枯れ木に花火を咲かせましょう
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「そこそこ歩くけど大丈夫?」
「うん、スニーカーだから平気!」
気遣ってくれる山口君に、私は「ほら」と足元を見せた。
オシャレ重視にした格好にしなくてよかった、と家を出る前の自分を褒めたくなる。
山口君はスマホで地図を確認しながら、私の半歩前を歩いてくれた。
その背中を見ながら付いていくのが、なんだか擽ったい気持ちになる。
そんなことを言ったら、山口君はきっと驚くだろうな。
……。
…………。
しばらく歩いていると、遠くの空からドンドンと低い音が響き始めた。
花火が始まってしまった音だ。
「うわ、始まっちゃった……。急ごう!」
山口君が少し早足になる。
私も彼の隣に並び、少しだけ駆け足になった。
会場の賑やかな音が聞こえ始め、ついに私たちは人波に辿り着いた。
だけど、当たり前だけれど着くのが遅すぎた。
人気の花火大会のため、見晴らしのいい場所は、既に人で埋め尽くされている。
「凄い人だね」
「あっち行ってみようか」
出店を横目に、私たちは少しでも花火が見えそうな場所を探して歩き回った。
だけど、どこも高い木々が視界を遮っている。
ようやく辿り着いたのは、少し小高くなった場所。
だけど、そこから見える空も、やっぱり大きな枯れ木の枝に覆い被されていた。
「……ごめんね、俺がバスを間違えたばっかりに」
隣で山口君が、本当に申し訳なさそうに言った。
彼の悔しそうな横顔を見て、胸がきゅっとなる。
彼のせいじゃないのに。
「そんなことないよ、山口君」
私は彼の顔を見て微笑み、そして、大きな枝を広げるその枯れ木を指差した。
「ほら、見て」
その時、一際大きな音と共に、花火が上がった。
ドーム状に広がる光の粒は、私たちの目の前にある枯れ木の、すぐ後ろで開いた。
まるで、枯れ木が、一瞬にして鮮やかな光の花を咲かせたように見える。
「あの花火が、木を満開に咲かせているみたいで綺麗だよ」
私がそう言うと、山口君は目を丸くして、それから私が指差す方を見た。
視界を遮っていたはずの枯れ木が、まるで命を得たように、光に彩られている。
「……本当だ。こんな見え方、初めて」
山口君の顔に、少しだけ安堵の表情が戻ったように見えた。
花火の光が、何度も、何度も、あの枯れ木に鮮やかな色を灯す。
2人並んで花火に魅入っていると、直ぐ近くにいた子供連れの夫婦が視界に入った。
3歳くらいの子供だろうか。
その子は一生懸命に手を伸ばし、花火を掴もうとしている。
「可愛い」
「本当だね」
何気なく呟いただけなのに、山口君も同じく見ていたのか、返事をしてくれた。
子供は両親に嬉しそうに手のひらを見せる。
実際には何も掴めていないけれど、両親も嬉しそうにしているのを見ていると、微笑ましくも羨ましくなる。
「私も……」
“あんな子供が欲しい”
そう言いかけて口をつぐんだ。
だって、結婚できる年でなければ、付き合ってすらいない。
私の独りよがりの考えだから。
それなのに、山口君は私の顔をしっかりと見て口を開いた。
「俺も、あんな子供が欲しいな。◯◯さんとの」
「え?」
思わず目を見開いた。
彼の顔はとても冗談を言っているようには見えない。
「◯◯さん、俺、今日みたいに情けない姿を見せるかもしれないけど、◯◯さんともっと色んなところに出かけたい。次は友達としてじゃなくて……か、か、彼氏として。俺と付き合ってください!」
正面では花火が鳴り響いているけれど、山口君の声はしっかりと耳に届いた。
「わ、私もそうなったらいいなって思ってた!」
「それじゃあ……」
「私を山口君の彼女にしてください!」
一世一代の返事。
私は真っ赤になっているだろう顔を隠すため、下を向うとした。
だけど、私以上に真っ赤になっている山口君の顔を見たら、その必要がないように思えた。
それは、真っ赤な花火の色が移ったのではなく、正真正銘、彼が放つ色。
「ふふふ、私たち、顔真っ赤」
「本当だ」
山口君は私の目を真っ直ぐ見つめ、優しく微笑んだ。
「じゃあ、改めて。今日から、俺と●●ちゃんは恋人同士だね」
不意に呼ばれた下の名前に、ドクンと心臓が鳴る。
「……え、今」
「ごめん、間違えたワケじゃなくて。これからは恋人だし……●●ちゃんって、呼んでもいいかな?もちろん、嫌だったら今まで通り名字で呼ぶけど」
彼の顔がさらに赤くなる。
その必死さに、私の方が胸がいっぱいになった。
「もちろん、いいよ!私も忠君って呼ぶね!」
私の返事に、彼は心底ホッとしたような息を漏らした。
「よかったー、ありがとう!」
「うん!」
私は深く頷き、自然と顔がほころんだ。
花火の光に照らされて、彼の表情もなんだかいつもより格好良く見える。
「来年も再来年も、その先もずっと、●●ちゃんの隣で花火を見たい」
忠君の言葉に、さっき見た子供連れの夫婦の姿が重なる。
いつか私たちも、あの夫婦のように、子供に「可愛い」と言いながら花火を見上げる未来が来るのだろうか。
今はまだ分からないけれど、そんな未来を彼と夢見ることができたら、どれだけ幸せだろう。
「私も、ずっと隣で見たいな」
そう答えると、彼は私の手を、しっかりと握ってくれた。
