正義の面を被った狼
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ーー澤村sideーー
いつもより早く仕事が終わり、制服を脱いだ俺は、心身ともに疲れを癒そうと、1人で居酒屋のカウンターに座っていた。
しかし、アルコールで身体の緊張は解けても、心の奥底に凝りが残っていた。
昼間、交番に相談に来た若い女性。
先輩警察官の冷たい言葉と、それに対する彼女の屈辱的な表情が、脳裏から離れない。
先輩の言い分も職務上は理解できる。
しかし、被害者の不安をああも蔑ろにしていいはずがない。
彼女は、あの後、どんな気持ちで交番を後にしたのだろうか。
なんとかそのモヤモヤを忘れようと、追加でお酒を頼もうとメニュー表に手を伸ばした、そのとき。
隣の席の女性も同じタイミングで手を伸ばしてきた。
「すみません」
「いえ、お先にどうぞ」
メニュー表を譲ろうと顔を上げた瞬間、俺は思わず2度見してしまった。
間違いない。
昼間の、手紙の女性だ。
彼女、もとい◯◯さんは相当ご立腹の様子で、その怒りは飲むペースの早さにはっきりと現れていた。
ジョッキがどんどん空になっていく。
案の定、彼女が帰ろうと席を立った途端、フラフラと歩くのもままならない状態だった。
このまま1人で帰しては危ない。
「送っていきます」
そう言って肩を貸すと、彼女は拒否せず俺に寄りかかってきた。
しばらく歩き、アパートに到着した。
彼女の家は、女性の1人暮らしとは思えないほど警備の薄さだった。
オートロックもなければ、階層も1階。
思わず、身の安全を心配してしまう。
「ここ、ここ。私の家」
「オートロックじゃないんですね。部屋どこですか」
「101号室。その前に、ポスト……」
玄関に入る直前、◯◯さんは酔った頭で、執念のようにポストを確認した。
ダイヤルキーを回し、ポストを開ける。
中には、例の白い封筒が入っていた。
「ほら、この手紙!私が家を出る前に仕込んで、自作自演したっていうの?毎日毎日、こんな気味の悪い手紙を自分で書いて、ポストに入れるとでも!?」
酔って刺々しい口調だが、その瞳は信じて欲しいと訴えていた。
「俺は最初から疑っていませんって」
「……ふ、ふーん。まあ、どっちでもいいけどね!」
素直に喜びを表せない彼女の強がりに、私は思わず苦笑した。
鍵を開けて部屋に入り、◯◯さんをそっとベッドに寝かせると、彼女は疲れていたのだろう、すぐに深い眠りについた。
規則正しい寝息が、静かな部屋に響く。
一息ついた後、これまでの手紙を確認することにした。
未開封のものはここ最近届いた物だろう。触りたくもないだろう、その気持ちは痛いほど分かる。
手紙の束を広げると、開封済みの中で角が折れ曲がり、シワだらけの手紙が目についた。
その古さから、◯◯さんが捨てていなければ、これが最初に届いたものかもしれない。
俺はその手紙を取り出し、慎重に読み始めた。
“僕のためにやっと彼氏と別れてくれたんだね”
その一文を読み、私の背筋に冷たいものが走った。
確か、彼女は居酒屋でまともに恋愛したことがないと、酔いながらも言っていた。
なのに、この手紙は、まるで彼女が彼氏と付き合っていたことを前提に書かれている。
しかも、◯◯さんはこの春に引っ越してきたばかりだ。
このストーカーは、以前から彼女を知っていたのだろうか。
いや、それにしては矛盾が多すぎる。
「もしかして、このストーカーは……」
深く考えてしまいそうになるが、これ以上の長居はまずい。
残りの手紙は、改めて調べるために預からせてもらうことに決めた。
ふと、◯◯さんの寝顔を見る。
昼間の交番では不安げな表情。
居酒屋では怒りを隠しきれない表情。
常に眉間にシワが寄っていた。
だからだろうか。
こうして無防備に眠る彼女の顔は、どこか幼くて、思わず可愛らしいと感じてしまった。
口に入りそうな前髪を、そっと指先で触れる。
「んっ……」
微かな寝息と共に、彼女の口から小さな声が漏れた。
心臓が跳ね上がり、焦って動きを止める。起こしてしまったかと息を潜めたが、◯◯さんは寝返りをうつと、またスースーと静かな寝息を立てた。
この人を、自分の手で守らなければならない。
そんな強い個人的な使命感が、胸の奥で強く芽生え始めていた。
俺はテーブルに、手紙を預かった旨と、そして自分のプライベートな電話番号を記した短い置き手紙を残した。
