n回目
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〜n回目〜
堅治と一緒に買い物に出かけた時の出来事だった。
休日の午後のショッピングモールは、家族連れやカップルで溢れている。
「堅治、次あっちのお店に寄ってもいい?」
私は堅治の袖を軽く引いた。
彼は、両手に提げた紙袋の量をアピールするように見せ、わざとらしいほど深いため息を吐いてみせる。
「まだ買うのかよ……」
「……何か言った?」
「はいはい、どこまでもお供しますよ」
口調は気怠げだけれど、歩幅を私に合わせて緩めるのは彼の優しさだ。
荷物持ちを任され、隣を歩く彼の左手。
その薬指には、私のものとお揃いのシンプルなシルバーリングが鈍く光っていた。
ふとした瞬間に見えるその指輪を見るたび、出会った頃の彼を思い出す。
当時、エネルギーメーカーの事務員として働いていた私の職場に、新入社員の現場職として入ってきたのが彼だ。
配属初日、新しい青色の作業着に身を包み、それでも態度は一人前に生意気だった。
そんな新人の面影は、今ではもうすっかり頼もしい背中に変わった。
生意気な態度は相変わらずだけど……。
その時だった。
私の隣を歩いていた堅治が、ふと足を止めた。
「……あれ、二口?」
不意に投げかけられた透き通った声。
振り返ると、そこには綺麗な女性が立っていた。
明るいトーンに染められた長い髪が、彼女の背中でさらりと揺れる。
私の知り合いではない。
と、なると、堅治の知り合いになる。
横目で彼の様子を伺うと、堅治は一瞬だけ、驚いたように目を見開いた。
だけど、すぐにいつもの飄々とした表情に戻る。
「おー……久しぶり」
「やっぱり、二口!全然変わらないね。今、こっちで働いてるの?」
「まあな。……滑津も元気そうじゃん」
「バレーは続けてるの?」
「おう、社会人チームだけどな」
会話の内容から、彼女は堅治の高校時代の知り合いらしい。
2人は数分ほど、当たり障りのない世間話を交わした。
「連絡先、変わってないよね?」
「ん?……ああ」
「なら、また皆で集まる時、連絡するね。奥様、お邪魔しました!」
彼女は私に眩しい笑顔で軽く会釈をすると、人混みの中に消えていった。
再び歩き出した堅治は、しばらくの間黙っていた。
私もなんとなく言葉が見つからず、彼の横顔を盗み見る。
「……何、ジロジロ見てんの」
「いや、別に。……さっきの人、綺麗だったね、滑津さん……だっけ?」
素直な感想を口にすると、堅治は鼻で笑って、持っていた荷物を持ち直した。
「あー……まあ、見た目だけはな。中身は俺と同じ伊達工出身なだけあって、サバサバしてんぞ」
「へえ、そうなんだ……」
その場では普通に振る舞ったけれど、私の胸の中には小さな波紋が広がっていた。
先ほどのやり取りを思い返すと、ただの知り合いではない気がした。
堅治は顔がいいし、性格はああ見えて、意外と真面目なところがある。
おまけに、さっきの彼女を見る堅治の目は、いつも私に向ける意地悪なそれとは少し違って、どこか昔を知る男の余裕みたいなものが透けて見えたのだ。
「それより、次はどこ行くんだっけ。……ほどほどにしろよ?」
ニヤリと意地悪そうに笑う堅治。
その彼の腕に、私は不安を掻き消すように腕組みをした。
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