正義の面を被った狼
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せっかくの休日を、交番で味わった屈辱と、あの冷たい警察官のせいで台無しにしてしまうのが癪だった。
私は怒りをエネルギーに変え、ストレス発散にうってつけのレジャー施設、バッティングセンターへと向かった。
「バッッカヤロー! どいつもこいつも!」
甲高い音を響かせ、ボールがネットに突き刺さる。
胸の奥に溜まっていた怒りは、バットを振り抜くたびに、ボールと一緒に弾け飛んだ。
夢中になってバットを振り続けているうちに、いつの間にか空は茜色から濃紺へと変わっていた。
運動のおかげで、全身が心地よい疲労感に包まれ、お腹もグーッと鳴る。
「さて、どこかで一杯飲んで帰ろうかな」
こんなにスカッとした気分で、このまま家に帰るのはもったいない。
そんな気分だった。
私はフラフラと賑わう飲み屋街を歩いた。
赤提灯の光が、アスファルトを橙色に染めている。
その中で、雰囲気の良さそうなお店が目に留まった。
「ここにしよう」
ガラガラと引き戸を開けると、活気のある声が迎えてくれた。
「いらっしゃいませ〜!」
「1人です」
「カウンター席へどうぞ〜」
木の温もりが感じられるカウンター席の端に腰を下ろす。
まずは、とにかく渇きを潤したい。
「すみません、とりあえず生をください。あとは枝豆と冷奴」
キンキンに冷えたビールが運ばれてくるのを待つ間も長く感じた。
運ばれてきた黄金色の液体を、私はゴクゴクと一気に飲み干した。
運動後だからか、いつもより格段に美味しく感じられた。
「ふぅ……」
至福の溜息をつく。
さて、2杯目は何を頼もうか。
私は目の前にあるメニュー表に手を伸ばした。
その瞬間、隣の席の人と手がぶつかりそうになる。
「すみません」
私は反射的に謝罪した。
このお店のカウンター席は、メニュー表が共用のようだ。
「いえ、お先にどうぞ」
そう言ってメニュー表を私に渡してくれた声と、その横顔に、私は既視感を覚えた。
どこか見覚えがある。
つい数時間前、あの場所で。
「……警察官さん?」
思わず声を漏らすと、相手も驚いたように目を見開いた。
「あ……手紙の……」
そこにいたのは、感じの悪い中年の警察官ではなく、私が追い払われたとき、申し訳なさそうな顔で視線を逸らした、あの若い警察官だった。
私は酔いも手伝って、口が滑るのを止められなかった。
「面倒な市民の相談を蔑ろにして飲むお酒は美味しいですか?」
我ながら、嫌味たっぷりの言い方だ。
少しだけ自分自身に驚きつつも、言葉は止められなかった。
「……本当に申し訳ない」
彼は居酒屋だというのに、カウンターの席で、私に向かって深々と頭を下げてきた。
その真剣な姿勢に、私の怒りは少しだけ和らいだ。
「大体、警察官さんってさー」
私が続けて愚痴をこぼそうとすると、彼は私の言葉を遮った。
「澤村」
「へ?」
「その、今はプライベートなので、あまりそう呼ばれると……できれば、名前で」
言われてみれば、確かにそうだ。
私だって、プライベートの時間に「OLさん」なんて括られたくない。
職業で呼ばれることの窮屈さは、社会人なら誰もが理解できる。
「分かったわ。私は◯◯」
別にこちらが名乗る必要はない。
だけど、一方的に相手の名前だけを知っているのは、なんだかフェアじゃない気がして、私はつい自分の名前を明かしてしまった。
「澤村さん。そもそも実害がないと動けないって、実害あってからじゃ手遅れな気がするんですけど」
私の問いかけに、澤村さんは苦々しい表情でビールジョッキを見つめた。
「おっしゃる通りです。自分も本当にそう思います。なんとか力になりたいとは、正直思っていますが……職務上、勝手なことはできなくて」
分かっている。
澤村さんも、あの嫌な中年の警察官も、言い方はどうあれ、与えられたルールと、組織という名の枠組みの中で職務を果たしているに過ぎない。
