キャッチコピー
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〜キャッチコピー〜
「やる気がないなら帰れ!」
部活の顧問の鋭い声が、広い体育館に冷たく響き渡った。
今日1日の不調だっただけで、こんな仕打ちを受けるとは。
私の頬が熱くなるのを感じた。
「出ていくわよ!」
売り言葉に買い言葉だ。
私は持っていた汗で湿ったタオルを、床に投げ捨てた。
乱暴に荷物をまとめる私に、後輩たちは心配そうな顔で、先輩たちは呆れたような、あるいは無関心な顔を向けている。
そのどれもが、今の私には腹立たしかった。
ガラガラ ガシャンッ
わざとらしく大きな音を立てて体育館の重い扉を開け、外に出た。
引き止める者は誰もいない。
外の光は、体育館内の澱んだ空気とは打って変わって眩しかった。
勢いよく飛び出したものの、多少の後ろめたさはあった。
でも、このちっぽけなプライドのせいで、私は振り返ることができなかった。
ただ、このまま帰宅するのも癪に障り、私はしばらく時間を潰すことに決めた。
学校の隅、体育館から離れた場所にある、古びた水飲み場の縁石に腰掛け、時間を弄ぶ。
空はまだ青く、部活の終わるには早すぎる時間だ。
鞄からスマホを取り出し、ざっと話題のニュースの見出しを見る。
指が止まったのは、最新映画情報の記事だった。
“この夏、永遠の愛が生まれる”
というキャッチコピーの、高校生男女の恋愛模様が描かれたベタなラブストーリー。
永遠の愛か……。
そんなもの、この世にあるのかな。
冷めた目でそう思いながら、視線をスマホから上げると、グラウンドで外練習をしている生徒たち、特に男子バレー部のランニングの集団が目に入った。
すると、黒いジャージ姿の男子生徒が、集団から離れてこちらへ向かってくる。
「◯◯じゃん、何やってんの?部活は?」
小走りで近付いてきたのは、男子バレー部の縁下だった。
彼の額には汗がにじみ出ている。
「よいしょっと」
「座っていいなんて言ってない」
「そんなに堅いこと言うなよ」
縁下は、私の言葉を軽く無視して隣に腰掛けた。
彼のジャージ姿の胸元から、汗と土の匂いがふわりと香る。
「何かあったのか?」
縁下の声は、いつも通り落ち着いていて、変に詮索する色がない。
「……部活放棄した」
私は視線を上げず、目の前の水飲み場の蛇口をじっと見つめながら、ぽつりと答えた。
「そっか。……俺もさ、部活から逃げたことあって。半年以上も」
縁下は、「ダセェだろ」と自嘲するように笑う。
「結局、今戻ってきて分かったんだけど、逃げた方がしんどかった」
隣に座る縁下は、私の方に向き直った。
彼の瞳は真っ直ぐで、ごまかしがない。
「だから、◯◯も逃げんな」
「……私は縁下と違うもん。私は、もう戻れないよ」
「ふーん」
縁下はそう言って、少し考えるそぶりを見せた後、いきなり突拍子のないことを言った。
「それなら、俺も今から部活サボろうかな」
「え?」
「新しいコーチも厳しいんじゃないの?サボったら目立つよ」
私は思わず顔を上げる。
「そうだけど、でも、このまま◯◯を1人にさせて帰すのも違うかなって」
「逃げたことの方がしんどかった」と語った縁下に、また同じ気持ちを味合わせるなんて、させたくなかった。
「部活戻りなよ」
「◯◯も部活に戻るなら俺も戻る」
ズルい。
そんなことを言われたら、私が戻るしかなくなる。
でも、一度感情的になって飛び出してしまった手前、すぐに体育館の扉を開ける勇気はない。
「明日から……」
「ん?」
「明日から。明日からちゃんと部活行く」
そう言うと、縁下の表情がふわりと緩んだ。
「約束だからな」
縁下は自分の右手の小指を、そっと私の左手の小指に結びつけた。
「じゃあ、俺は戻る。また明日」
縁下は立ち上がり、私が何か言い返す前にグラウンドへと駆け足で戻って行った。
私は急に触れられた小指を、しばらく呆然と眺めた。
彼の体温がまだ残っているような気がした。
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