もう逃げない
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~もう逃げない~
今日も残業覚悟でデスクワークをこなしていると、
「お前、整体行ってこい」
先輩が気を利かせてくれた。
「整体……ですか」
「最近ずっと肩が痛いって言ってただろ。ぶっ倒れる前にさっさと治せ」
仕事は残っているけど、この機会を逃すとしばらくなさそうだったから、先輩の言葉に甘えることにした。
「ありがとうございます」
ーーーー
えーっと、青葉接骨院……青葉接骨院……。
先輩がお勧めしてくれたところ。
ここだ。
スマホの地図アプリを消して扉を開けた。
「こんばんは~」
「初めてなんですけど……」
受付のお姉さんに渡された問診票を記入してから、呼ばれるまで席で待った。
「◯◯さん。中へどうぞ」
施術室へ入ると担当医さんが挨拶をしてくれた。
「初めまして。今日の担当をします縁下です。えっと◯◯さんは肩が痛い……と」
カルテを見ながら気になるところ訊ねてきた先生。
それよりも今なんて言った?縁下?
見覚えのある顔付きに、その名字。
「力……」
私は思わず下の名前を呼んだ。
「………え、●●?」
カルテから顔をあげた先生はようやくまともに私の顔を見た。
やっぱりあの力なんだね。
力は私が高校生の頃に生まれて初めて告白した同級生。
結果は玉砕。
振られるまでは割と仲良くしていたのに、それ以降は気まずくなってしまい、そのまま卒業。
もちろん連絡も取っていなかった。
まさかこんなところで再開するなんて。
だけど今は先生と患者。
気まずさを感じながらも施術が始まった。
「じゃあ、そこにうつ伏せになって」
急遽整体に来ることになったなら、格好がタイトなスカート。
もし次があるならパンツにしないとな、なんてことを考えながら横になった。
力は淡々と肩を揉んでいく。
「どう?」
「めちゃくちゃ痛い」
「凝り固まってるからな」
どうせデスクワークばかりで運動していないんだろ、と図星をつかれた。
説教が始まるのかと思いきや、
「元気してた?」
なんて、近況を聞いてきた。
まだ当時みたいに私を気に掛けてくれるの?
いやいや、思い上がるな。
ただの世間話。
「まあ、ぼちぼち」
「久しぶりなのに素っ気ないな」
初めて告白した相手だもん。
そりゃあ、気まずくもなる。
「それにしても、なんでここまでガチガチになるまで放置するかね」
「うぐっ」
「これは下半身もやらないとな。ちょっと下触るな」
そう言ってタオルを下半身に被せた。
「ひぎっ」
「我慢しろよなー」
「ふぁぁ……ン」
やばい、今変な声出た。
力の手ってこんなにも大きかったっけ。
温かかくてゴツゴツしていて。
どうしよう、変な気持ちになってきた。
それからもときどき漏れる声を我慢しながらも淡々と凝りを揉みほぐして行く力。
きっと意識してるの私だけなんだろうな。
「よし、今日はここまでな。あまりやり過ぎると揉み疲れするから、続きはまた今度」
「はい」
「できれば週1とかで来るといいんだけど……」
「繁忙期だから難しいかも」
「土曜日も半日やってるから、来れたら来いよ」
「うん」
「あと……」
まだ何かあるのか。
「連絡先、変わってないよな?」
「え、うん」
「分かった」
分かったって何?
連絡してくれるの?
昔の思いが再燃しそうになりながらも接骨院を後にした。
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