プリンの理由
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〜プリンの理由〜
友達のマイカとお昼ご飯を共にし、残り時間をのんびり過ごしていた。
他愛ない話で笑い合っていると、マイカが私の頭を覗き込むように言った。
「●●、大分髪伸びたね。プリンみたい」
彼女の指摘に、私は苦笑いを返す。
「そうなんだよね〜。だけど、これはこれでアリかなって」
手鏡で確認すると、明るい金髪に対し、生え際からは数センチほど伸びた真っ黒な地毛が主張していた。
私が通う音駒高校は、校則が緩い。
スカート丈、染髪、何1つ咎められない。
1年生では目立たぬよう黒髪だったけれど、2年生に上がってすぐ、私は解放感から髪を染めた。
だけど、今は夏休み前。
4ヶ月近く経ったのにも関わらず、あれから1度も美容院に行っていない私の髪は、完全にプリン頭と化していた。
定期的な手入れの必要性を思うと、面倒くさがりの私には苦痛でしかない。
いっそ黒く染め直そうかとも思ったけれど、染髪した傷んだ髪をこれ以上酷くしたくない。
いっそのこと髪を伸ばして、染めた部分を徐々に切って自然と黒髪に戻そう。
そんな考えに至り、私はしばらくこのプリン頭で過ごすことに決めたのだ。
マイカが、からかうような口調で話題を変える。
「プリン頭と言えばさ、3組の孤爪。彼も中々のプリン頭だよね」
「ああ、孤爪君ね。そう言えばそうだね」
孤爪君は、1年生の時に同じクラスだった。
大人しい性格で、休み時間はいつも携帯ゲーム機をしている印象。
そんな目立つのが苦手そうな彼が、2年生に上がると金髪になっていたのには本当に驚いた。
何か心境の変化でもあったのだろうか。
「山本もそうだけど、なんでバレー部ってこうも奇抜な髪型の人が集まるかね」
確かに山本君もモヒカン頭で奇抜である。
それに加えてあの目つきの悪さときたら、最初に会ったときはヤンキーかと思った。
「ふふふっ」
思い出し笑いをしていると、低い声の持ち主が私たちの会話を断ち切った。
「俺と虎を一緒にしないでくれない?」
「孤爪君?!」
振り向くと、そこに立っていたのは、噂をしていた張本人、孤爪君だった。
彼はいつも通り、わずかに俯き加減で、その瞳は何かを探るようにこちらを見ていた。
「なんでうちのクラスに?」
「福永に用があって来たら、俺の話をしていたから……」
そう言えば、福永君もバレー部だっけ。
孤爪君や山本君と比べると、唯一まともな髪型をしている。
「あっ、●●、次体育だからそろそろ行こうよ」
マイカが掛け時計を見て、声を上げる。
昼休みが終わるまで残り10分を切っていた。
「そうだね、またね孤爪君」
マイカの後を追って席を立つ、その時だった。
「◯◯さん、待って」
不意に孤爪君に腕を掴まれた。
指先がひんやりとしている。
「マイカ、先に行ってて。すぐ行くから」
「分かった」
時間がかかるかもしれないから、マイカには先に行ってもらうことにした。
パタパタと教室を出ていくマイカを見送ると、改めて孤爪君に視線を移した。
「どうしたの、孤爪君?」
彼は、床の一点をじっと見つめ、ポツリと話し始めた。
その声は小さく聞き逃しそうだった。
「髪を染めた理由、1年生のとき虎に黒髪で顔を隠すような長い前髪だと目立つって言われたから。金髪なら目立たなくなると思って……」
「そうだったんだ」
多分、山本君は遠回しに髪を切れと言いたかったんだろうけど、孤爪君は、彼の意図を斜め上に解釈し、実行してしまったらしい。
取りあえず、彼が派手な髪色にした理由がわかって、長年の疑問は解消した。
ただ、今、急いでいる私を引き留めてまで、その理由を説明する必要があったのだろうか。
私がそう考えていると、孤爪君はさらに言葉を続けた。
「それから……」
「それから?」
「……」
待っていても孤爪君からは次の言葉が出ない。
どうしたのだろうか。
教室の片隅、時計の針の動く音だけが、やけに大きく聞こえる。
数秒の静寂の後、彼は深く息を吐き、掴んでいた私の腕を離した。
「やっぱり何でもない。急いでいるのに引き留めてごめん」
「あ、うん……」
結局何が言いたかったのか分からなかった。
私は体操服の入った袋を持って、急いで更衣室へと向かった。
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