伝染
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〜伝染〜
高校に入学して1ヶ月が経った。
胸いっぱいの期待を抱いて飛び込んだ新生活は、私の理想とは懸け離れたものとなった。
教室を見渡せば、既に幾つもの友達グループが完成していて、私は完全にスタートラインから出遅れたことに気付かされる。
言葉は悪いけれど、隣の席の顔にそばかすのある、背は高いけど大人しそうな男子生徒でさえ、楽しそうに話す友達がいる。
休み時間も、お昼休みも、掃除の時間だって、私はいつも1人きり。
周りの生徒たちが楽しげに笑いながら掃除を進める中、私は孤独に耐えながら黙々と教室の隅々まで掃いていく。
そんなとき、初めて女子生徒たちに話しかけられた。
「ねえ、◯◯さん」
突然、自分の名前が呼ばれたことに、心臓が一瞬跳ね上がった。
「な、何、青木さん?」
声をかけてきたのは、グループの中心にいる青木さんだった。
彼女の顔には、申し訳なさというよりは、むしろわずかな優越感が浮かんでいるように見えた。
「私たち、掃除が終わったらちょっと用事があってね……。だから、◯◯さん、ごみ捨てお願いできないかな?」
初めて名前を呼ばれて嬉しかったのに、今はひどく恥ずかしい。
私は結局、彼女たちの都合のいい雑用として認識されていたのだ。
だけど、友達のいない私には用事なんてない。
断る理由も、断る勇気も持たない私は、引き受けるしか選択肢がなかった。
「うん、いいよ」
声は思ったより冷静に出た。
「本当?助かるー!それじゃあ、よろしくねー!」
青木さんたちは、素早く箒と塵取りを片付けると、軽い足取りで、パタパタと小走りで教室から出ていった。
私は、まとめたごみ袋を2つ担ぎ、焼却炉へと続く道を歩き始めた。
中身は主に紙くずばかりだから、物理的な重さなんて全くない。
それなのに、誰一人として手を貸してくれない。
手伝ってくれる友達がいない現実を突きつけられている気がして、私の心は鉛のように重くなった。
ふと、体育館の横を通り過ぎようとした時、私は立ち止まった。
青木さんたちが、体育館の半開きの扉の隙間から、顔を寄せ合って中を覗き込んでいるのが見えたから。
楽しそうな、弾んだ笑い声が、わずかに漏れてくる。
扉からチラリと見えた光景。
体育館の中では、数人の先輩らしき男子生徒たちが、バスケットボールで遊んでいた。
なるほど。
彼らを一目見たいがために、私はこの雑用を押し付けられたのか。
悔しさや悲しさ、そして、何も言えない自分自身への情けなさが入り乱れる。
私は、重い気持ちのままごみ袋を担ぎ直し、焼却炉へと再び足を踏み出した。
そんなとき、後ろから落ち着いたトーンの声が聞こえた。
「◯◯さん、1つ持つよ」
思わず足を止めた。
「え……?」
振り返ると、そこにいたのは隣の席の山口忠君だった。
顔にそばかすのある、クラスの中でもひときわ背の高い男子。
その大きな手が、私の担ぐごみ袋を指差していた。
「貸して」
私がまだ何も言葉を発していないというのに、山口君はひょいと、私の手からごみ袋を1つ取り上げた。
しかも、彼はさり気なく、大きい方のごみ袋を選んでいた。
彼の細やかな気遣いが感じられる。
「あ、ありがとう……」
掠れた声で、なんとか感謝の言葉を絞り出す。
「ううん、どういたしまして」
そう言って山口君は、屈託のない笑顔を見せた。
「大人しそうな男子生徒でさえ友達がいる」と、心の中で見下すようなことを思っていたのに。
そんな傲慢な私に、分け隔てなく優しく手を差し伸べてくれた彼に、私は完全に心を射抜かれてしまった。
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