思い出のカルーアミルク
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学生が多く借りているアパート。
築年数はそれなりだが、駅からも近く利便性が高いため、私も例に漏れずここに住んでいる。
「どうぞ、上がって」
私は月島君を招き入れた。
ワンルームのリビングダイニングは、決して広くはない。
だけど、床には生活感のある物を極力置かないようにしているし、急な来客にも対応できるよう、それなりに片付けているつもりだった。
「適当に寛いでて」
彼をリビングに待たせ、私はキッチンへと向かう。
お盆に氷の入ったグラスを2つ乗せ、その横には、戸棚の奥から出してきたカルーアのボトルと、先ほどコンビニで買ってきたばかりの牛乳、そしていちごのショートケーキを並べる。
それを月島君の待つリビングのテーブルに置くと、彼は真っ先にカルーアのボトルに興味を示した。
彼の長い指が、ボトルのラベルに印刷された文字をなぞる。
「カルーア……度数20%もあるじゃん」
彼の表情には、少しの戸惑いが浮かんでいる。
「そのまま飲むわけじゃないから大丈夫だよ。大体1:4で割るから4%くらいかな」
手際よくグラスにカルーアと牛乳を注ぎ、マドラーでかき混ぜる。
グラスの中で、濃いコーヒーの色のカルーアと、真っ白な牛乳がゆっくりと混ざり合い、カフェオレ色に変わっていく。
その一杯を、彼の前にそっと置いた。
「どうぞ。口に合わなかったら遠慮なく残してくれていいから」
念のため、予防線を張る。
彼が気に入ってくれるか、少し不安だったから。
月島君は、グラスを両手で包み込むように持ち、恐る恐るグラスに口を付けた。
彼の喉が小さく動くのが見える。
そして、その瞬間、いつもクールでポーカーフェイスを崩さない彼の表情が、ふわりと和らいだ。
眼鏡の奥の瞳が、少しだけ輝く。
「美味しい……」
そのひと言が嬉しくて、私は思わず声を弾ませた。
何よりも、私のお気に入りを、彼も気に入ってくれたことが嬉しかった。
「でしょ!」
月島君は小さなグラスの中身を、まるで喉が渇いていたかのように、グビグビと飲んでいく。
その様子を見て、私はすかさずいちごのショートケーキを勧めた。
「私はよくこのカルーアミルクと、いちごのショートケーキを合わせて食べるんだー。良かったら月島君もどうぞ」
そう言って、お盆に乗せていたショートケーキを彼の方へ差し出す。
だけど、彼はカルーアミルクのグラスを勢いよくテーブルに置いたものの、ケーキには一向に手を付けようとしなかった。
ただ、じっと、赤い苺と白いクリームを凝視している。
「……」
もしかして、ケーキは苦手だったのかな?
私は心配になりながら、ケーキとそれを無言で見つめる月島君の顔を交互に見合った。
しばらくして、沈黙を破った月島君が、どこか居心地の悪そうな顔で口を開いた。
「ちょっと引かれるかもしれないこと言ってもいい?」
「ん?いいよ?」
引かれるかもしれないこと……。
彼の口から出る言葉を想像しながら、私は静かに頷いた。
「ここに来る前にコンビニ寄るって言われたとき、てっきり……その……」
「?」
「ゴム買うためだと思って、ごめん」
「え!ゴム!?」
彼の口から飛び出した、予想もしなかったあまりにもストレートな言葉に、私の頭は真っ白になった。
私って、そんなに淫らな人間に見えた?
それとも、これは彼の冗談?
