プランC
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帰りのホームルームが終わる頃。
窓の外では、雲行きが怪しくなっていた。
「うわ、マジか!降ってきた!」
誰かの叫び声を合図に、雨が急に降り出す。
帰宅を急ぐクラスメイトたちは、慌てて鞄をあさり始めた。
「……あ、あった!折り畳み傘!俺って最強!」
「俺はロッカーに置きっぱなしだから余裕〜」
鞄の底から現れた折り畳み傘や、ロッカーから引っ張り出されたビニール傘。
何の変哲のないただの傘が、伝説の剣か何かのように早変わりする。
私はといえば、教科書とノートしか入っていない自分の鞄の底を、ぼんやりと見つめていた。
「……ないよね、やっぱり」
置き傘もなければ、もちろん傘も持ってきていない。
帰宅部のため、部活中に止むのを期待することすらできない。
そうこうしているうちに、窓を叩く雨音が、次第に激しさを増していく。
「はぁ……ついてないな」
独り言は、騒がしい教室の喧騒にかき消された。
手元のスマホを取り出し、天気予報アプリをタップする。
画面に表示された雨雲レーダーによると、どうやら通り雨らしい。
30分もすれば、止むだろう。
私は帰り支度を止めて、再び椅子に腰を下ろした。
窓の外を眺めていると、すぐ隣でカサリ、とナイロンが擦れる音がした。
視線を向けると、二口が面倒そうに前髪を掻き上げながら、鞄の奥から1本の小さな折りたたみ傘を引っ張り出していた。
「……おい。傘、入ってくか?」
「……えっ。二口、部活は?」
「今日は体育館のメンテで休み。んで、どうすんだ?」
差し出されたのは、彼1人が入るのが精一杯に見える、小ぶりな傘。
これに2人で入るとなれば、どちらかの肩が傘からはみ出てしまうのは目に見えている。
しかも、それが私に気を遣った二口なのは予想できた。
そんなことを、彼にさせられない。
ただ、そんな心配をしているなんて、まるで二口を意識しているみたいで、口が裂けても言えなかった。
「……嫌よ。絶対に嫌」
「はあ?なんでだよ。お前、このままだと帰れねーだろ」
「なんでも!ほら、せっかく傘持ってるんだから、二口は早く帰りなよ。私は、適当に止むの待つから」
追い払うように手をシッシと振る。
彼がさっさと立ち去ってくれれば、この落ち着かない鼓動も静まるはずだ。
だけど、二口は鼻で笑うと、帰るどころか私の前の席である自席にドカッと腰掛けた。
「……何してんの」
「止むまで教室でお喋りでもするか」
彼は肩にかけていた鞄を、机の横のフックに掛け直す。
……何よ、それ。
置き去りにするでも、濡れて帰るでもなく、止むまで付き合ってくれるの?
それは、意地悪な二口が提示した、まともなプランCだった。
「たまには気が利くじゃん……」
「だーかーらー、たまには余計だって言ってんだろ。素直に感謝しろよ」
「……そうね、ごめんなさい。ありがとうございます、二口様」
皮肉を込めて返すと、彼は満足そうに頬杖をついた。
「で、昼間の話の続きだけど……。やっぱりネイビー、いいと思うんだけどな」
「もうっ、服の話はいいってば!」
顔が熱くなるのを隠すように声を荒らげたけれど、私は彼の差し出したプランCに、そっと身を委ねていた。
雨音に包まれた静かな教室。
止んでほしいはずの雨が、あと少しだけ続けばいいのに。
それは自分1人では、到底たどり着けない甘い答えだった。
ーーFinーー
窓の外では、雲行きが怪しくなっていた。
「うわ、マジか!降ってきた!」
誰かの叫び声を合図に、雨が急に降り出す。
帰宅を急ぐクラスメイトたちは、慌てて鞄をあさり始めた。
「……あ、あった!折り畳み傘!俺って最強!」
「俺はロッカーに置きっぱなしだから余裕〜」
鞄の底から現れた折り畳み傘や、ロッカーから引っ張り出されたビニール傘。
何の変哲のないただの傘が、伝説の剣か何かのように早変わりする。
私はといえば、教科書とノートしか入っていない自分の鞄の底を、ぼんやりと見つめていた。
「……ないよね、やっぱり」
置き傘もなければ、もちろん傘も持ってきていない。
帰宅部のため、部活中に止むのを期待することすらできない。
そうこうしているうちに、窓を叩く雨音が、次第に激しさを増していく。
「はぁ……ついてないな」
独り言は、騒がしい教室の喧騒にかき消された。
手元のスマホを取り出し、天気予報アプリをタップする。
画面に表示された雨雲レーダーによると、どうやら通り雨らしい。
30分もすれば、止むだろう。
私は帰り支度を止めて、再び椅子に腰を下ろした。
窓の外を眺めていると、すぐ隣でカサリ、とナイロンが擦れる音がした。
視線を向けると、二口が面倒そうに前髪を掻き上げながら、鞄の奥から1本の小さな折りたたみ傘を引っ張り出していた。
「……おい。傘、入ってくか?」
「……えっ。二口、部活は?」
「今日は体育館のメンテで休み。んで、どうすんだ?」
差し出されたのは、彼1人が入るのが精一杯に見える、小ぶりな傘。
これに2人で入るとなれば、どちらかの肩が傘からはみ出てしまうのは目に見えている。
しかも、それが私に気を遣った二口なのは予想できた。
そんなことを、彼にさせられない。
ただ、そんな心配をしているなんて、まるで二口を意識しているみたいで、口が裂けても言えなかった。
「……嫌よ。絶対に嫌」
「はあ?なんでだよ。お前、このままだと帰れねーだろ」
「なんでも!ほら、せっかく傘持ってるんだから、二口は早く帰りなよ。私は、適当に止むの待つから」
追い払うように手をシッシと振る。
彼がさっさと立ち去ってくれれば、この落ち着かない鼓動も静まるはずだ。
だけど、二口は鼻で笑うと、帰るどころか私の前の席である自席にドカッと腰掛けた。
「……何してんの」
「止むまで教室でお喋りでもするか」
彼は肩にかけていた鞄を、机の横のフックに掛け直す。
……何よ、それ。
置き去りにするでも、濡れて帰るでもなく、止むまで付き合ってくれるの?
それは、意地悪な二口が提示した、まともなプランCだった。
「たまには気が利くじゃん……」
「だーかーらー、たまには余計だって言ってんだろ。素直に感謝しろよ」
「……そうね、ごめんなさい。ありがとうございます、二口様」
皮肉を込めて返すと、彼は満足そうに頬杖をついた。
「で、昼間の話の続きだけど……。やっぱりネイビー、いいと思うんだけどな」
「もうっ、服の話はいいってば!」
顔が熱くなるのを隠すように声を荒らげたけれど、私は彼の差し出したプランCに、そっと身を委ねていた。
雨音に包まれた静かな教室。
止んでほしいはずの雨が、あと少しだけ続けばいいのに。
それは自分1人では、到底たどり着けない甘い答えだった。
ーーFinーー
