隣は譲れねェ
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教室に差し込む午後の西日が眠気を誘う。
先生の急用で自習になったこの時間は、どこか放課後に似た空気が漂っていた。
堂々と机に突っ伏して眠る者、ここぞとばかりに受験勉強に励む者。
かくいう私は、ペンを握りしめてはいるものの、目の前の問題集には一文字も書き込んでいない。
なぜなら、胸の中にずっと燻っていた疑問を、今この静寂を利用して彼にぶつけると決めていたからだ。
私はできるだけ何でもない風を装って、隣で机に頬杖をつきながらスマホをいじっている彼に声をかけた。
「ねえ、花巻ってさ……好きな人とか、いるの?」
自分の心臓が、耳元でうるさく脈打っている。
身長も高いし、誰とでもすぐ打ち解けるコミュニケーション能力の塊。
おまけにあの余裕のある笑顔だ。
バレー部の彼を遠くから見つめる女子が他クラスにいることも、私は知っている。
花巻はスマホを操作する手を止め、ゆっくりとこちらを向いた。
「は?なんだよ急に。変なもんでも食った?」
「別に。……本当になんとなく気になっただけ。いないならいいんだけど」
視線を逸らしてノートに意味のない線を引く私を、花巻は少しだけ訝しげに見つめる。
「じゃあ、なんとなく俺も教えなーい。教えるメリットねーもん」
「……ケチ。私とはこんなに仲良くしてるのに」
「仲良いから教えねーんだよ。お前、絶対からかうだろ?」
「からかわないってば!」
引くに引けなくなって、私はしつこく食い下がった。
あまりにも私がしつこかったせいか、花巻はふうっと短く息を吐き、乱暴に自分の髪を掻いた。
「あー、分かった分かった。降参」
そして、少しだけ声を低めた。
「……他校のヤツだよ」
「えっ……他校?」
予想だにしない答えに、思考が真っ白になる。
他校の人だと言われたら、私にはもう踏み込む術がない。
私の知らないところで、私の知らない誰かと笑っている彼を想像して、胸がひどく締め付けられた。
息が詰まる。
「ほら、もういいだろ?この話は終わりな」
花巻は逃げるように私にそっぽを向き、反対側の男子生徒と雑談を始めた。
私は、彼の背中を見つめるしかできなかった。
……。
…………。
その日の夜。
夕飯も喉を通らず、自室のベッドに倒れ込んだ。
「……っ、ふ……っ、ううぅ……」
枕に顔を埋めると、堪えていた涙が溢れ出してきた。
3回も連続で隣の席になれたこと。
授業中にこっそり笑い合ったこと。
距離が近くなるたびに、自惚れてしまっていたのだ。
深い仲になれたと思っていたのは、全部私の独りよがりだったんだ……。
花巻にとって私は、ただの話しやすいクラスメイトで、ただの席の近い女の子に過ぎなかった。
「馬鹿みたい……」
隣の席という、クラスで1番近い場所にいるはずなのに。
今、彼の心がここから遠く離れた他校の誰かに向いているという事実が、何よりも寂しくて、私は夜が明けるまで泣き続けた。
先生の急用で自習になったこの時間は、どこか放課後に似た空気が漂っていた。
堂々と机に突っ伏して眠る者、ここぞとばかりに受験勉強に励む者。
かくいう私は、ペンを握りしめてはいるものの、目の前の問題集には一文字も書き込んでいない。
なぜなら、胸の中にずっと燻っていた疑問を、今この静寂を利用して彼にぶつけると決めていたからだ。
私はできるだけ何でもない風を装って、隣で机に頬杖をつきながらスマホをいじっている彼に声をかけた。
「ねえ、花巻ってさ……好きな人とか、いるの?」
自分の心臓が、耳元でうるさく脈打っている。
身長も高いし、誰とでもすぐ打ち解けるコミュニケーション能力の塊。
おまけにあの余裕のある笑顔だ。
バレー部の彼を遠くから見つめる女子が他クラスにいることも、私は知っている。
花巻はスマホを操作する手を止め、ゆっくりとこちらを向いた。
「は?なんだよ急に。変なもんでも食った?」
「別に。……本当になんとなく気になっただけ。いないならいいんだけど」
視線を逸らしてノートに意味のない線を引く私を、花巻は少しだけ訝しげに見つめる。
「じゃあ、なんとなく俺も教えなーい。教えるメリットねーもん」
「……ケチ。私とはこんなに仲良くしてるのに」
「仲良いから教えねーんだよ。お前、絶対からかうだろ?」
「からかわないってば!」
引くに引けなくなって、私はしつこく食い下がった。
あまりにも私がしつこかったせいか、花巻はふうっと短く息を吐き、乱暴に自分の髪を掻いた。
「あー、分かった分かった。降参」
そして、少しだけ声を低めた。
「……他校のヤツだよ」
「えっ……他校?」
予想だにしない答えに、思考が真っ白になる。
他校の人だと言われたら、私にはもう踏み込む術がない。
私の知らないところで、私の知らない誰かと笑っている彼を想像して、胸がひどく締め付けられた。
息が詰まる。
「ほら、もういいだろ?この話は終わりな」
花巻は逃げるように私にそっぽを向き、反対側の男子生徒と雑談を始めた。
私は、彼の背中を見つめるしかできなかった。
……。
…………。
その日の夜。
夕飯も喉を通らず、自室のベッドに倒れ込んだ。
「……っ、ふ……っ、ううぅ……」
枕に顔を埋めると、堪えていた涙が溢れ出してきた。
3回も連続で隣の席になれたこと。
授業中にこっそり笑い合ったこと。
距離が近くなるたびに、自惚れてしまっていたのだ。
深い仲になれたと思っていたのは、全部私の独りよがりだったんだ……。
花巻にとって私は、ただの話しやすいクラスメイトで、ただの席の近い女の子に過ぎなかった。
「馬鹿みたい……」
隣の席という、クラスで1番近い場所にいるはずなのに。
今、彼の心がここから遠く離れた他校の誰かに向いているという事実が、何よりも寂しくて、私は夜が明けるまで泣き続けた。
