プランC
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ーーおまけーー
梅雨の湿気がまとわりつく、6月の放課後。
窓の外は、数日続いた雨が嘘のように晴れていた。
私は遅れていたレポートをまとめるため、1人教室に残って居残りをすることにした。
いつもなら、さっそうと部活へ向かうクラスメイトたちのおかげで、教室はすぐに静かになる。
だけど、今日は少し違った。
ふと顔を上げると、少し離れた席の椅子に、二口がぼんやりと座っている。
あの雨の日と違って、体育館が使えないなんて話は聞いていない。
それなのに、彼は一向に帰り支度をせず、ただ一点を見つめて、眉間に深い皺を刻んでいた。
「……二口、今日は部活あるんでしょ?遅れると怒られるんじゃない?」
声をかけると、彼はビクッと肩を揺らし、視線を私に向けた。
だけど、すぐに毒気の抜けたため息を吐いた。
「……なんだ、◯◯か」
「なんだとは何よ。失礼ね。私はずっとここにいたのに、二口が勝手に自分の世界に入り込んでただけでしょ」
「……悪い。ちょっと、考え事してた」
「珍しいね。……何かあったの?バレー部のこと?」
二口はしばらく黙っていたけれど、やがて絞り出すように口を開いた。
「……3年の先輩たちが、インハイで引退するってさ」
「……そうなんだ。寂しくなるね」
「……それで、次の主将、誰がやるかって話になってんだ。3年は……いや、2年も、なんとなく俺だろみたいな空気を出してやがる」
二口は、自分の大きな掌を見つめた。
「俺は……茂庭さんみたいに、人をまとめたり、真っ直ぐに引っ張っていったりなんて出来ねーよ。どうせ俺みたいな性格の悪いヤツが上に立っても、チームがバラバラになるのが目に見えてる」
彼は自嘲気味に鼻で笑い、乱暴に髪をくしゃりと動かした。
「……だから、真面目な青根がやった方がいい……。それか、いっそ1年がやったって構わないと思ってる。……自信なさすぎて、ダセェだろ」
その横顔は、いつもの不敵な余裕なんて微塵もなく、まるで迷子になった子供のように見えた。
いつも私に「直感でいいんだよ」と笑っていた彼が、今、一番自分の直感に怯えている。
私は広げていたレポートをパタンと閉じ、彼の正面に歩み寄った。
「何言ってるのよ。二口が主将をやればいいじゃない」
二口は驚いたように顔を上げた。
「は?……お前、話聞いてたか?俺には向いてないって……」
「向いてるよ」
私は、彼の言葉を遮るように言い切った。
「二口は、私のこと、いつも見てるでしょ。私がAかBかで迷って動けなくなってる時、絶妙なタイミングで、プランCを提案してくれる。……こんなにも周りのことを見ていて気が利く人、他に誰かいるの?」
「それは……お前だったから……」
「誰が相手とか関係ない。バレー部のみんなも、きっと二口のそういうところに助けられてるはずだよ。性格が悪いのは……まあ、否定しないけどさ」
私がイタズラっぽく笑って言うと、二口は呆然と私を見つめた後、フイっと顔を背けた。
でも、その耳の先が、ほんの少しだけ赤くなっているのを私は見逃さなかった。
「……お前、たまにそういう、柄にもないこと言うよな」
「たまに、は余計……でしょ?」
二口は大きく息を吐き出すと、乱暴に髪を掻き回した。
そして、いつもの意地の悪い、けれどどこか吹っ切れたような笑みを浮かべて立ち上がった。
「……分かったよ。主将なんてガラじゃねーけど、お前にそこまで言われて逃げるのも癪だしな」
彼は机にかけてあった鞄をひょいと担ぐと、扉に向かって歩き出した。
「……なあ、◯◯」
「何?」
「その……ありがとう、な。色々と……」
「貸し1つね」
二口は鼻で笑うと、そのまま廊下へと消えていった。
彼が去った後の静かな教室で、私は再び席に着いた。
「私も頑張らないとなー!」
それは、勉強のことなのか、はたまた……。
