モテ過ぎも考え方によっては
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あれから数週間が経った。
侑は気を遣っているのか、もしくは私の拒絶に嫌気が差したのか、家で顔を合わせる機会が驚くほど減った。
仮に生活スペースですれ違っても、彼はもう話しかけてこない。
そのおかげで、久しく侑の生の声を聞いていない。
聞いたとしても、壁一枚隔てた侑の部屋から漏れ聞こえてくる電話をしている声とか、夜遅くにテレビを観ているときに時たま出る乾いたような笑い声だけ。
私は一向にこの寂しい気持ちが薄れないのに、侑はもう平気なのだろうか。
すでに次の生活に向けて気持ちを切り替えたのだろうか。
そう思うと、胸の奥がチクリと痛んだ。
「──さん?……◯◯さん?」
隣のデスクの後輩である近藤さんの声に、ハッと顔を上げる。
「あ、ごめん。なんだった?」
仕事中に私生活の悩みを引きずるなんて、社会人として失格だ。
私は慌てて思考を現実に引き戻した。
目の前には、溜まった書類と、心配そうな近藤さんの顔。
「ぼーっとしていましたけど、暑さにやられましたか?」
「そうかも」
正確には違うけれど、今はそういうことにしておこう。
「蚊も出て来ましたし、本当に夏って嫌ですよね」
近藤さんは首筋を触りながら、心底嫌そうな顔をする。
「本当だね……。あ、噂をすれば」
私たちの会話を聞いていたとでも言うように、一匹の蚊が耳障りな羽音を立てながら、頭上を挑発的に飛び回り始めた。
「虫除けスプレーあったはずですけど……」
近藤さんが鞄をゴソゴソと漁るけれど、待っているより叩き潰したほうが早い。
私は獲物を狙うように静かに手を構え、狙いを定めた。
パチンッ
見事な手つきで叩き潰した。
手をゆっくり開くと、潰れた蚊と、鮮やかな赤い血が付いていた。
「うわ〜!既に誰か刺されていますね」
近藤さんが引いたような声を出す。
私は血と蚊をティッシュで拭い取り、ゴミ箱へ捨てた。
その瞬間、首元に痒みを感じる。
「痒っ」
どうやら、刺されたのは私だったらしい。
ポリポリと刺された箇所を掻きながら、私は再び仕事のディスプレイに視線を戻した。
明日は休日だけど、少し用事がある。
このまま気持ちを引きずってミスをするわけにはいかない。
なんとか仕事を持ち越さないように、今日中に終わらせないと。
侑は気を遣っているのか、もしくは私の拒絶に嫌気が差したのか、家で顔を合わせる機会が驚くほど減った。
仮に生活スペースですれ違っても、彼はもう話しかけてこない。
そのおかげで、久しく侑の生の声を聞いていない。
聞いたとしても、壁一枚隔てた侑の部屋から漏れ聞こえてくる電話をしている声とか、夜遅くにテレビを観ているときに時たま出る乾いたような笑い声だけ。
私は一向にこの寂しい気持ちが薄れないのに、侑はもう平気なのだろうか。
すでに次の生活に向けて気持ちを切り替えたのだろうか。
そう思うと、胸の奥がチクリと痛んだ。
「──さん?……◯◯さん?」
隣のデスクの後輩である近藤さんの声に、ハッと顔を上げる。
「あ、ごめん。なんだった?」
仕事中に私生活の悩みを引きずるなんて、社会人として失格だ。
私は慌てて思考を現実に引き戻した。
目の前には、溜まった書類と、心配そうな近藤さんの顔。
「ぼーっとしていましたけど、暑さにやられましたか?」
「そうかも」
正確には違うけれど、今はそういうことにしておこう。
「蚊も出て来ましたし、本当に夏って嫌ですよね」
近藤さんは首筋を触りながら、心底嫌そうな顔をする。
「本当だね……。あ、噂をすれば」
私たちの会話を聞いていたとでも言うように、一匹の蚊が耳障りな羽音を立てながら、頭上を挑発的に飛び回り始めた。
「虫除けスプレーあったはずですけど……」
近藤さんが鞄をゴソゴソと漁るけれど、待っているより叩き潰したほうが早い。
私は獲物を狙うように静かに手を構え、狙いを定めた。
パチンッ
見事な手つきで叩き潰した。
手をゆっくり開くと、潰れた蚊と、鮮やかな赤い血が付いていた。
「うわ〜!既に誰か刺されていますね」
近藤さんが引いたような声を出す。
私は血と蚊をティッシュで拭い取り、ゴミ箱へ捨てた。
その瞬間、首元に痒みを感じる。
「痒っ」
どうやら、刺されたのは私だったらしい。
ポリポリと刺された箇所を掻きながら、私は再び仕事のディスプレイに視線を戻した。
明日は休日だけど、少し用事がある。
このまま気持ちを引きずってミスをするわけにはいかない。
なんとか仕事を持ち越さないように、今日中に終わらせないと。
