欲張りなキミに乾杯
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1日の終わりを告げるチャイムが教室に響き渡る。
居残り勉強を始める受験生たちの邪魔にならないよう、私は手早く荷物を鞄に詰め込む。
そして、そっと教室を後にした。
昇降口へ向かい、自分の下駄箱を開けた、その時だった。
「あっ……」
見覚えのある金髪が下駄箱の側を横切った。
今日のお昼、2年2組の教室で会ったばかりの男子生徒、宮侑だ。
彼の周りには何人か運動部らしき男子生徒がいたけれど、宮侑は私と目が合った瞬間、分かりやすくハッと目を見開いた。
そして、その中の1人の肩をポンと叩く。
「お前ら先行っといて。すぐ追いつくから」
「なんやツム、またナンパか?練習遅れたら北さんに怒られんで」
「ちゃうわアホ!ええから先行ってや!」
そんな騒がしいやり取りを経て、友達を体育館の方へと促した宮侑は、こちらへ近付いてきた。
「昼間の、チョコか気持ちの人やんな?」
「チョコか気持ちの人って……」
間違ってはいない。
間違ってはいないけれど、その呼び方はあんまりだ。
「●●。私の名前。……●●先輩でも、●●さんでも、好きに呼んでいいよ」
せめてまともな名前で呼ばせようと選択肢を提示した私に、宮侑はニヤりと笑みを浮かべた。
「ほな、●●ちゃんで」
「●●……ちゃん?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
私が用意した選択肢を華麗に無視して、まさかのタメ口ラインを選んでくるとは。
出会ってまだ2回目なのに、距離の詰め方が異常だ。
まるで昔からの友達のような呼び方に、私は思わず眉間にシワを寄せた。
すると、宮侑は私の不満げな表情を察したのか、少し決まり悪そうに頭を掻きながら理由を話し始めた。
「いや、部活の先輩ですら“さん”呼びやから。先輩呼びは、なんかむず痒うてしゃあないんよ」
それなら、私も“さん”呼びにすればよいのでは……?
そう突っ込みそうになったけれど、これ以上押し問答をするのも面倒だし、もう呼称なんて何でもいいや、と諦めることにした。
「まあ、いいけど……」
「あ、ちなみに俺の名前は」
「宮侑でしょ。知ってる」
宮侑の声に食い気味に答えた。
あたかも、最初から知っていたような雰囲気を装ったけれど、正確にはお昼にミノリちゃんから苗字を聞いて、その流れで下の名前を思い出しただけだ。
すると、宮侑は意外な反応を示した。
「えっ、マジで!?3年の間でも俺の名前知られてるん?うわー、俺ってば有名人!」
宮侑はキラキラと目を輝かせ、上機嫌になった。
単純な人……。
分かりやすすぎるリアクションに、思わず笑いを堪える。
「ところで宮侑は……」
「って、なんでフルネーム呼びなん!?」
今度は宮侑が、綺麗に突っ込んできた。
「なんでって言われても……」
「気軽にツムって呼んでくださいよ!皆そう呼ぶんで!」
「なら、侑」
「なんでやねーん!」
昇降口に侑の綺麗なツッコミの怒鳴り声が響き渡る。
私は何食わぬ顔で、お昼休みの続きの話題を切り出した。
「それで、侑。チョコ欲しいなら、私もあげようか」
どうせバレンタインには友達や部活の仲間に友チョコを作る予定だし、そこに1人分追加したところで、材料費も手間も大差ない。
「本当 ですか?!」
現金なもので、侑の目が一気に見開いた。
尻尾を振る大型犬の幻影すら見える。
「うん。……まあ、気持ちまでは添えられないけどね」
私が釘を刺すように付け足すと、侑は分かりやすくガッカリしたように唇を尖らせた。
「えー!せっかくなら気持ちも添えてくださいよ!」
「バレンタインまでの2ヶ月の間に、私が侑のことを好きになったら添えられるかもしれないね」
クスクスと笑いながら、私は絶対にあり得ない仮定を口にする。
だって、人はそう簡単に人を好きにはならないんだもの。
だけど、私の言葉を聞いた侑は、不敵に口角を上げた。
「ほな俺、本気で●●ちゃんを口説きますんで」
夕日に照らされた彼の横顔が、あまりにも整いすぎて、心臓が小さな音を立てる。
だけど、私はすぐに理性を取り戻した。
こんなの、冗談に決まっている……。
女の子の扱いにも慣れていそうだし、調子のいいことを言って、その場のノリを楽しんでいるだけだ。
こんなセリフを大真面目に受け止める女の子がいたら、不憫でならない。
私は少し呆れたように、わざとらしい棒読みで返事をした。
「あはは、頑張ってねー」
「うわっ、信じてへん!」
悔しそうに身悶えする侑を見て、私はハッと我に返り、昇降口の時計に目をやった。
「それより、部活に行かなくていいの?」
「あっ、やばっ!せやった!」
完全に時間を忘れていたらしい侑は、慌てて鞄を肩に担ぎ直した。
そして、体育館へと続く扉へ向かって走り出す直前、もう一度だけこちらを振り返った。
「●●ちゃん、俺本気やから!またね!」
侑は大声で叫ぶと、今度こそ猛スピードで走っていった。
「本気、か……」
誰もいなくなった昇降口で、私はポツりとその言葉を呟いてみる。
