正義の面を被った狼
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「じゃあ、そろそろ……」
私はそう言って、カウンターから立ち上がろうとした。
次の瞬間、世界がぐらりと揺れた。
思っていた以上に酔っていたことに、今更ながら気付く。
まともに足が前に進まない。
「あ、危ない」
隣に座っていた澤村さんが素早く反応し、私の肩を支えてくれた。
「大丈夫ですか。送っていきます」
拒否する気力も、冷静に断る理性が働かなかった。
私は彼の申し出に素直に甘えた。
澤村さんは私の腕をしっかりと支え、そのまま自分の肩を貸してくれた。
彼の腕は、日頃から鍛えている警察官なだけあって、驚くほどしっかりしていて、心臓の近くにあるその温かさと強さに、言いようのない安心感が生まれた。
2人並んで、夜道をふらふらと歩く。
「飲み過ぎですよ」
澤村さんが呆れたように笑った。
「飲まないとやってらんないのよ!」
街灯が淡い光を落とし、2人分の影を長く伸ばす。
夜風はほんのり冷たく、火照った頬に心地よかった。
しばらく歩き、見慣れたアパートが見えてきた。
「ここ、ここ。私の家」
「オートロックじゃないんですね」
澤村さんの声に、私は一瞬、自分のアパートのセキュリティの低さを指摘されたようで、少しだけ苛立ちを覚えた。
「部屋はどこですか」
「101号室。その前に、ポスト……」
酔った頭で、指先はかすかに震えていたけれど、なんとかダイヤルキーを回してポストを開けた。
中には予想通り、また1通の白い手紙が入っていた。
私はその手紙を乱暴に引っ張り出し、澤村さんの目の前に突きつけた。
「ほら、この手紙!私が家を出る前に仕込んで、自作自演したっていうの?私が毎日毎日、こんな気味の悪い手紙を自分で書いて、ポストに入れるとでも!?」
口調は酔ってどこか刺があったけれど、本当は、目の前のこの人に、心から信じてほしいという叫びでいっぱいだった。
澤村さんは、突きつけられた手紙をそっと受け取ると、静かに言った。
「俺は最初から疑っていませんって」
「……ふ、ふーん。まあ、どっちでもいいけどね!」
信じてくれたことが、心底嬉しかったのに、私は精一杯強がって、そっぽを向いた。
鍵を開けて部屋に入ると、澤村さんは私をそっとベッドまで運んでくれた。
ようやく私を支えていた彼の腕が、肩から離れる。
帰るのかな、そうだよね……。
一瞬だけ、微かな寂しさが胸をよぎった。
澤村さんは、部屋を見渡すように一瞬視線を巡らせてから、私の顔を見た。
「あの、他の手紙も見せてください。何かの手がかりになるかもしれません」
「鞄の中〜……」
私は最後の力を振り絞って、床に置いた鞄を指差した。
もう限界だった。
次の瞬間、温かい布団の感触に抗えず、そのまま深い眠りに落ちてしまった。
ーーーー
翌朝。
いつもの見慣れたアパートの天井が、目に飛び込んできた。
頭痛と吐き気で昨夜の深酒を後悔する。
慌てて上半身を起こすと、当たり前だけど澤村さんの姿はどこにもなかった。
それから、ストーカーからの手紙の束も、きれいさっぱり消えていた。
代わりに、白い便箋が1枚、目立つようにテーブルに置かれている。
澤村さんからのものだった。
“鍵はポストに入れてあります。手紙は少しだけお借りました。何かあれば連絡してください。
090-××××-×××× 澤村”
丁寧な字で綴られた短い手。
おそらく、これはプライベートな連絡先だろう。
少し前までは警察官なんか、と軽蔑していたのに、今は誰かに頼れることが心の底から嬉しく思えた。
私は迷わずスマホを手に取り、その番号を登録した。
私はそう言って、カウンターから立ち上がろうとした。
次の瞬間、世界がぐらりと揺れた。
思っていた以上に酔っていたことに、今更ながら気付く。
まともに足が前に進まない。
「あ、危ない」
隣に座っていた澤村さんが素早く反応し、私の肩を支えてくれた。
「大丈夫ですか。送っていきます」
拒否する気力も、冷静に断る理性が働かなかった。
私は彼の申し出に素直に甘えた。
澤村さんは私の腕をしっかりと支え、そのまま自分の肩を貸してくれた。
彼の腕は、日頃から鍛えている警察官なだけあって、驚くほどしっかりしていて、心臓の近くにあるその温かさと強さに、言いようのない安心感が生まれた。
2人並んで、夜道をふらふらと歩く。
「飲み過ぎですよ」
澤村さんが呆れたように笑った。
「飲まないとやってらんないのよ!」
街灯が淡い光を落とし、2人分の影を長く伸ばす。
夜風はほんのり冷たく、火照った頬に心地よかった。
しばらく歩き、見慣れたアパートが見えてきた。
「ここ、ここ。私の家」
「オートロックじゃないんですね」
澤村さんの声に、私は一瞬、自分のアパートのセキュリティの低さを指摘されたようで、少しだけ苛立ちを覚えた。
「部屋はどこですか」
「101号室。その前に、ポスト……」
酔った頭で、指先はかすかに震えていたけれど、なんとかダイヤルキーを回してポストを開けた。
中には予想通り、また1通の白い手紙が入っていた。
私はその手紙を乱暴に引っ張り出し、澤村さんの目の前に突きつけた。
「ほら、この手紙!私が家を出る前に仕込んで、自作自演したっていうの?私が毎日毎日、こんな気味の悪い手紙を自分で書いて、ポストに入れるとでも!?」
口調は酔ってどこか刺があったけれど、本当は、目の前のこの人に、心から信じてほしいという叫びでいっぱいだった。
澤村さんは、突きつけられた手紙をそっと受け取ると、静かに言った。
「俺は最初から疑っていませんって」
「……ふ、ふーん。まあ、どっちでもいいけどね!」
信じてくれたことが、心底嬉しかったのに、私は精一杯強がって、そっぽを向いた。
鍵を開けて部屋に入ると、澤村さんは私をそっとベッドまで運んでくれた。
ようやく私を支えていた彼の腕が、肩から離れる。
帰るのかな、そうだよね……。
一瞬だけ、微かな寂しさが胸をよぎった。
澤村さんは、部屋を見渡すように一瞬視線を巡らせてから、私の顔を見た。
「あの、他の手紙も見せてください。何かの手がかりになるかもしれません」
「鞄の中〜……」
私は最後の力を振り絞って、床に置いた鞄を指差した。
もう限界だった。
次の瞬間、温かい布団の感触に抗えず、そのまま深い眠りに落ちてしまった。
ーーーー
翌朝。
いつもの見慣れたアパートの天井が、目に飛び込んできた。
頭痛と吐き気で昨夜の深酒を後悔する。
慌てて上半身を起こすと、当たり前だけど澤村さんの姿はどこにもなかった。
それから、ストーカーからの手紙の束も、きれいさっぱり消えていた。
代わりに、白い便箋が1枚、目立つようにテーブルに置かれている。
澤村さんからのものだった。
“鍵はポストに入れてあります。手紙は少しだけお借りました。何かあれば連絡してください。
090-××××-×××× 澤村”
丁寧な字で綴られた短い手。
おそらく、これはプライベートな連絡先だろう。
少し前までは警察官なんか、と軽蔑していたのに、今は誰かに頼れることが心の底から嬉しく思えた。
私は迷わずスマホを手に取り、その番号を登録した。