梅雨の湿気がまとわりつく、6月の放課後。
窓の外は、数日続いた雨が嘘のように晴れていた。
私は遅れていたレポートをまとめるため、1人教室に残って居残りをすることにした。
いつもなら、さっそうと部活へ向かうクラスメイトたちのおかげで、教室はすぐに静かになる。
だけど、今日は少し違った。
ふと顔を上げると、少し離れた席の椅子に、二口がぼんやりと座っている。
あの雨の日と違って、体育館が使えないなんて話は聞いていない。
それなのに、彼は一向に帰り支度をせず、ただ一点を見つめて、眉間に深い皺を刻んでいた。
「……二口、今日は部活あるんでしょ?遅れると怒られるんじゃない?」
声をかけると、彼はビクッと肩を揺らし、視線を私に向けた。
だけど、すぐに毒気の抜けたため息を吐いた。
「……なんだ、◯◯か」
「なんだとは何よ。失礼ね。私はずっとここにいたのに、二口が勝手に自分の世界に入り込んでただけでしょ」
「……悪い。ちょっと、考え事してた」
「珍しいね。……何かあったの?バレー部のこと?」
二口はしばらく黙っていたけれど、やがて絞り出すように口を開いた。
「……3年の先輩たちが、インハイで引退するってさ」
「……そうなんだ。寂しくなるね」
「……それで、次の主将、誰がやるかって話になってんだ。3年は……いや、2年も、なんとなく俺だろみたいな空気を出してやがる」
二口は、自分の大きな掌を見つめた。
「俺は……茂庭さんみたいに、人をまとめたり、真っ直ぐに引っ張っていったりなんて出来ねーよ。どうせ俺みたいな性格の悪いヤツが上に立っても、チームがバラバラになるのが目に見えてる」
彼は自嘲気味に鼻で笑い、乱暴に髪をくしゃりと動かした。
「……だから、真面目な青根がやった方がいい……。それか、いっそ1年がやったって構わないと思ってる。……自信なさすぎて、ダセェだろ」
その横顔は、いつもの不敵な余裕なんて微塵もなく、まるで迷子になった子供のように見えた。
いつも私に「直感でいいんだよ」と笑っていた彼が、今、一番自分の直感に怯えている。
私は広げていたレポートをパタンと閉じ、彼の正面に歩み寄った。
「何言ってるのよ。二口が主将をやればいいじゃない」
二口は驚いたように顔を上げた。
「は?……お前、話聞いてたか?俺には向いてないって……」
「向いてるよ」
私は、彼の言葉を遮るように言い切った。
「二口は、私のこと、いつも見てるでしょ。私がAかBかで迷って動けなくなってる時、絶妙なタイミングで、プランCを提案してくれる。……こんなにも周りのことを見ていて気が利く人、他に誰かいるの?」
「それは……お前だったから……」
「誰が相手とか関係ない。バレー部のみんなも、きっと二口のそういうところに助けられてるはずだよ。性格が悪いのは……まあ、否定しないけどさ」
私がイタズラっぽく笑って言うと、二口は呆然と私を見つめた後、フイっと顔を背けた。
でも、その耳の先が、ほんの少しだけ赤くなっているのを私は見逃さなかった。
「……お前、たまにそういう、柄にもないこと言うよな」
「たまに、は余計……でしょ?」
二口は大きく息を吐き出すと、乱暴に髪を掻き回した。
そして、いつもの意地の悪い、けれどどこか吹っ切れたような笑みを浮かべて立ち上がった。
「……分かったよ。主将なんてガラじゃねーけど、お前にそこまで言われて逃げるのも癪だしな」
彼は机にかけてあった鞄をひょいと担ぐと、扉に向かって歩き出した。
「……なあ、◯◯」
「何?」
「その……ありがとう、な。色々と……」
「貸し1つね」
二口は鼻で笑うと、そのまま廊下へと消えていった。
彼が去った後の静かな教室で、私は再び席に着いた。
「私も頑張らないとなー!」
それは、勉強のことなのか、はたまた……。
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