鍵をポストに入れ、静かに部屋を後にした。
いつもより早く仕事が終わり、制服を脱いだ俺は、心身ともに疲れを癒そうと、1人で居酒屋のカウンターに座っていた。
しかし、アルコールで身体の緊張は解けても、心の奥底に凝りが残っていた。
昼間、交番に相談に来た若い女性。
先輩警察官の冷たい言葉と、それに対する彼女の屈辱的な表情が、脳裏から離れない。
先輩の言い分も職務上は理解できる。
しかし、被害者の不安をああも蔑ろにしていいはずがない。
彼女は、あの後、どんな気持ちで交番を後にしたのだろうか。
なんとかそのモヤモヤを忘れようと、追加でお酒を頼もうとメニュー表に手を伸ばした、そのとき。
隣の席の女性も同じタイミングで手を伸ばしてきた。
「すみません」
「いえ、お先にどうぞ」
メニュー表を譲ろうと顔を上げた瞬間、俺は思わず2度見してしまった。
間違いない。
昼間の、手紙の女性だ。
彼女、もとい◯◯さんは相当ご立腹の様子で、その怒りは飲むペースの早さにはっきりと現れていた。
ジョッキがどんどん空になっていく。
案の定、彼女が帰ろうと席を立った途端、フラフラと歩くのもままならない状態だった。
このまま1人で帰しては危ない。
「送っていきます」
そう言って肩を貸すと、彼女は拒否せず俺に寄りかかってきた。
しばらく歩き、アパートに到着した。
彼女の家は、女性の1人暮らしとは思えないほど警備の薄さだった。
オートロックもなければ、階層も1階。
思わず、身の安全を心配してしまう。
「ここ、ここ。私の家」
「オートロックじゃないんですね。部屋どこですか」
「101号室。その前に、ポスト……」
玄関に入る直前、◯◯さんは酔った頭で、執念のようにポストを確認した。
ダイヤルキーを回し、ポストを開ける。
中には、例の白い封筒が入っていた。
「ほら、この手紙!私が家を出る前に仕込んで、自作自演したっていうの?毎日毎日、こんな気味の悪い手紙を自分で書いて、ポストに入れるとでも!?」
酔って刺々しい口調だが、その瞳は信じて欲しいと訴えていた。
「俺は最初から疑っていませんって」
「……ふ、ふーん。まあ、どっちでもいいけどね!」
素直に喜びを表せない彼女の強がりに、私は思わず苦笑した。
鍵を開けて部屋に入り、◯◯さんをそっとベッドに寝かせると、彼女は疲れていたのだろう、すぐに深い眠りについた。
規則正しい寝息が、静かな部屋に響く。
一息ついた後、これまでの手紙を確認することにした。
未開封のものはここ最近届いた物だろう。触りたくもないだろう、その気持ちは痛いほど分かる。
手紙の束を広げると、開封済みの中で角が折れ曲がり、シワだらけの手紙が目についた。
その古さから、◯◯さんが捨てていなければ、これが最初に届いたものかもしれない。
俺はその手紙を取り出し、慎重に読み始めた。
“僕のためにやっと彼氏と別れてくれたんだね”
その一文を読み、私の背筋に冷たいものが走った。
確か、彼女は居酒屋でまともに恋愛したことがないと、酔いながらも言っていた。
なのに、この手紙は、まるで彼女が彼氏と付き合っていたことを前提に書かれている。
しかも、◯◯さんはこの春に引っ越してきたばかりだ。
このストーカーは、以前から彼女を知っていたのだろうか。
いや、それにしては矛盾が多すぎる。
「もしかして、このストーカーは……」
深く考えてしまいそうになるが、これ以上の長居はまずい。
残りの手紙は、改めて調べるために預からせてもらうことに決めた。
ふと、◯◯さんの寝顔を見る。
昼間の交番では不安げな表情。
居酒屋では怒りを隠しきれない表情。
常に眉間にシワが寄っていた。
だからだろうか。
こうして無防備に眠る彼女の顔は、どこか幼くて、思わず可愛らしいと感じてしまった。
口に入りそうな前髪を、そっと指先で触れる。
「んっ……」
微かな寝息と共に、彼女の口から小さな声が漏れた。
心臓が跳ね上がり、焦って動きを止める。起こしてしまったかと息を潜めたが、◯◯さんは寝返りをうつと、またスースーと静かな寝息を立てた。
この人を、自分の手で守らなければならない。
そんな強い個人的な使命感が、胸の奥で強く芽生え始めていた。
俺はテーブルに、手紙を預かった旨と、そして自分のプライベートな電話番号を記した短い置き手紙を残した。
鍵をポストに入れ、静かに部屋を後にした。