だけど、彼の、目を泳がせながらも真剣な表情からは、冗談だとはとても思えない。
「ひょっとして、酔ってる?」
カルーアミルクは飲みやすいけれど、ビールの度数と大差ない。
飲みやすい分、調子に乗って飲みすぎると、あっという間に酔いが回ってしまう。
現に、彼に出したグラスはすでにほぼ空になっていた。
「そうかもしれない」
彼は少し照れたように、目をそらした。
その仕草に、彼のクールな仮面が剥がれていくのを感じる。
「水、飲んだ方がいいよ?」
「でも、◯◯さんがオススメしてくれたから、カルーアとショート、一緒に食べたい……」
いつもの冷静な彼からは想像もできない、少し甘えたような声。
まるで、小さな子供みたいだった。
もっと飲ませたらどうなるんだろう。
そんな悪魔のような考えが頭を過ったけれど、すぐに打ち消す。
ここで無理をさせて悪酔いしたら、本当にお酒を嫌いになってしまうかもしれない。
「また作ってあげるから、そのときに一緒に食べよ?」
優しい声で、そっと語りかける。
「約束、してくれる?」
月島君は、少し迷った後、自分の小指をそっと差し出してきた。
「うん、約束」
私の小指を、彼の小指に絡ませる。
交わる体温がなんだかくすぐったかった。
ーーFinーー
築年数はそれなりだが、駅からも近く利便性が高いため、私も例に漏れずここに住んでいる。
「どうぞ、上がって」
私は月島君を招き入れた。
ワンルームのリビングダイニングは、決して広くはない。
だけど、床には生活感のある物を極力置かないようにしているし、急な来客にも対応できるよう、それなりに片付けているつもりだった。
「適当に寛いでて」
彼をリビングに待たせ、私はキッチンへと向かう。
お盆に氷の入ったグラスを2つ乗せ、その横には、戸棚の奥から出してきたカルーアのボトルと、先ほどコンビニで買ってきたばかりの牛乳、そしていちごのショートケーキを並べる。
それを月島君の待つリビングのテーブルに置くと、彼は真っ先にカルーアのボトルに興味を示した。
彼の長い指が、ボトルのラベルに印刷された文字をなぞる。
「カルーア……度数20%もあるじゃん」
彼の表情には、少しの戸惑いが浮かんでいる。
「そのまま飲むわけじゃないから大丈夫だよ。大体1:4で割るから4%くらいかな」
手際よくグラスにカルーアと牛乳を注ぎ、マドラーでかき混ぜる。
グラスの中で、濃いコーヒーの色のカルーアと、真っ白な牛乳がゆっくりと混ざり合い、カフェオレ色に変わっていく。
その一杯を、彼の前にそっと置いた。
「どうぞ。口に合わなかったら遠慮なく残してくれていいから」
念のため、予防線を張る。
彼が気に入ってくれるか、少し不安だったから。
月島君は、グラスを両手で包み込むように持ち、恐る恐るグラスに口を付けた。
彼の喉が小さく動くのが見える。
そして、その瞬間、いつもクールでポーカーフェイスを崩さない彼の表情が、ふわりと和らいだ。
眼鏡の奥の瞳が、少しだけ輝く。
「美味しい……」
そのひと言が嬉しくて、私は思わず声を弾ませた。
何よりも、私のお気に入りを、彼も気に入ってくれたことが嬉しかった。
「でしょ!」
月島君は小さなグラスの中身を、まるで喉が渇いていたかのように、グビグビと飲んでいく。
その様子を見て、私はすかさずいちごのショートケーキを勧めた。
「私はよくこのカルーアミルクと、いちごのショートケーキを合わせて食べるんだー。良かったら月島君もどうぞ」
そう言って、お盆に乗せていたショートケーキを彼の方へ差し出す。
だけど、彼はカルーアミルクのグラスを勢いよくテーブルに置いたものの、ケーキには一向に手を付けようとしなかった。
ただ、じっと、赤い苺と白いクリームを凝視している。
「……」
もしかして、ケーキは苦手だったのかな?
私は心配になりながら、ケーキとそれを無言で見つめる月島君の顔を交互に見合った。
しばらくして、沈黙を破った月島君が、どこか居心地の悪そうな顔で口を開いた。
「ちょっと引かれるかもしれないこと言ってもいい?」
「ん?いいよ?」
引かれるかもしれないこと……。
彼の口から出る言葉を想像しながら、私は静かに頷いた。
「ここに来る前にコンビニ寄るって言われたとき、てっきり……その……」
「?」
「ゴム買うためだと思って、ごめん」
「え!ゴム!?」
彼の口から飛び出した、予想もしなかったあまりにもストレートな言葉に、私の頭は真っ白になった。
私って、そんなに淫らな人間に見えた?
それとも、これは彼の冗談?
だけど、彼の、目を泳がせながらも真剣な表情からは、冗談だとはとても思えない。
「ひょっとして、酔ってる?」
カルーアミルクは飲みやすいけれど、ビールの度数と大差ない。
飲みやすい分、調子に乗って飲みすぎると、あっという間に酔いが回ってしまう。
現に、彼に出したグラスはすでにほぼ空になっていた。
「そうかもしれない」
彼は少し照れたように、目をそらした。
その仕草に、彼のクールな仮面が剥がれていくのを感じる。
「水、飲んだ方がいいよ?」
「でも、◯◯さんがオススメしてくれたから、カルーアとショート、一緒に食べたい……」
いつもの冷静な彼からは想像もできない、少し甘えたような声。
まるで、小さな子供みたいだった。
もっと飲ませたらどうなるんだろう。
そんな悪魔のような考えが頭を過ったけれど、すぐに打ち消す。
ここで無理をさせて悪酔いしたら、本当にお酒を嫌いになってしまうかもしれない。
「また作ってあげるから、そのときに一緒に食べよ?」
優しい声で、そっと語りかける。
「約束、してくれる?」
月島君は、少し迷った後、自分の小指をそっと差し出してきた。
「うん、約束」
私の小指を、彼の小指に絡ませる。
交わる体温がなんだかくすぐったかった。
ーーFinーー