人混みの中、賑やかな花火の音と人々の歓声に包まれながら、私たちの新しい夏が、そして新しい関係が始まった。
ーーFinーー
「うん、スニーカーだから平気!」
気遣ってくれる山口君に、私は「ほら」と足元を見せた。
オシャレ重視にした格好にしなくてよかった、と家を出る前の自分を褒めたくなる。
山口君はスマホで地図を確認しながら、私の半歩前を歩いてくれた。
その背中を見ながら付いていくのが、なんだか擽ったい気持ちになる。
そんなことを言ったら、山口君はきっと驚くだろうな。
……。
…………。
しばらく歩いていると、遠くの空からドンドンと低い音が響き始めた。
花火が始まってしまった音だ。
「うわ、始まっちゃった……。急ごう!」
山口君が少し早足になる。
私も彼の隣に並び、少しだけ駆け足になった。
会場の賑やかな音が聞こえ始め、ついに私たちは人波に辿り着いた。
だけど、当たり前だけれど着くのが遅すぎた。
人気の花火大会のため、見晴らしのいい場所は、既に人で埋め尽くされている。
「凄い人だね」
「あっち行ってみようか」
出店を横目に、私たちは少しでも花火が見えそうな場所を探して歩き回った。
だけど、どこも高い木々が視界を遮っている。
ようやく辿り着いたのは、少し小高くなった場所。
だけど、そこから見える空も、やっぱり大きな枯れ木の枝に覆い被されていた。
「……ごめんね、俺がバスを間違えたばっかりに」
隣で山口君が、本当に申し訳なさそうに言った。
彼の悔しそうな横顔を見て、胸がきゅっとなる。
彼のせいじゃないのに。
「そんなことないよ、山口君」
私は彼の顔を見て微笑み、そして、大きな枝を広げるその枯れ木を指差した。
「ほら、見て」
その時、一際大きな音と共に、花火が上がった。
ドーム状に広がる光の粒は、私たちの目の前にある枯れ木の、すぐ後ろで開いた。
まるで、枯れ木が、一瞬にして鮮やかな光の花を咲かせたように見える。
「あの花火が、木を満開に咲かせているみたいで綺麗だよ」
私がそう言うと、山口君は目を丸くして、それから私が指差す方を見た。
視界を遮っていたはずの枯れ木が、まるで命を得たように、光に彩られている。
「……本当だ。こんな見え方、初めて」
山口君の顔に、少しだけ安堵の表情が戻ったように見えた。
花火の光が、何度も、何度も、あの枯れ木に鮮やかな色を灯す。
2人並んで花火に魅入っていると、直ぐ近くにいた子供連れの夫婦が視界に入った。
3歳くらいの子供だろうか。
その子は一生懸命に手を伸ばし、花火を掴もうとしている。
「可愛い」
「本当だね」
何気なく呟いただけなのに、山口君も同じく見ていたのか、返事をしてくれた。
子供は両親に嬉しそうに手のひらを見せる。
実際には何も掴めていないけれど、両親も嬉しそうにしているのを見ていると、微笑ましくも羨ましくなる。
「私も……」
“あんな子供が欲しい”
そう言いかけて口をつぐんだ。
だって、結婚できる年でなければ、付き合ってすらいない。
私の独りよがりの考えだから。
それなのに、山口君は私の顔をしっかりと見て口を開いた。
「俺も、あんな子供が欲しいな。◯◯さんとの」
「え?」
思わず目を見開いた。
彼の顔はとても冗談を言っているようには見えない。
「◯◯さん、俺、今日みたいに情けない姿を見せるかもしれないけど、◯◯さんともっと色んなところに出かけたい。次は友達としてじゃなくて……か、か、彼氏として。俺と付き合ってください!」
正面では花火が鳴り響いているけれど、山口君の声はしっかりと耳に届いた。
「わ、私もそうなったらいいなって思ってた!」
「それじゃあ……」
「私を山口君の彼女にしてください!」
一世一代の返事。
私は真っ赤になっているだろう顔を隠すため、下を向うとした。
だけど、私以上に真っ赤になっている山口君の顔を見たら、その必要がないように思えた。
それは、真っ赤な花火の色が移ったのではなく、正真正銘、彼が放つ色。
「ふふふ、私たち、顔真っ赤」
「本当だ」
山口君は私の目を真っ直ぐ見つめ、優しく微笑んだ。
「じゃあ、改めて。今日から、俺と●●ちゃんは恋人同士だね」
不意に呼ばれた下の名前に、ドクンと心臓が鳴る。
「……え、今」
「ごめん、間違えたワケじゃなくて。これからは恋人だし……●●ちゃんって、呼んでもいいかな?もちろん、嫌だったら今まで通り名字で呼ぶけど」
彼の顔がさらに赤くなる。
その必死さに、私の方が胸がいっぱいになった。
「もちろん、いいよ!私も忠君って呼ぶね!」
私の返事に、彼は心底ホッとしたような息を漏らした。
「よかったー、ありがとう!」
「うん!」
私は深く頷き、自然と顔がほころんだ。
花火の光に照らされて、彼の表情もなんだかいつもより格好良く見える。
「来年も再来年も、その先もずっと、●●ちゃんの隣で花火を見たい」
忠君の言葉に、さっき見た子供連れの夫婦の姿が重なる。
いつか私たちも、あの夫婦のように、子供に「可愛い」と言いながら花火を見上げる未来が来るのだろうか。
今はまだ分からないけれど、そんな未来を彼と夢見ることができたら、どれだけ幸せだろう。
「私も、ずっと隣で見たいな」
そう答えると、彼は私の手を、しっかりと握ってくれた。
人混みの中、賑やかな花火の音と人々の歓声に包まれながら、私たちの新しい夏が、そして新しい関係が始まった。
ーーFinーー
