オツムと侑と私
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帰宅して自室の灯りも点けぬまま、私は昼休みに見た侑君の姿を思い出していた。
あんなに苦しそうに、バレーに取り組む彼を、私は知らない。
だって、私の記憶の中にある彼は、いつだって不敵で、誰よりもバレーを愛して輝いていたから。
それは、まだ寒さが残る春先のことだった。
3年生との部活紹介の打ち合わせが長引き、すっかり遅くなった校舎。
昇降口へ急ぐ私の足を止めたのは、体育館から漏れる明かりと、ボールの弾む音だった。
誘われるように、私はそっと重い扉の隙間から中を覗き込んだ。
「……あ」
思わず声が漏れた。
そこには、1人で黙々とサーブ練習を繰り返す侑君の姿があった。
同じクラスになって日は浅く、私の知る彼は女子に人気のお調子者でしかなかった。
だけど、今そこにいるのは、教室でクラスメイトとふざけ合っている侑君ではない。
サーブを打つ前の静寂。
フーッと深く吐き出された熱い吐息。
コートの先を見据える鋭い視線。
放たれたボールは、目にも止まらぬ速さでコートの隅、エンドラインぎりぎりに突き刺さる。
その一連の動作があまりに無駄がなく、流れるように美しくて、私は見惚れてしまった。
「……誰かおるん?」
不意に投げかけられた声に、心臓が跳ねた。
いつの間にか練習を止めた侑君が、首にかけたタオルで汗を拭いながら、こちらを不思議そうに見ていた。
「あ、ごめん!邪魔するつもりじゃなかったんだけど……」
慌てて言い訳をしようとしたけれど、先ほど目にした光景の余韻が、胸の奥でまだ熱く脈打っている。
誤魔化すことなんてできなくて、私は思ったままを言葉にしていた。
「……凄かった。バレーしてる侑君、最高に格好良いね!」
嘘偽りのない、心からの賞賛。
すると、あんなに鋭い視線でボールを追っていた侑君が、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で固まった。
「……っ、そんなん、当たり前やろ。俺を誰やと思っとんねん」
彼はすぐにプイッと顔を背けたけれど、隠しきれていない耳の先が、夕焼けのせいだけではない赤さに染まっていくのを私は見逃さなかった。
不器用そうに鼻を啜って、またボールを拾いに行く彼の背中。
その意外な反応に、私の胸が少しだけトクンと鳴った。
……。
…………。
「あんなに、自分のバレーに自信持ってたのに……」
彼の表情を曇らせている原因はなんだろう。
どうしたら戻るのだろう。
私は、ただ指を咥えて見守ることしかできないのだろうか。
答えは分からないままだった。
あんなに苦しそうに、バレーに取り組む彼を、私は知らない。
だって、私の記憶の中にある彼は、いつだって不敵で、誰よりもバレーを愛して輝いていたから。
それは、まだ寒さが残る春先のことだった。
3年生との部活紹介の打ち合わせが長引き、すっかり遅くなった校舎。
昇降口へ急ぐ私の足を止めたのは、体育館から漏れる明かりと、ボールの弾む音だった。
誘われるように、私はそっと重い扉の隙間から中を覗き込んだ。
「……あ」
思わず声が漏れた。
そこには、1人で黙々とサーブ練習を繰り返す侑君の姿があった。
同じクラスになって日は浅く、私の知る彼は女子に人気のお調子者でしかなかった。
だけど、今そこにいるのは、教室でクラスメイトとふざけ合っている侑君ではない。
サーブを打つ前の静寂。
フーッと深く吐き出された熱い吐息。
コートの先を見据える鋭い視線。
放たれたボールは、目にも止まらぬ速さでコートの隅、エンドラインぎりぎりに突き刺さる。
その一連の動作があまりに無駄がなく、流れるように美しくて、私は見惚れてしまった。
「……誰かおるん?」
不意に投げかけられた声に、心臓が跳ねた。
いつの間にか練習を止めた侑君が、首にかけたタオルで汗を拭いながら、こちらを不思議そうに見ていた。
「あ、ごめん!邪魔するつもりじゃなかったんだけど……」
慌てて言い訳をしようとしたけれど、先ほど目にした光景の余韻が、胸の奥でまだ熱く脈打っている。
誤魔化すことなんてできなくて、私は思ったままを言葉にしていた。
「……凄かった。バレーしてる侑君、最高に格好良いね!」
嘘偽りのない、心からの賞賛。
すると、あんなに鋭い視線でボールを追っていた侑君が、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で固まった。
「……っ、そんなん、当たり前やろ。俺を誰やと思っとんねん」
彼はすぐにプイッと顔を背けたけれど、隠しきれていない耳の先が、夕焼けのせいだけではない赤さに染まっていくのを私は見逃さなかった。
不器用そうに鼻を啜って、またボールを拾いに行く彼の背中。
その意外な反応に、私の胸が少しだけトクンと鳴った。
……。
…………。
「あんなに、自分のバレーに自信持ってたのに……」
彼の表情を曇らせている原因はなんだろう。
どうしたら戻るのだろう。
私は、ただ指を咥えて見守ることしかできないのだろうか。
答えは分からないままだった。
