何でもない日
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洗濯機が回る規則正しいリズムを聴きながら、ベランダに干しっぱなしだった乾いたシャツを1枚ずつ取り込んでいく。
白いワイシャツには丁寧にアイロンをかけ、その奥から出てきた、胸元に“FROGS”と書かれた緑色のユニフォーム。
「……ふふ」
畳む前に、思わず顔を埋めてみる。
汗の臭いなんて微塵もしない。
ただ、彼が愛用している柔軟剤の香りが、鼻腔をかすめた。
「……って、私、何やってるの。変態じゃん」
誰もいない部屋で顔を赤くし、慌てて畳み直す。
その後は徹底的に掃除機をかけ、キッチンで夕食の仕込みをした。
疲れている彼に合いそうな、胃に優しい献立を考えながら野菜を切る時間は、不思議と私自身の心も整えてくれる。
一通り家事を終え、余った時間でソファに座り、今日見に行く予定だった映画の前作を流し始めた。
画面の中の物語に没頭し始めた頃、玄関の鍵が開く音がした。
「ただいま……」
「おかえり、蛍!」
ネクタイを緩めながら入ってきた彼は、私の顔を見るなり、次に部屋の隅々までを驚いたようにキョロキョロと見渡した。
もしかして、帰ったと思った私がいて驚いているのだろうか。
「どうかした……?」
不安になって尋ねる私をよそに、彼は何かに追い立てられるようにネクタイをむしり取った。
「あー……。いや、ちょっと出かけてくる」
「えっ、今帰ってきたばっかりなのに?」
私の問いかけに答えず、彼はスーツを脱ぎ捨て、足早に私服に着替えて再び家を飛び出していった。
「夕飯の買い出し……?それとも、何か忘れ物?」
キッチンには、あとは温めるだけの食事が並んでいる。
「ご飯なら、もう作ったのに……」
私は小さくため息を吐き、脱ぎ散らかされたスーツを手に取った。
普段なら、こんな風に服を脱ぎ散らかして出ていくことなんてないのに。
「相当焦ってたのかな……」
丁寧にハンガーに吊るしてクローゼットへ戻す。
手持ち無沙汰になった私は、仕方なくソファに戻り、映画の続きを観ながら、彼の帰りを待った。
結局映画に集中できないまま、30分ほどで彼は再び帰宅した。
「2回目のおかえりだね」
クスクスと笑いながら出迎えると、蛍は肩を上下させて少し息を切らしていた。
そして、大切そうに抱えていた白い小箱を私に差し出してきた。
「なに、これ?」
「……ケーキ」
「ケーキ?今日って、誕生日でも記念日でもないよね?」
思わず首を傾げると、彼はフイッと顔を背けた。
表情は読めないけれど、耳の裏側まで赤く染まっている。
「……何かないと、買ってきちゃダメなの?」
その少し尖った言い方で、全てを察した。
本当なら、2人で映画を観に行くはずだった今日。
約束を破ってしまった負い目と、整えられた部屋や洗濯物。
それら全てを見て、彼なりの今できる最大のお返しをしようと、あんなに大急ぎで街へ走り出したのだ。
「ううん、すごく嬉しい。ありがとう、蛍」
箱を開けると、そこには宝石のように艶やかなイチゴが乗ったショートケーキが2つ。
「夜ご飯作ったから、その後に食べよ?」
私の言葉に、彼はようやく毒気を抜かれたように、力を抜いた。
「……ん」
短く頷くと、彼はそのまま私の肩に、ストンと頭を預けてきた。
髪から仄かに香る、甘いバニラの匂い。
その後、2人で囲んだ食卓はいつもよりずっと温かく、食後のケーキは、彼の不器用な優しさが混ざって、これまで食べたどのご褒美よりも甘かった。
ーーFinーー
白いワイシャツには丁寧にアイロンをかけ、その奥から出てきた、胸元に“FROGS”と書かれた緑色のユニフォーム。
「……ふふ」
畳む前に、思わず顔を埋めてみる。
汗の臭いなんて微塵もしない。
ただ、彼が愛用している柔軟剤の香りが、鼻腔をかすめた。
「……って、私、何やってるの。変態じゃん」
誰もいない部屋で顔を赤くし、慌てて畳み直す。
その後は徹底的に掃除機をかけ、キッチンで夕食の仕込みをした。
疲れている彼に合いそうな、胃に優しい献立を考えながら野菜を切る時間は、不思議と私自身の心も整えてくれる。
一通り家事を終え、余った時間でソファに座り、今日見に行く予定だった映画の前作を流し始めた。
画面の中の物語に没頭し始めた頃、玄関の鍵が開く音がした。
「ただいま……」
「おかえり、蛍!」
ネクタイを緩めながら入ってきた彼は、私の顔を見るなり、次に部屋の隅々までを驚いたようにキョロキョロと見渡した。
もしかして、帰ったと思った私がいて驚いているのだろうか。
「どうかした……?」
不安になって尋ねる私をよそに、彼は何かに追い立てられるようにネクタイをむしり取った。
「あー……。いや、ちょっと出かけてくる」
「えっ、今帰ってきたばっかりなのに?」
私の問いかけに答えず、彼はスーツを脱ぎ捨て、足早に私服に着替えて再び家を飛び出していった。
「夕飯の買い出し……?それとも、何か忘れ物?」
キッチンには、あとは温めるだけの食事が並んでいる。
「ご飯なら、もう作ったのに……」
私は小さくため息を吐き、脱ぎ散らかされたスーツを手に取った。
普段なら、こんな風に服を脱ぎ散らかして出ていくことなんてないのに。
「相当焦ってたのかな……」
丁寧にハンガーに吊るしてクローゼットへ戻す。
手持ち無沙汰になった私は、仕方なくソファに戻り、映画の続きを観ながら、彼の帰りを待った。
結局映画に集中できないまま、30分ほどで彼は再び帰宅した。
「2回目のおかえりだね」
クスクスと笑いながら出迎えると、蛍は肩を上下させて少し息を切らしていた。
そして、大切そうに抱えていた白い小箱を私に差し出してきた。
「なに、これ?」
「……ケーキ」
「ケーキ?今日って、誕生日でも記念日でもないよね?」
思わず首を傾げると、彼はフイッと顔を背けた。
表情は読めないけれど、耳の裏側まで赤く染まっている。
「……何かないと、買ってきちゃダメなの?」
その少し尖った言い方で、全てを察した。
本当なら、2人で映画を観に行くはずだった今日。
約束を破ってしまった負い目と、整えられた部屋や洗濯物。
それら全てを見て、彼なりの今できる最大のお返しをしようと、あんなに大急ぎで街へ走り出したのだ。
「ううん、すごく嬉しい。ありがとう、蛍」
箱を開けると、そこには宝石のように艶やかなイチゴが乗ったショートケーキが2つ。
「夜ご飯作ったから、その後に食べよ?」
私の言葉に、彼はようやく毒気を抜かれたように、力を抜いた。
「……ん」
短く頷くと、彼はそのまま私の肩に、ストンと頭を預けてきた。
髪から仄かに香る、甘いバニラの匂い。
その後、2人で囲んだ食卓はいつもよりずっと温かく、食後のケーキは、彼の不器用な優しさが混ざって、これまで食べたどのご褒美よりも甘かった。
ーーFinーー
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