~第三章~ コバルトとリン
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今から15年前。
コバルトが魔法の修行をするためにプラセオジムを旅立って数年経った頃。
滞在していた村で年の近い一人の娘と仲良くなった。
名前はリン・キセノン。
大きくて開かれたエメラルドグリーンの瞳。
小柄で可愛らしく、笑うと見える八重歯がチャームポイント。
どことなくセレンと似た雰囲気で、いかにもコバルトの好みであった。
セレンと婚約関係ではあるが、独身なのは事実。
それに、まだ10代のコバルトに既に子供がいるなんて誰が想像するだろうか。
「リン、君は本当に可愛らしいな」
「嬉しい!私もコバルトさんのことが好きです!」
リンの方もコバルトに対して満更ではなかった。
そんなある日。
「コバルトさーん、今日も魔法の実験ですか?良ければリンと遊んでください!」
「すまない。もう少しで完成しそうな魔法薬があるから、しばらく集中したいんだ」
「分かりました。でも、完成したら絶対に遊んでくださいね!」
不服そうだが、理解あるリンはあっさりと引き下がった。
リンの姿が見えなくなると、コバルトはため息を吐いてから、実験室へと向かった。
「面倒なやつに手を出してしまった……」
最初こそセレンに似ていて愛想も良かったが、気分転換で外出するたびに話しかけてくるリンのことを、コバルトは煩わしく感じ始めていた。
「ああ、セレンに会いたい……」
ーーーー
数日実験室に缶詰状態のコバルトは、肩を震わせていた。
「ついに……ついに完成した!」
そして、コバルトが喜びの次に抱いた感情は……。
「誰かに試したい……そうだ、あの娘に試すか」
間もなく村を発つコバルトにとってはリンは邪魔でしかなかった。
久しぶりに外出したコバルトはリンのいそうな場所をウロウロしていた。
こうしていれば彼女は現れるはず。
ほら、噂をすれば。
「コバルトさーん!」
「リンか。しばらくぶりだな」
あたかも偶然を装って振る舞うコバルト。
「実験はもういいんですか?」
「ああ……。リン、少し話せるか?」
「ええ、もちろん!」
コバルトは人気の少ない村の外れにリンとやってきた。
周りには誰もいない。
「やっと2人きりになれた」
リンはコバルトに抱きついた。
「ずっとこうしたかった」
「ああ、私もだよ」
コバルトもリンに答えるように抱きしめ返した。
しかし、その手には薬品の入った注射器が握りしめられていた。
コバルトは躊躇なくその注射器をリンの背中に突き立てた。
「きゃああぁぁぁー!」
コバルトはリンを突き飛ばして距離を取った。
「痛いっ痛いっ!コバルトさん!私に何を……あ、熱い……身体がァ……」
リンの姿は見る見るうちに変わっていった。
白くて柔らかそうな肌には剛毛な毛がびっしりと生え、耳も鋭く大きく成長。チャームポイントだった八重歯も鋭さを増した。
「っ……うっ……ガルルッ」
可愛らしかった声も低く、既に人の発声を失っている。
小柄だった少女はそこにはもういない。
いるのは獰猛で凶暴な人獣、巨体なウルフ。
唯一リンだと分かるエメラルドグリーンの瞳には憎しみが込められてきた。
「クククッ……やった!やったぞ!成功だ!」
そんなリンを見ても悲しみの感情など一切湧かずに、ただただ己の実験の成功に浸るコバルト。
「グルルルッッッ……」
「おっと、私を殺さない方がいい。解毒薬を作れるのは私だけなんだから。そもそもお前ごときに私は殺せない」
「……」
「安心しろ、満月の日だけは元の姿に戻る」
「グルルッ……」
「精々足掻くと良い」
高笑いをしながらその場を去るコバルトと、涙が枯れるまで泣き続けたリン。
