オツムと侑と私
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納得のいく理由を見出せないまま、侑君に避けられ続けて2週間。
校内は誰もが余裕をなくす期末テスト期間へと突入した。
部活動が休みになり、しんと静まり返った校内。
だけど、生徒がいないワケではない。
みんな、放課後の図書室で黙々と勉強をしている。
私も例に漏れず、赤点回避のために必死で問題集と向き合っていた。
そんな私の隣に、音もなく誰かが座った。
ふわりと香る石鹸の匂い、綺麗に染められた金髪。
間違えるはずもない、侑君だ。
彼は私を見ようともせず、乱暴に参考書を広げた。
視線こそ合わないけれど、数週間、あれほど遠ざけられていたはずの彼が、今は肩が触れそうなほどの距離にいる。
聞くなら今しかない。
ここで逃げたら、きっともう二度と、彼と笑い合える日は来ない。
そんな予感が背中を押した。
ペンを握る指先に力を込め、震えそうになる呼気を整える。
「……あの」
消え入るような声だったけれど、静まり返った室内では驚くほどはっきりと響いた。
隣で、侑君の動きがピタリと止まる。
「私、何か怒らせるようなことした?」
絞り出したその言葉。
ようやく、胸の奥に抱えていたモヤモヤを吐き出すことができた。
彼はゆっくりとこちらを向き、低く地を這うような声で言った。
「……自分、言うたよな。ツム、弱いって」
「……えっ?」
「誰よりもバレー必死にやっとる人間に向かって、ようそんなこと言えたもんやな」
呆然とした。
ツム、弱い?……あ。
「待って。それ、勘違い!」
思わず立ち上がりそうになって、周囲の視線に気付き、慌てて声を潜めて身を屈めた。
「私が言ったのは“ツム”じゃなくて“オツム”!私の頭が悪いって、自虐してただけ!侑君のことなんて一文字も言ってないよ!」
「……は?」
「侑君が弱いだなんて一度も思ったことない!」
侑君の表情が固まる。
鋭かった目元がみるみるうちに丸くなり、耳の先まで一気に真っ赤に染まっていくのが分かった。
「……オツム?」
「そう。私の脳みそ。テストの点数。……理解した?」
侑君は大きな手で顔を覆い、そのまま机に突っ伏した。
「……死にたい」
情けない声が、教科書越しにボソりと聞こえてくる。
「……自分、ほんまにアホやな」
「自分のこと棚に上げて言わないでよ。2週間も無視して……。悲しかった」
少しだけ意地悪く返すと、彼は伏せたままの顔をゆっくりと上げた。
その瞳にはさっきまでの冷徹さなど微塵もない。
代わりにあったのは、隠しきれないバツの悪さと、少しだけ熱を帯びた、いつもの優しい眼差し。
「……すまん。……ほんまに、すまんかった」
彼は気まずそうに視線を彷徨わせた後、意を決したように私のノートの上に自分の手を重ねた。
「……埋め合わせさせて。テスト終わったら、美味いもん食いに行こう。……2人で」
そう言って、彼は少しだけ乱暴に私の頭を撫でた。
勘違いは解けたけれど、今度は別の意味で心臓がうるさくて、勉強どころではなくなってしまった。
ーーFinーー
校内は誰もが余裕をなくす期末テスト期間へと突入した。
部活動が休みになり、しんと静まり返った校内。
だけど、生徒がいないワケではない。
みんな、放課後の図書室で黙々と勉強をしている。
私も例に漏れず、赤点回避のために必死で問題集と向き合っていた。
そんな私の隣に、音もなく誰かが座った。
ふわりと香る石鹸の匂い、綺麗に染められた金髪。
間違えるはずもない、侑君だ。
彼は私を見ようともせず、乱暴に参考書を広げた。
視線こそ合わないけれど、数週間、あれほど遠ざけられていたはずの彼が、今は肩が触れそうなほどの距離にいる。
聞くなら今しかない。
ここで逃げたら、きっともう二度と、彼と笑い合える日は来ない。
そんな予感が背中を押した。
ペンを握る指先に力を込め、震えそうになる呼気を整える。
「……あの」
消え入るような声だったけれど、静まり返った室内では驚くほどはっきりと響いた。
隣で、侑君の動きがピタリと止まる。
「私、何か怒らせるようなことした?」
絞り出したその言葉。
ようやく、胸の奥に抱えていたモヤモヤを吐き出すことができた。
彼はゆっくりとこちらを向き、低く地を這うような声で言った。
「……自分、言うたよな。ツム、弱いって」
「……えっ?」
「誰よりもバレー必死にやっとる人間に向かって、ようそんなこと言えたもんやな」
呆然とした。
ツム、弱い?……あ。
「待って。それ、勘違い!」
思わず立ち上がりそうになって、周囲の視線に気付き、慌てて声を潜めて身を屈めた。
「私が言ったのは“ツム”じゃなくて“オツム”!私の頭が悪いって、自虐してただけ!侑君のことなんて一文字も言ってないよ!」
「……は?」
「侑君が弱いだなんて一度も思ったことない!」
侑君の表情が固まる。
鋭かった目元がみるみるうちに丸くなり、耳の先まで一気に真っ赤に染まっていくのが分かった。
「……オツム?」
「そう。私の脳みそ。テストの点数。……理解した?」
侑君は大きな手で顔を覆い、そのまま机に突っ伏した。
「……死にたい」
情けない声が、教科書越しにボソりと聞こえてくる。
「……自分、ほんまにアホやな」
「自分のこと棚に上げて言わないでよ。2週間も無視して……。悲しかった」
少しだけ意地悪く返すと、彼は伏せたままの顔をゆっくりと上げた。
その瞳にはさっきまでの冷徹さなど微塵もない。
代わりにあったのは、隠しきれないバツの悪さと、少しだけ熱を帯びた、いつもの優しい眼差し。
「……すまん。……ほんまに、すまんかった」
彼は気まずそうに視線を彷徨わせた後、意を決したように私のノートの上に自分の手を重ねた。
「……埋め合わせさせて。テスト終わったら、美味いもん食いに行こう。……2人で」
そう言って、彼は少しだけ乱暴に私の頭を撫でた。
勘違いは解けたけれど、今度は別の意味で心臓がうるさくて、勉強どころではなくなってしまった。
ーーFinーー
