正義の面を被った狼
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その日の夜も、いつもと変わらずポストに手紙が届いていた。
最近はもう、その白い封筒を開封する気力すら湧かなかった。
だけど、ストーカーの動向を知るため、久しぶりに封を開けてみることにした。
“最近髪の毛巻かないね。ストレートも似合うけど”
「え……?」
手紙を読んだ瞬間、妙な違和感を覚えた。
最近どころか、私が髪を巻くのは、旅行やイベントなど、特別なときくらいだ。
普段は仕事で邪魔にならないよう、ごく自然なストレートにしている。
この手紙は、まるで私宛の物じゃないような……。
この発見を、すぐに澤村さんに報告するべきだと思った。
だけど、時刻はもう遅い。
プライベートな連絡先とはいえ、さすがに深夜に電話するのは迷惑だろう。
はやる気持ちを抑え、翌朝、出勤前にその違和感を綴ったショートメールを送った。
すると、即座に澤村さんから電話がかかってきた。
「はい、◯◯です」
受話器の向こうの澤村さんの声は、少し緊張しているようだった。
“ショートメール、拝見しました。借りた手紙と照らし合わせて気になったことがあるので、今晩お会いできませんか?”
「それなら仕事終わりに交番に寄りましょうか?……あ、でももう1人の、あの警察官がいたら嫌だなあ……」
私の遠慮がちな言葉に、澤村さんは落ち着いた声で返してくれた。
“ああ、先輩は仮眠している時間なので大丈夫ですよ。私1人で対応します”
その配慮が嬉しかった。
「分かりました、では後で伺います」
仕事終わりに交番で会う約束を取り付けて、電話を切った。
ーーーー
約束した日に限って、仕事がなかなか終わらない。
終わらせるべき書類に集中しながらも、時計を見れば、すっかり夜が更けてしまっている。
澤村さん、まだいてくれるかな?もう仮眠室に入っていないかな?
あの感じの悪い中年の警察官に会いませんように……。
そんなことを考えながら、私は早足で交番へ向かった。
そのとき、ふと、誰かに付けられている気がした。
背中に冷たい視線を感じる。
私が立ち止まると、背後のアスファルトを叩く足音もピタリと止まる。
私が再び早足で歩き出すと、その足音も、不規則なリズムで再び始まる。
冷たい汗が背中を流れる。
心臓が警鐘のように激しく脈打った。
急がないと。
私は歩く速度を上げた。
だけど、交番が見え始めた、あとほんの数メートルのところで、後ろから肩をガシリと掴まれた。
「っ!?」
逃げようとしたけれど、まるで金縛りにあったかのように身動きができない。
背後からは、異常なほど荒い息づかいが聞こえてくる。
「ハァハァ……ミ、ミサトちゃん……!」
……ミサトちゃん?
心当たりのない名前。
それなのに、恐怖に支配されながらも、私は反射的に振り向いてしまった。
私の顔を見た瞬間、ストーカーの目に映っていた狂気的な光が、一瞬で驚愕と困惑に変わった。
「ミサt……誰だ、お前!」
「ヒッ」
喉から情けない声が漏れた。
全身の力が抜け、膝が笑い、その場に崩れ落ちそうになる。
だけど、そのとき、力強い声が夜道に響き渡った。
「何をしている!」
それは、間違いなく待ち合わせをしていた人物。
澤村さんだ。
その声に驚いたストーカーは、私を乱暴に押し退けて逃げようとした。
だけど、すぐさま声の持ち主に取り押さえられた。
夜の闇の中、警察官の制服を纏った澤村さんが、プロの動きでストーカーを地面に組み伏せている。
彼は手際よく無線を取り、冷静沈着に応援を呼んだ。
その背中が、頼もしく、大きく見えた。
まもなく、パトカーがサイレンの音と共に光を回しながら到着し、ストーカーは力ずくで後部座席に押し込まれていった。
静けさが戻った夜道。
澤村さんが私に優しく語りかけてきた。
「大丈夫ですか?」
「……はい」
そう答えるのがやっとだった。
安心した途端、緊張の糸が完全に切れ、私は膝から力が抜け、その場に座り込んでしまった。
にもかかわらず、手の震えは全く止まらない。
自分が思っていた以上に、命の危険を感じて怖がっていたのだと自覚した。
「今日はもう遅いので家まで送ります。おそらく明日、詳しい事情聴取があると思います」
澤村さんは淡々と業務連絡をこなす。
だけど、その眼差しは優しく、私の心にそっと寄りそってくれているようだった。
その優しさに触れながら、私の胸のドキドキは一向に収まらない。
この激しい鼓動は恐怖だけじゃない。
そんな予感がした。
最近はもう、その白い封筒を開封する気力すら湧かなかった。
だけど、ストーカーの動向を知るため、久しぶりに封を開けてみることにした。
“最近髪の毛巻かないね。ストレートも似合うけど”
「え……?」
手紙を読んだ瞬間、妙な違和感を覚えた。
最近どころか、私が髪を巻くのは、旅行やイベントなど、特別なときくらいだ。
普段は仕事で邪魔にならないよう、ごく自然なストレートにしている。
この手紙は、まるで私宛の物じゃないような……。
この発見を、すぐに澤村さんに報告するべきだと思った。
だけど、時刻はもう遅い。
プライベートな連絡先とはいえ、さすがに深夜に電話するのは迷惑だろう。
はやる気持ちを抑え、翌朝、出勤前にその違和感を綴ったショートメールを送った。
すると、即座に澤村さんから電話がかかってきた。
「はい、◯◯です」
受話器の向こうの澤村さんの声は、少し緊張しているようだった。
“ショートメール、拝見しました。借りた手紙と照らし合わせて気になったことがあるので、今晩お会いできませんか?”