その後、コバルトが村を発ってから、一人の少女が行方不明になったと言う事件が新聞に載った。
コバルトが魔法の修行をするためにプラセオジムを旅立って数年経った頃。
滞在していた村で年の近い一人の娘と仲良くなった。
名前はリン・キセノン。
大きくて開かれたエメラルドグリーンの瞳。
小柄で可愛らしく、笑うと見える八重歯がチャームポイント。
どことなくセレンと似た雰囲気で、いかにもコバルトの好みであった。
セレンと婚約関係ではあるが、独身なのは事実。
それに、まだ10代のコバルトに既に子供がいるなんて誰が想像するだろうか。
「リン、君は本当に可愛らしいな」
「嬉しい!私もコバルトさんのことが好きです!」
リンの方もコバルトに対して満更ではなかった。
そんなある日。
「コバルトさーん、今日も魔法の実験ですか?良ければリンと遊んでください!」
「すまない。もう少しで完成しそうな魔法薬があるから、しばらく集中したいんだ」
「分かりました。でも、完成したら絶対に遊んでくださいね!」
不服そうだが、理解あるリンはあっさりと引き下がった。
リンの姿が見えなくなると、コバルトはため息を吐いてから、実験室へと向かった。
「面倒なやつに手を出してしまった……」
最初こそセレンに似ていて愛想も良かったが、気分転換で外出するたびに話しかけてくるリンのことを、コバルトは煩わしく感じ始めていた。
「ああ、セレンに会いたい……」
ーーーー
数日実験室に缶詰状態のコバルトは、肩を震わせていた。
「ついに……ついに完成した!」
そして、コバルトが喜びの次に抱いた感情は……。
「誰かに試したい……そうだ、あの娘に試すか」
間もなく村を発つコバルトにとってはリンは邪魔でしかなかった。
久しぶりに外出したコバルトはリンのいそうな場所をウロウロしていた。
こうしていれば彼女は現れるはず。
ほら、噂をすれば。
「コバルトさーん!」
「リンか。しばらくぶりだな」
あたかも偶然を装って振る舞うコバルト。
「実験はもういいんですか?」
「ああ……。リン、少し話せるか?」
「ええ、もちろん!」
コバルトは人気の少ない村の外れにリンとやってきた。
周りには誰もいない。
「やっと2人きりになれた」
リンはコバルトに抱きついた。
「ずっとこうしたかった」
「ああ、私もだよ」
コバルトもリンに答えるように抱きしめ返した。
しかし、その手には薬品の入った注射器が握りしめられていた。
コバルトは躊躇なくその注射器をリンの背中に突き立てた。
「きゃああぁぁぁー!」
コバルトはリンを突き飛ばして距離を取った。
「痛いっ痛いっ!コバルトさん!私に何を……あ、熱い……身体がァ……」
リンの姿は見る見るうちに変わっていった。
白くて柔らかそうな肌には剛毛な毛がびっしりと生え、耳も鋭く大きく成長。チャームポイントだった八重歯も鋭さを増した。
「っ……うっ……ガルルッ」
可愛らしかった声も低く、既に人の発声を失っている。
小柄だった少女はそこにはもういない。
いるのは獰猛で凶暴な人獣、巨体なウルフ。
唯一リンだと分かるエメラルドグリーンの瞳には憎しみが込められてきた。
「クククッ……やった!やったぞ!成功だ!」
そんなリンを見ても悲しみの感情など一切湧かずに、ただただ己の実験の成功に浸るコバルト。
「グルルルッッッ……」
「おっと、私を殺さない方がいい。解毒薬を作れるのは私だけなんだから。そもそもお前ごときに私は殺せない」
「……」
「安心しろ、満月の日だけは元の姿に戻る」
「グルルッ……」
「精々足掻くと良い」
高笑いをしながらその場を去るコバルトと、涙が枯れるまで泣き続けたリン。
その後、コバルトが村を発ってから、一人の少女が行方不明になったと言う事件が新聞に載った。