「窮屈ね」
私はそう呟き、追加で頼んだ新しいビールを口に運んだ。
私は怒りをエネルギーに変え、ストレス発散にうってつけのレジャー施設、バッティングセンターへと向かった。
「バッッカヤロー! どいつもこいつも!」
甲高い音を響かせ、ボールがネットに突き刺さる。
胸の奥に溜まっていた怒りは、バットを振り抜くたびに、ボールと一緒に弾け飛んだ。
夢中になってバットを振り続けているうちに、いつの間にか空は茜色から濃紺へと変わっていた。
運動のおかげで、全身が心地よい疲労感に包まれ、お腹もグーッと鳴る。
「さて、どこかで一杯飲んで帰ろうかな」
こんなにスカッとした気分で、このまま家に帰るのはもったいない。
そんな気分だった。
私はフラフラと賑わう飲み屋街を歩いた。
赤提灯の光が、アスファルトを橙色に染めている。
その中で、雰囲気の良さそうなお店が目に留まった。
「ここにしよう」
ガラガラと引き戸を開けると、活気のある声が迎えてくれた。
「いらっしゃいませ〜!」
「1人です」
「カウンター席へどうぞ〜」
木の温もりが感じられるカウンター席の端に腰を下ろす。
まずは、とにかく渇きを潤したい。
「すみません、とりあえず生をください。あとは枝豆と冷奴」
キンキンに冷えたビールが運ばれてくるのを待つ間も長く感じた。
運ばれてきた黄金色の液体を、私はゴクゴクと一気に飲み干した。
運動後だからか、いつもより格段に美味しく感じられた。
「ふぅ……」
至福の溜息をつく。
さて、2杯目は何を頼もうか。
私は目の前にあるメニュー表に手を伸ばした。
その瞬間、隣の席の人と手がぶつかりそうになる。
「すみません」
私は反射的に謝罪した。
このお店のカウンター席は、メニュー表が共用のようだ。
「いえ、お先にどうぞ」
そう言ってメニュー表を私に渡してくれた声と、その横顔に、私は既視感を覚えた。
どこか見覚えがある。
つい数時間前、あの場所で。
「……警察官さん?」
思わず声を漏らすと、相手も驚いたように目を見開いた。
「あ……手紙の……」
そこにいたのは、感じの悪い中年の警察官ではなく、私が追い払われたとき、申し訳なさそうな顔で視線を逸らした、あの若い警察官だった。
私は酔いも手伝って、口が滑るのを止められなかった。
「面倒な市民の相談を蔑ろにして飲むお酒は美味しいですか?」
我ながら、嫌味たっぷりの言い方だ。
少しだけ自分自身に驚きつつも、言葉は止められなかった。
「……本当に申し訳ない」
彼は居酒屋だというのに、カウンターの席で、私に向かって深々と頭を下げてきた。
その真剣な姿勢に、私の怒りは少しだけ和らいだ。
「大体、警察官さんってさー」
私が続けて愚痴をこぼそうとすると、彼は私の言葉を遮った。
「澤村」
「へ?」
「その、今はプライベートなので、あまりそう呼ばれると……できれば、名前で」
言われてみれば、確かにそうだ。
私だって、プライベートの時間に「OLさん」なんて括られたくない。
職業で呼ばれることの窮屈さは、社会人なら誰もが理解できる。
「分かったわ。私は◯◯」
別にこちらが名乗る必要はない。
だけど、一方的に相手の名前だけを知っているのは、なんだかフェアじゃない気がして、私はつい自分の名前を明かしてしまった。
「澤村さん。そもそも実害がないと動けないって、実害あってからじゃ手遅れな気がするんですけど」
私の問いかけに、澤村さんは苦々しい表情でビールジョッキを見つめた。
「おっしゃる通りです。自分も本当にそう思います。なんとか力になりたいとは、正直思っていますが……職務上、勝手なことはできなくて」
分かっている。
澤村さんも、あの嫌な中年の警察官も、言い方はどうあれ、与えられたルールと、組織という名の枠組みの中で職務を果たしているに過ぎない。
「窮屈ね」
私はそう呟き、追加で頼んだ新しいビールを口に運んだ。
