夕食を済ませて帰宅すると、家の中は真っ暗だった。
侑も出かけているのか、それとも早めに就寝しているのか。

音を立てないようにリビングへと向かう。

壁に設置してあるスイッチを手探りで探して押すと、侑がソファに腰掛けていた。


「うわっ！びっくりした！」


私は思わず声を上げた。

寝落ちしているのかと思えば、静かに一点を見つめている。
電気くらい点ければいいのに。


「遅かったな」

「……」


そんなことはないと思う。


「新しい彼氏と楽しく過ごしとったん？」

「は？」

「首元。分かりやすい所に付けて……。俺への当てつけか？それとも元から浮気していて、ようやっとそいつと堂々と付き合えるからって油断したんか？」


何を言っているのか理解できない。
首元？
私が浮気？
心当たりがなさすぎる。


「なんの話？」

「とぼける気かあ？ほなこれはなんやねん」


侑は立ち上がると私の服の襟を強く引っ張った。


「きゃっ！！」


あらわになる首筋から鎖骨までのライン。


「こないなところにキスマーク付けて。さぞかし独占欲が強い男なんやなあ！」


キスマーク……？あ、もしかして。
このとき侑が勘違いをしていることに気が付いた。


「ちょっ、ちょっ、ちょっと待って！」

「待たへん」


話を聞いてくれなさそうな雰囲気ではなかったため、私は端的に伝えた。


「蚊！」

「か？」

「虫の蚊！これ、ただの蚊に刺され！」


侑はまじまじと私の首筋を見た。
蚊に刺されだと分かったのか、襟を掴んでいた手の力が弱まった。


「なんやねんそれ……俺は蚊に嫉妬したってか？格好悪っ！」


ドカッとソファに倒れ込むように腰掛ける。
落ち着いた侑はゆっくりと口を開いた。


「●●ちゃんが不安になる気持ち、ようやっと理解できた。本当（ほんま）に今までごめん」


侑の声が震えている。


「●●ちゃんにシカトされるのも、浮気されるのも考えるだけでしんどい」


今までにないくらい本気で反省していることがうかがえる。


「勝手かもしれへんけど、心を入れ替えるから今度こそ俺にチャンスをくれないか」


そこまで言われてたらもう1度信じてみようかな。


「私も……実は引っ越ししようと思って内見行ってきたの。そしたら侑ならこうだろうな、侑なら……って侑のことばかり考えちゃって……」

「●●ちゃん……」

「私もやっぱり侑じゃないと駄目かも……」

「●●ちゃん！じゃあ仲直りってことで！」


侑はガバっと嬉しそうに抱きしめてきた。
それに答えるように、私も侑の背中に腕を回す。


「うん、私も仲直りしたい」