とある日
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〜とある元カレと会った日〜
たまには夜ご飯を食べに行こう。
聖臣の提案によって、お互いの仕事終わりに待ち合わせをすることになった。
同棲を始めてから待ち合わせなんてしなくなったから、なんだかちょっぴりワクワクしている。
そもそも、お互い付き合ってから好きになった、なんだったら同棲を意識してからと言っても過言ではないため、こんな気持ちで待ち合わせをしたことがないかもしれない。
待ち合わせ場所は私の会社の近く。
聖臣の方が仕事終わるのが遅いなら、私がそっちの会社の近くまで行ってもよかったけれど、俺が行く、の一点張りで。
まだかまだかと、定期的に時間を確認していると、
「●●?」
名前を呼ばれて腕時計から顔を上げると、そこには元カレのタカシがいた。
私の家に浮気相手を連れ込んでおっ始めていた最低な元カレ。
「なん……で」
会いたくなかった。思い出したくなかった。
そんな気持ちなど露知らず、タカシはヘラヘラと私に近付いてきた。
「やっと会えた。アパートに行ったら知らないやつが住んでいたから。職場変わってなくて良かったよ」
こっちは良くないよ。
今更ノコノコと何の用で会いに来たの。
「●●、まだ俺のこと好きだろ?俺、あの女に騙されていただけなんだよ。だからやり直さないか?」
まだ好き?
勝手に私の気持ちを決めつけるな。
うぬぼれにも程がある。
そもそも、どの口が言っているんだ。
騙されたのはこっちの方なのに。
私は関わりたくなくて後退りした。
しかし、お構いなしに近づいてくるタカシ。
「おいおい、釣れないな。それとも久しぶりで照れてるのか?」
「来ないで。これ以上近づくと叫ぶよ」
「冗談やめろよ、なあ」
ついに距離を詰められて、腕を掴まれた。
「やっ!」
「人が下手に出ていれば調子に乗りやがって!」
「離して!」
掴まれた腕に力が込められて振りほどけない。
私は恐怖でギュッと目を閉じた。
すると、
「おい」
低くて威圧感のある、だけど安心する声。
私は思わず名前を呼んだ。
「聖臣!」
聖臣は私を掴むタカシの腕を捻り上げると、
「痛っ」
あまりの痛さで手を離したタカシ。
「なんなんだよ、テメェは!」
声を荒げたタカシを無視するように、聖臣は私の方へ向き直した。
「遅れて悪かった。行こうか」
「おい、無視すんなよ!!」
今度は聖臣の肩を掴みかかったタカシだけど、
「あ゛?汚い手で触らないでくれる?」
「っ……!」
高身長の聖臣の見下す目に怯んだのか、タカシは舌打ちをして逃げるようにその場を去っていった。
「聖臣ありがとう」
「いや、俺が遅れたばっかりに」
「ううん。助けてくれて嬉しかった。まさか元カレに出くわしちゃうなんてね、アハハ……」
「……」
「そんなことより早くご飯屋さんに行こ!」
「待て」
咄嗟に聖臣の大きくて逞しい身体に抱きつかれた。
ほのかに香る汗の匂い。走って来てくれたことが分かる。
それよりも、
「ちょっ……ここ外だよ!」
人が少ないとは言え、会社の前。
誰かに見られたりでもしたら、ゴシップになりかねない。
そんな私の焦りなど気にしていないのか、聖臣は耳元で囁いた。
「身体、震えてる」
「っ……」
自分が思っていた以上に怖かったようだ。
聖臣に指摘されるまで気が付かなかった。
「今日は帰ろう。ご飯ならいつでも行ける」
「…………」
楽しみにしていたのに。
だけど、私を思っての気遣いだから無下にはできず、私はコクリと頷いた。
ーーーー
帰り道、聖臣は終始無言だった。
チラッと彼の方を見ると、今朝仕事に行くときには持っていなかった縦長の紙袋が握られていた。
「その、紙袋何?」
「あー……」
気まずそうな顔をする聖臣。
聞いたらマズかったのかな。
そう思っていると、聖臣は足を止めた。
つられて私も足を止める。
「これ」
先程の紙袋から取り出された小さな花束。
赤いバラが3本。
だけど、花弁が少し取れており、どこか元気がないように見えた。
「走ったから傷んで……」
きっとこれを買いに行っていたから待ち合わせ場所に来るのが遅くなったんだ。
そう言えばいいのに、言い訳をしないのは責任を感じているから?
私はそっと花束を受け取った。
「綺麗……。私、初めて花束貰った」
「でも……」
「このくらいなら生ければ元気になるよ」
だから、そんなに不安そうな顔をしないで。
「家に花瓶あったかな?明日買いに行こうよ!」
「ああ」
「ところで、今日って何かの記念日だっけ?」
「いや、日頃の感謝を伝えたくて」
頬を掻きながら照れくさそうに言う聖臣。
感謝……か。
ねえ知っている?
バラの花束が3本だと“愛しています”を意味するんだよ。
そう言ったら聖臣はどんな反応をするかな。
ーーFinーー