アリサに頼まれて時間があるときはリエーフのお世話をしていたけど、ここ最近は避けて家に行っていない。

行かなくなったのには理由がある。
それは先日のこと。

残業になりそうな日にリエーフに行けない旨を伝えたらご飯を用意しておくから、遅くなっても来てほしいと言われた。
仕方ないと思いつつもどこか喜んでいる自分。

だけど、いざリエーフの住んでいるマンションに行き、インターフォンを鳴らしてドアを開くのを待っていると、出迎えてくれたのは美人な女性だった。

おそらくモデル仲間の方だろう。
その人は私を上から下まで吟味するように見たかと思えば、


「あなた、リエーフの家政婦さん？」


と、鼻で笑わらわれてしまった。

間違いではない。間違いではないど、これ以上リエーフの側にいてはいけないと思った。
彼の側には彼女みたいな美人さんが相応しい。

だから、その日はリエーフに会わずにそのまま帰って来た。
帰宅してからスマホを見ると、


“まだ残業中ですか？”

“あと、どのくらいかかりますか？”

“迎えに行きましょうか？”

“倒れていませんか？”

“心配です、連絡下さい”


と鬼のようにメッセージが来ていたのを、


“しばらく会えなくなった”


とだけ送って、それ以降無視。

そして今に至る。

休みの日にも行かないなんて久しぶりすぎて、手持ち無沙汰。

そんなときインターフォンが鳴った。


「はい、はーい」


何も考えずにドアを開けると、そこにはリエーフの姿が。


「リエーフ……」

「●●さん！最近なんで家に来てくれないんすか！」

「え、いや、だって……」


まさかリエーフの方から家に来るなんて。


「モデルの家に出入りしているなんて、週刊誌に取り上げられたくないし」


なんてもっともらしい建前を言った。

本当の理由なんて言えるわけないじゃん。
美人な女性に嫉妬したって。

自分がリエーフに相応しくないって言われているみたいで、惨めで、情けなくて。


「もう子供じゃないんだし、私がいなくてもなんとかなるでしょ？私は私で社会人になって慣れない仕事に必死だし」


一人暮らしを始めたとは言え、洗濯なんてボタン一つ、ご飯だって宅配やテイクアウトがある。
なんでも便利な世の中になった。


「世話とかじゃなくて、俺が●●さんに会いたいの！●●さんのことが好きだから！」


嘘だ。
じゃあなんで、あの美人さんを家に入れたの？
私なんて都合のいい家政婦にしか思っていないんじゃないの？

リエーフに私の気持ちなんて分からない。


「とにかく！仕事で疲れてるからゆっくりしたいの！もう帰って！」


無理やりリエーフを外に押し出し、鍵を閉めた。

これでよかったんだ。
それなのに、何故か私の目から涙が流れた。