「それなら仕事終わりに交番に寄りましょうか?……あ、でももう1人の、あの警察官がいたら嫌だなあ……」
私の遠慮がちな言葉に、澤村さんは落ち着いた声で返してくれた。
“ああ、先輩は仮眠している時間なので大丈夫ですよ。私1人で対応します”
その配慮が嬉しかった。
「分かりました、では後で伺います」
仕事終わりに交番で会う約束を取り付けて、電話を切った。
ーーーー
約束した日に限って、仕事がなかなか終わらない。
終わらせるべき書類に集中しながらも、時計を見れば、すっかり夜が更けてしまっている。
澤村さん、まだいてくれるかな?もう仮眠室に入っていないかな?
あの感じの悪い中年の警察官に会いませんように……。
そんなことを考えながら、私は早足で交番へ向かった。
そのとき、ふと、誰かに付けられている気がした。
背中に冷たい視線を感じる。
私が立ち止まると、背後のアスファルトを叩く足音もピタリと止まる。
私が再び早足で歩き出すと、その足音も、不規則なリズムで再び始まる。
冷たい汗が背中を流れる。
心臓が警鐘のように激しく脈打った。
急がないと。
私は歩く速度を上げた。
だけど、交番が見え始めた、あとほんの数メートルのところで、後ろから肩をガシリと掴まれた。
「っ!?」
逃げようとしたけれど、まるで金縛りにあったかのように身動きができない。
背後からは、異常なほど荒い息づかいが聞こえてくる。
「ハァハァ……ミ、ミサトちゃん……!」
……ミサトちゃん?
心当たりのない名前。
それなのに、恐怖に支配されながらも、私は反射的に振り向いてしまった。
私の顔を見た瞬間、ストーカーの目に映っていた狂気的な光が、一瞬で驚愕と困惑に変わった。
「ミサt……誰だ、お前!」
「ヒッ」
喉から情けない声が漏れた。
全身の力が抜け、膝が笑い、その場に崩れ落ちそうになる。
だけど、そのとき、力強い声が夜道に響き渡った。
「何をしている!」
それは、間違いなく待ち合わせをしていた人物。
澤村さんだ。
その声に驚いたストーカーは、私を乱暴に押し退けて逃げようとした。
だけど、すぐさま声の持ち主に取り押さえられた。
夜の闇の中、警察官の制服を纏った澤村さんが、プロの動きでストーカーを地面に組み伏せている。
彼は手際よく無線を取り、冷静沈着に応援を呼んだ。
その背中が、頼もしく、大きく見えた。
まもなく、パトカーがサイレンの音と共に光を回しながら到着し、ストーカーは力ずくで後部座席に押し込まれていった。
静けさが戻った夜道。
澤村さんが私に優しく語りかけてきた。
「大丈夫ですか?」
「……はい」
そう答えるのがやっとだった。
安心した途端、緊張の糸が完全に切れ、私は膝から力が抜け、その場に座り込んでしまった。
にもかかわらず、手の震えは全く止まらない。
自分が思っていた以上に、命の危険を感じて怖がっていたのだと自覚した。
「今日はもう遅いので家まで送ります。おそらく明日、詳しい事情聴取があると思います」
澤村さんは淡々と業務連絡をこなす。
だけど、その眼差しは優しく、私の心にそっと寄りそってくれているようだった。
その優しさに触れながら、私の胸のドキドキは一向に収まらない。
この激しい鼓動は恐怖だけじゃない。
そんな予感がした。
