るように告白した私だったけれど、驚いたことに、彼はその場ですんなりと私の想いを受け入れた。
私と夕は付き合っている。
それは事実だ。
だけど、夕の口から一度も「好きだ」という言葉を聞いたことはない。
清水先輩にはあれほど情熱的に愛を叫んでいたのに。
私に向けるのは、親友や相棒に向けるような好意だけ。
……私への同情か、ただの寂しさを埋めるためなのか。
それとも、口では問題ないと言いつつ、やはりまだ先輩のことが好きなのか。
そんなネガティブな思考が頭をグルグルと駆け回る。
「そんなことより、公園かどっかでバレーしようぜ!」
私の葛藤を知らず、夕は勢いよく立ち上がった。
今日も今日とて彼はバレーのことばかり。
「私、バレー下手だよ」
精一杯の拗ねたような声も、彼には届かない。
「その方が練習になるからいいんだよ」
夕は磨き上げたボールを小脇に抱え、不敵に笑う。
「行くぞ」
私は小さくため息を吐いた。
本当にこの人は、恋愛の「れ」の字も持ち合わせていない。
バレー一筋で、自由人。
そんな彼に惹かれたのは自分自身なのに。
「着替えるから玄関で待ってて」
「おう、急げよ!」
嵐が去るように夕が部屋を出ていく。
1人残された私は、姿見の前に立った。
今日のために新調した、パステルカラーの柔らかなスカート。
「バカみたい……」
鏡の中の私は、泣きそうな顔をしていた。
この服について触れてほしかった。
「似合ってる」とか「可愛いね」とか。
練習相手じゃなくて、女の子として見てほしかった。
私は少しだけ悲しい気持ちになりながらも、動きやすい格好に着替え、彼の待つ玄関へ向かった。
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