正義の面を被った狼
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その後、ポストに届く嫌がらせの手紙は、嘘のようにピタリと止んだ。
後に分かったことだけれど、あのストーカーは私ではなく、以前この部屋に住んでいた女性に執着していたらしい。
前の住人が引っ越しをしたことを知らないまま、背格好の似ている私を、別人と気付かずに付きまとっていたのだ。
とんだ災難だ。
とはいえ、ストーカー騒動は無事に解決した。
これで、不安なく眠れるはず。
それなのに、不思議と私の心は軽くならなかった。
むしろ、私の危機に駆けつけてくれた澤村さんのことを考えると、胸の奥がきゅっと痛むようになった。
あの事件以来、彼の私的な電話番号は知っているものの、用もないのに交番へ行く勇気は出なかった。
ましてや、公務中の彼を私的な感情で煩わせるわけにはいかない。
代わりに、あの夜、偶然一緒になった居酒屋さんへと、私は何度も足を運んだ。
ひょっとして、また偶然会えたら……。
そんな淡い期待に、自分でも呆れるくらいだった。
自分を危険から救ってくれた警察官に恋をするなんて、ドラマの見過ぎではないか。
ーーーー
そして、何度目かの正直。
いつものカウンター席で、私は1人ビールを傾けていた。
そのとき、店先に現れた3人組の中に、紛れもない彼の姿を見つけた。
私は思わず席を立った。体が、理性よりも早く動いた。
「澤村さん!」
私の声に、澤村さんは驚いたように目を見開いた。
「◯◯……さん」
驚くのも当然だ。
まるで待ち伏せしていたみたいなことをしたら。
「なんだなんだ!大地の彼女か?」
涙ぼくろのある、人懐っこそうな笑顔の男性が、真っ先に澤村さんをからかうように言った。
「やるな、大地!よかったら一緒に飲もうよ」
髭を生やしたロン毛メガネの、少し落ち着いた雰囲気の男性も続いた。
澤村さんの名前って大地って言うのか。
知らなかった。
私の中の澤村さんの情報が、また1つ増えて、なんだか嬉しかった。
「お前らなー」
澤村さんは、大きくため息を吐いた。
だけど、私の目を真っ直ぐ見つめ、ためらいがちに口を開いた。
「◯◯さんが嫌じゃなければ、一緒に飲みませんか?」
もちろん、断る理由はない。
「はい、ぜひ!」
私は満面の笑みで答えた。
お連れの2人は、澤村さんの高校時代からの付き合いだという、菅原さんと東峰さんというらしい。
彼らは、事件の経緯を聞くと、一様に驚き、私をねぎらってくれた。
「まさかそんな出会い方とはな!」
と菅原さん。
「運命感じるな」
と東峰さんは少し興奮気味だ。
「おいおい、2人共……。◯◯さんに迷惑だろ」
澤村さんが窘めるように言ったけれど、私は居ても立ってもいられず、本心を口走った。
「迷惑なんかじゃないです。私、澤村さんに会いたかったので」
「え……」
澤村さんが言葉に詰まる。
「あ、ほら。ちゃんとお礼を言えていなかったので!」
危うく告白めいたことを言ってしまうところだった。
私は慌てて付け足し、視線を逸らした。
澤村さんは、
「責務を全うしただけなので」
と、特にあの日のことは気にしていないようだった。
……。
…………。
しばらく4人で楽しく会話が続き、お酒が進んできた頃。
酔いの勢いもあってか、菅原さんはからかうように、唐突に話を切り出した。
「でも実際、大地は●●ちゃんのことどう思ってるだ?」
本人のいる前での大胆な質問。
知りたいけど、知りたくない……。
私の心臓は、煩いほどに脈打っていた。
澤村さんはジョッキを置き、少し思案するような間を置いた後、意外なことを言った。
「そうだな……色んな表情を見せてくれる人だと思っている」
「ほほう」
東峰さんが興味深そうに相槌を打つ。
「嫌い」だとも「好き」だとも、核心的なことは何も言っていない。