どうせ直ぐに飽きるに決まっている……。
侑の姿が見えなくなるのを確認すると、私は靴を履き替えて帰路へとついた。
居残り勉強を始める受験生たちの邪魔にならないよう、私は手早く荷物を鞄に詰め込む。
そして、そっと教室を後にした。
昇降口へ向かい、自分の下駄箱を開けた、その時だった。
「あっ……」
見覚えのある金髪が下駄箱の側を横切った。
今日のお昼、2年2組の教室で会ったばかりの男子生徒、宮侑だ。
彼の周りには何人か運動部らしき男子生徒がいたけれど、宮侑は私と目が合った瞬間、分かりやすくハッと目を見開いた。
そして、その中の1人の肩をポンと叩く。
「お前ら先行っといて。すぐ追いつくから」
「なんやツム、またナンパか?練習遅れたら北さんに怒られんで」
「ちゃうわアホ!ええから先行ってや!」
そんな騒がしいやり取りを経て、友達を体育館の方へと促した宮侑は、こちらへ近付いてきた。
「昼間の、チョコか気持ちの人やんな?」
「チョコか気持ちの人って……」
間違ってはいない。
間違ってはいないけれど、その呼び方はあんまりだ。
「●●。私の名前。……●●先輩でも、●●さんでも、好きに呼んでいいよ」
せめてまともな名前で呼ばせようと選択肢を提示した私に、宮侑はニヤりと笑みを浮かべた。
「ほな、●●ちゃんで」
「●●……ちゃん?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
私が用意した選択肢を華麗に無視して、まさかのタメ口ラインを選んでくるとは。
出会ってまだ2回目なのに、距離の詰め方が異常だ。
まるで昔からの友達のような呼び方に、私は思わず眉間にシワを寄せた。
すると、宮侑は私の不満げな表情を察したのか、少し決まり悪そうに頭を掻きながら理由を話し始めた。
「いや、部活の先輩ですら“さん”呼びやから。先輩呼びは、なんかむず痒うてしゃあないんよ」
それなら、私も“さん”呼びにすればよいのでは……?
そう突っ込みそうになったけれど、これ以上押し問答をするのも面倒だし、もう呼称なんて何でもいいや、と諦めることにした。
「まあ、いいけど……」
「あ、ちなみに俺の名前は」
「宮侑でしょ。知ってる」
宮侑の声に食い気味に答えた。
あたかも、最初から知っていたような雰囲気を装ったけれど、正確にはお昼にミノリちゃんから苗字を聞いて、その流れで下の名前を思い出しただけだ。
すると、宮侑は意外な反応を示した。
「えっ、マジで!?3年の間でも俺の名前知られてるん?うわー、俺ってば有名人!」
宮侑はキラキラと目を輝かせ、上機嫌になった。
単純な人……。
分かりやすすぎるリアクションに、思わず笑いを堪える。
「ところで宮侑は……」
「って、なんでフルネーム呼びなん!?」
今度は宮侑が、綺麗に突っ込んできた。
「なんでって言われても……」
「気軽にツムって呼んでくださいよ!皆そう呼ぶんで!」
「なら、侑」
「なんでやねーん!」
昇降口に侑の綺麗なツッコミの怒鳴り声が響き渡る。
私は何食わぬ顔で、お昼休みの続きの話題を切り出した。
「それで、侑。チョコ欲しいなら、私もあげようか」
どうせバレンタインには友達や部活の仲間に友チョコを作る予定だし、そこに1人分追加したところで、材料費も手間も大差ない。
「
現金なもので、侑の目が一気に見開いた。
尻尾を振る大型犬の幻影すら見える。
「うん。……まあ、気持ちまでは添えられないけどね」
私が釘を刺すように付け足すと、侑は分かりやすくガッカリしたように唇を尖らせた。
「えー!せっかくなら気持ちも添えてくださいよ!」
「バレンタインまでの2ヶ月の間に、私が侑のことを好きになったら添えられるかもしれないね」
クスクスと笑いながら、私は絶対にあり得ない仮定を口にする。
だって、人はそう簡単に人を好きにはならないんだもの。
だけど、私の言葉を聞いた侑は、不敵に口角を上げた。
「ほな俺、本気で●●ちゃんを口説きますんで」
夕日に照らされた彼の横顔が、あまりにも整いすぎて、心臓が小さな音を立てる。
だけど、私はすぐに理性を取り戻した。
こんなの、冗談に決まっている……。
女の子の扱いにも慣れていそうだし、調子のいいことを言って、その場のノリを楽しんでいるだけだ。
こんなセリフを大真面目に受け止める女の子がいたら、不憫でならない。
私は少し呆れたように、わざとらしい棒読みで返事をした。
「あはは、頑張ってねー」
「うわっ、信じてへん!」
悔しそうに身悶えする侑を見て、私はハッと我に返り、昇降口の時計に目をやった。
「それより、部活に行かなくていいの?」
「あっ、やばっ!せやった!」
完全に時間を忘れていたらしい侑は、慌てて鞄を肩に担ぎ直した。
そして、体育館へと続く扉へ向かって走り出す直前、もう一度だけこちらを振り返った。
「●●ちゃん、俺本気やから!またね!」
侑は大声で叫ぶと、今度こそ猛スピードで走っていった。
「本気、か……」
誰もいなくなった昇降口で、私はポツりとその言葉を呟いてみる。
どうせ直ぐに飽きるに決まっている……。
侑の姿が見えなくなるのを確認すると、私は靴を履き替えて帰路へとついた。
