欲張りなキミに乾杯
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〜欲張りなキミに乾杯〜
肌寒い日々が続いている12月のある日。
私はなんとか年内に推薦で大学合格を勝ち取ることができた。
肩の荷が下りて、心の中には解放感が広がっている。
だけど、手放しで喜んでばかりもいられない。
周りの友達は今まさに受験モードの真っ只中。
ピリピリとした緊張感が漂う中では、安易に遊びに誘うことすら躊躇われる。
「暇になっちゃったな……」
贅沢な悩みに小さく息を漏らし、私はあることを思いつく。
そうだ、引退した部活に顔を出そう。
まずは現部長のミノリちゃんに伝えておこうかな。
彼女の連絡先はスマホに入っているけれど、サプライズを兼ねて、直接教室へと足を運ぶことにした。
「確か、2組だったよね……」
お昼休みの時間を利用して、2年2組の教室へと向かう。
ガラリと扉を開けて中を覗くと、お弁当箱を広げようとしているミノリちゃんの姿を見つけた。
「ミノリちゃーん!」
教室の入り口から少し声を張って名前を呼ぶと、彼女はパッと顔を上げた。
私の存在に気付くと、嬉しそうに目を輝かせて駆け寄ってくる。
「●●先輩!どうしたんですか?」
「ご飯中にごめんね。実は大学受かったから、来週辺り部活に顔を出そうと思って。顧問の先生に伝えてもらえる?それと、直近の部活の予定も教えてほしいな」
「本当ですか!?やったー!嬉しいです、みんな絶対喜びますよ!」
3年生が引退し、2年生中心の新体制で頑張っている中、引退した私がノコノコ行くのは邪魔じゃないだろうか。
そんな不安があったけれど、ミノリちゃんは私の心配を吹き飛ばすような満面の笑みを浮かべてくれた。
「今すぐ予定表送りますね!……って、あ、スマホ鞄の中だ。ちょっと待っていてください!」
ミノリちゃんは慌てて自分の席へと引き返していった。
その様子を見送っていると、男子生徒たちの大きな声が聞こえてきた。
「2月14日にはこの宮侑にチョコをくれよな!みんなウエルカムやで!」
「おいツム、まだ12月やぞ。早すぎにも程があるやろ」
「アホか。今のうちに言っとかなあかんやろ」
まだ2ヶ月も先にあるバレンタインデーのアピールを、声デカデカとしている男の子がいた。
長身に、金髪の彼。
確か、彼は……。
「宮君、煩いですよね。顔は格好良いのに、ちょっと残念と言うか」
いつの間にかスマホを手にして戻ってきたミノリちゃんが、心底呆れたような声のトーンで説明してくれた。
そうだ、宮侑だ。
全校朝礼で、何度か表彰されているのを見かけたことがある。
また、試合の応援に駆り出されていた吹奏楽部の友達も、目をハートにさせながら「侑君がさあ!」と度々口にしていたのを思い出した。
改めて遠目に見てみれば、確かに背も高いし、整った顔立ちをしている。
女子生徒たちが騒ぐのも無理はない。
だけど、それと同時に、ミノリちゃんの言う「残念な言動」という評価にも、頷けてしまう佇まいだった。
ミノリちゃんから送られてきた予定表を受信したのを確認すると、私はふと、イタズラ心が芽生えた。
推薦合格で浮かれているせいか、ちょっとしたスリルが欲しかったのかもしれない。
私は騒いでいる宮侑の席へと近付いていった。
「ねえ、キミ」
「んあ?」
突然、見知らぬ先輩から声をかけられた宮侑は、間抜けな声を漏らした。
私は彼の机に軽く手を突き、少し上から覗き込むようにして問いかけた。
「キミはチョコが欲しいの?それとも気持ちが欲しいの?」
「へ?」
宮侑は一瞬、私の質問の意図が掴めないように、きょとんと目を丸くした。
だけど、すぐに不敵な笑みを浮かべる。
「そんなん、両方に決まっとるやん」
さも当たり前かのような答えが、堂々と返ってきた。
自分の人気に対する自信なのか、あるいは何も考えていないのか。
私はクスッと笑って、彼の目を真っ直ぐに見つめ返した。
「へえー、欲張りさんなんだ」
「……っ」
「いきなり変なこと聞いてごめんね。お邪魔しました」
それだけ言い残すと、私はくるりと踵を返した。背後で、宮侑が動揺の声を上げている。
入り口の方に戻ると、一部始終を見ていたミノリちゃんが、口を半開きにしてポカーンと私を見つめていた。
「じゃあ、ミノリちゃん、行く日にちが決まったらまた連絡するね。お弁当、ゆっくり食べて」
「あ、はいっ!ありがとうございます!」
呆気に取られている彼女にひらひらと手を振り、私は2年生の教室を後にした。
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