それでも、悪い印象ではないことに、私は妙に嬉しく感じた。
この高鳴る鼓動を隠すように、私はお酒を勢いよく煽った。
後に分かったことだけれど、あのストーカーは私ではなく、以前この部屋に住んでいた女性に執着していたらしい。
前の住人が引っ越しをしたことを知らないまま、背格好の似ている私を、別人と気付かずに付きまとっていたのだ。
とんだ災難だ。
とはいえ、ストーカー騒動は無事に解決した。
これで、不安なく眠れるはず。
それなのに、不思議と私の心は軽くならなかった。
むしろ、私の危機に駆けつけてくれた澤村さんのことを考えると、胸の奥がきゅっと痛むようになった。
あの事件以来、彼の私的な電話番号は知っているものの、用もないのに交番へ行く勇気は出なかった。
ましてや、公務中の彼を私的な感情で煩わせるわけにはいかない。
代わりに、あの夜、偶然一緒になった居酒屋さんへと、私は何度も足を運んだ。
ひょっとして、また偶然会えたら……。
そんな淡い期待に、自分でも呆れるくらいだった。
自分を危険から救ってくれた警察官に恋をするなんて、ドラマの見過ぎではないか。
ーーーー
そして、何度目かの正直。
いつものカウンター席で、私は1人ビールを傾けていた。
そのとき、店先に現れた3人組の中に、紛れもない彼の姿を見つけた。
私は思わず席を立った。体が、理性よりも早く動いた。
「澤村さん!」
私の声に、澤村さんは驚いたように目を見開いた。
「◯◯……さん」
驚くのも当然だ。
まるで待ち伏せしていたみたいなことをしたら。
「なんだなんだ!大地の彼女か?」
涙ぼくろのある、人懐っこそうな笑顔の男性が、真っ先に澤村さんをからかうように言った。
「やるな、大地!よかったら一緒に飲もうよ」
髭を生やしたロン毛メガネの、少し落ち着いた雰囲気の男性も続いた。
澤村さんの名前って大地って言うのか。
知らなかった。
私の中の澤村さんの情報が、また1つ増えて、なんだか嬉しかった。
「お前らなー」
澤村さんは、大きくため息を吐いた。
だけど、私の目を真っ直ぐ見つめ、ためらいがちに口を開いた。
「◯◯さんが嫌じゃなければ、一緒に飲みませんか?」
もちろん、断る理由はない。
「はい、ぜひ!」
私は満面の笑みで答えた。
お連れの2人は、澤村さんの高校時代からの付き合いだという、菅原さんと東峰さんというらしい。
彼らは、事件の経緯を聞くと、一様に驚き、私をねぎらってくれた。
「まさかそんな出会い方とはな!」
と菅原さん。
「運命感じるな」
と東峰さんは少し興奮気味だ。
「おいおい、2人共……。◯◯さんに迷惑だろ」
澤村さんが窘めるように言ったけれど、私は居ても立ってもいられず、本心を口走った。
「迷惑なんかじゃないです。私、澤村さんに会いたかったので」
「え……」
澤村さんが言葉に詰まる。
「あ、ほら。ちゃんとお礼を言えていなかったので!」
危うく告白めいたことを言ってしまうところだった。
私は慌てて付け足し、視線を逸らした。
澤村さんは、
「責務を全うしただけなので」
と、特にあの日のことは気にしていないようだった。
……。
…………。
しばらく4人で楽しく会話が続き、お酒が進んできた頃。
酔いの勢いもあってか、菅原さんはからかうように、唐突に話を切り出した。
「でも実際、大地は●●ちゃんのことどう思ってるだ?」
本人のいる前での大胆な質問。
知りたいけど、知りたくない……。
私の心臓は、煩いほどに脈打っていた。
澤村さんはジョッキを置き、少し思案するような間を置いた後、意外なことを言った。
「そうだな……色んな表情を見せてくれる人だと思っている」
「ほほう」
東峰さんが興味深そうに相槌を打つ。
「嫌い」だとも「好き」だとも、核心的なことは何も言っていない。
それでも、悪い印象ではないことに、私は妙に嬉しく感じた。
この高鳴る鼓動を隠すように、私はお酒を勢いよく煽った。
