猫のような君
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〜猫のような君〜
一番後ろの窓際の席、そこが私の席だ。
私はこの席が好きだった。
目立たず、教室の喧騒から少し離れていられるから。
だけど、一番の理由は、その隣にある空席の主が少し気になるから。
別に、恋とか、そういう甘酸っぱい感情ではない。
ただ、ときどき思いがけない行動をとるときがあって面白いのだ。
その様子を、邪魔にならない特等席で眺めていたい。
今日もまた、朝のホームルームのチャイムが鳴り響き、担任の静かな声が教室に広がり始めても、私の隣の席はぽっかりと空いたままだった。
遅刻か、欠席か。
先生の淡々とした話を聞き流しながらも、無意識のうちに意識は教室の扉に集中していた。
すると、その扉が静かに開いた。
そして、そこから現れたのは、まるで教室に忍び込む一匹の猫のように、背中を丸めた孤爪研磨君だった。
空っぽだった隣の席の主。
「!」
視線が、不意に交錯した。
薄い金色の髪と、鋭いけれどどこか眠たげな彼の瞳が、私を捉える。
「っ……!」
思わず声を上げそうになった私を見て、孤爪君は素早く、人差し指を口元に近付けてシーッとするジェスチャーをした。
私は咄嗟に手のひらで口元を押さえた。
心臓が、ばくばくと早鐘を打っている。
私が口元を押さえるのを確認すると、孤爪君はまた、そろりと教室の壁際を移動し始めた。
その、まるで獲物に気付かれないようにそっと進む猫背の姿が、どうしようもなく可笑しい。
思わず笑いが込み上げて、肩が震えるのを必死で耐える。
一番後ろの席だから先生にはバレていないだろうけれど、私がうっかり笑い声を出してしまえば意味がない。
長い廊下を進むような、ゆっくりとした孤爪君の移動も、ついに終わりを迎える。
彼は無事に自分の席へと到達し、静かに椅子を引き、気配を殺して座った。
ふぅ、と息を吐き、笑いを堪えることができたことに安堵する。
「おはよ、孤爪君」
先生に絶対聞こえない声で、私は朝の挨拶を囁いた。
彼は私の目を見つめ返すこともなく、机に肘をついたまま、気怠げに答えた。
「おはよ、◯◯さん。先生にバレてないかな」
「多分大丈夫。プロの忍びだったよ。朝練が長引いたの?」
「あ、いや、今日は朝練ない日なんだけど……」
彼は言葉を区切り、少しだけ頬を緩ませた。
「新作ゲームを徹夜してやっていたら、寝坊した」
彼はケロリとした顔でそう言う。
その正直さとマイペースさが、彼の魅力であり、私を退屈にさせない。
私は心の中でそっと笑った。
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