「おはよー」


教室に着くと、まだ佐久早君は来ていない。

いや、別にいてもいなくてもどっちでもいい。
席は遠くないけど、いつも挨拶すらしないし。

1限から小テストがあるから、少し勉強しようかな。
そう思い、私は教材を机に出した。


「◯◯さん」

「ひゃいっ！」


振り向くと佐久早君に名前を呼ばれた。
思わず、声が裏返る。


「な、何？」


いつも話しかけてこないのに、あんな夢を見た日に限って話しかけてくるなんて。


「プリント落とした」

「え、ああ。ありがとう」


教材を出すときに落ちたのだろう。

そう言うと、そそくさと自分の席に着く佐久早君。

心構えをしたのに、大した内容ではなかった。

落としたことを教えてはくれるけど、決して拾ってはくれない佐久早君。
確か潔癖症なんだっけ。

私はそう思い出しながらプリントを拾った。

それにしても緊張と驚きのせいで汗が出てきた。
勉強はやめて、速やかにお手洗いへ行き、汗の処理をしないと。

脇汗パットを取り替えて、汗拭きシートと無香料のスプレーをかける。
これで大丈夫かな。

お手洗いを出ようとしたら派手目な女子生徒とぶつかりそうになった。


「あ、すみません」


自分の匂いばかり気になって回りが見えていなかった。
恥ずかしい。

何気ない顔をして自分の席へ座ると、佐久早君が不機嫌そうな顔をしてこちらを見ている気がした。

え、まだ汗臭かったかな。
自分でチェックしても分からないから困る。

佐久早君の視線が気になって、授業はあまり集中できなかった。