翌朝、仕事の支度をするために洗面所へ行くと、既に侑が使っていた。

鏡に映った侑の顔を見ると目元が腫れていた。
どうやら侑も泣いたみたい。


「あ、●●ちゃん。おはよう……」


無理やり笑顔を貼り付けたような覇気のない挨拶。


「……」


そんな侑を見ていられなくて目を背ける。
挨拶だってしてやらない。
良心は痛むけれど、別れたのに引っ越しするまで一緒にいることになるから、心を鬼にしないと寄りを戻し兼ねない。

だって、私はまだ侑のことが……。


「挨拶もしてくれないんや」

「……っ」


だけど、侑はそんな私の気持ちなど知らずに心を抉る言葉で殴ってくる。
私だって声をかけたいよ。
でも、駄目……。
駄目なんだから……。

無視をした手前、洗面所を使いたいたくても急かす言葉も言えない。
ひとまず部屋に戻って着替えから済ませるか。

こんな気を遣う生活を1ヶ月もしないといけないなんて、息が詰まりそう。

……。
…………。

そろそろ洗面所は空いただろうか。
着替えを済ませてから自室を出ると、侑は先に仕事に行ったのか、家には人の気配がなかった。

いつもは必ず“行ってきます”って言ってくれるのに……。

いやいや、会話を拒んだのは私の方じゃないの。

私は寂しさも一緒に洗面所で洗い流した。