物足りないよ
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〜物足りないよ〜
大学に進学してから始めた古民家カフェのバイトも、すっかり慣れ始めた。
初めての日は、緊張のあまり注文を間違えたり、お客様の前で舌がもつれたりした。
特に、強面のお客様を前にすると、なおさらだ。
それでも、そんな方から、
「ありがとう」
「慌てなくていいからね」
「頑張ってるね」
なんて言葉をかけてもらうと、人は見た目じゃないなと心底思わされる。
このカフェは、伊達工業高校からほど近いこともあって、そこの学生もよく来てくれる。
私が通っていた高校からも近かった伊達工。
在学中は全く関わりがなかったのに、卒業してからこんな形で接点ができるなんて、人生は不思議だ。
彼らは毎回、大盛りメニューを頼んだり、シェア前提の量のメニューを1人でぺろりと平らげたりする。
その様子を微笑ましく見守るのが、私の密かな楽しみになっていた。
そして、それは今日も……。
「いらっしゃいませ~」
ドアベルの音が鳴ると同時に、2人の伊達工生が店に入ってきた。
1人は、少し茶色がかった髪がよく似合う、いかにもモテそうな整った顔立ち。
もう1人は、その鋭い目つきが印象的な子。
共通して、2人とも背が高い。
こんな2人組なら印象に残るはずだけれど、その記憶がないと言うことは、おそらく初めての来店だろう。
私は氷の入ったグラスとおしぼりを持って、彼らの席へと向かった。
「お決まりになりましたら、お呼びください」
そう言って持ち場に戻った。
しかし、待てども暮らせども、彼らからの注文の声は聞こえない。
時々、お冷だけで何時間も粘って勉強をする学生もいるから、彼らもそんな感じなのだろうか。
そう思い、私は注文を取りに彼らの元へ行くことにした。
「ご注文、お決まりになりましたか?」
そう尋ねても、2人とも無言。
鋭い目の彼は口下手な印象だけど、モテそうな彼は絶対にそんなことないはずだ。
それなのに、彼はストローを口にくわえ、肘をテーブルについたまま、ぼんやりと上の空。
内心、ストローは飲み物を頼んでから使ってほしい、と思った。
店長に、テーブルにあらかじめストローを置いておくのをやめる提案でもしてみようか。
そんなことを考えていると、鋭い目つきの彼が、無言でメニュー表をこちらに向けてきた。
そして、写真に写る料理を静かに指差す。
「あ、デミグラスハンバーグセットと、大盛りオムライスですね」
注文を復唱すると、鋭い目つきの彼は、またもや無言でこくりと頷いた。
モテそうな彼は相変わらず上の空で、まるでここにいないかのようだった。
「お持ちしますので、少々お待ちください」
私は不思議に思いながらも、キッチンへと向かった。
料理を待つ間も、彼らの様子が気になって仕方がなかった。
鋭い目つきの子は、じっとメニューを眺めている。
一方、モテそうな彼は、天井をぼんやりと見つめている。
いつもの伊達工の生徒たちとは、なんだか様子が違う。
いつもは、店に入るなり「大盛り!」と明るく声をかけてくれるのに。
彼らは、何か緊張しているのだろうか。
「◯◯さん、デミグラスハンバーグと大盛りオムライス、持ってってー!」
「はーい!」
店長から受け取った料理をお盆に乗せ、彼らのテーブルへと向かう。
ほかほかの湯気が立ち上るデミグラスソース、ぷるんと揺れる卵に包まれたオムライス。
料理をテーブルに置いた途端、上の空だった彼の目つきが、一気に変わった。
その瞳には、空腹と期待の光が宿っていた。
なんだ、ただお腹が空いていただけか。
そう思い、私は立ち去ろうとした、その時だった。
「あの……」
モテそうな彼が、おずおずと口を開いた。
その声は、緊張しているのか少し上ずっている。
彼は鞄から1枚のプリントを取り出し、私の方へ向けてきた。
学校で配られたプリントだろうか。
「バレー……大会?」
私は一番目立つ文字を読み上げた。
「うす……」
彼は短い返事をする。
「キミたちが出るの?」
「うす……」
背が高いから、てっきり長身を生かした部活をしているだろうとは思っていたけれど、まさかバレー部だったとは。
「これが、どうかしたの?」
私がそう尋ねると、彼は少し言いづらそうに視線を泳がせた。
そして、意を決したように言った。
「あの……もしよかったら、来てみませんか?」
彼の言葉に、私は思わず目を丸くした。
「……え?」
「……興味があればで、いいんで」
言葉少なだった彼は、少しだけ俯きながらも、はっきりとそう言った。
鋭い目つきの彼も、こくりと頷いている。
初めて会った私を、どうして彼らは誘ってくれたのだろう。
見ず知らずの人間に応援されて、本当に嬉しいのだろうか。
だけど、興味がないワケではない。
それに、彼らの真剣な眼差しを見ていたら、応援したくなった。
「……分かった。行ってみるね」
私の返事に、彼らは顔を上げた。
モテそうな彼は少し照れたように笑い、鋭い目つきの彼の目元も、少しだけ緩んでいるように見えた。
その表情は、先ほどまでの緊張とはかけ離れていて、とても穏やかだった。
「頑張ってね」
そう言って私が持ち場に戻ると、今度は2人の楽しそうな話し声が聞こえてきた。
どうやら、緊張が解けたらしい。
「デミグラスハンバーグ、うまいな!」
「……ん」
彼らが料理を平らげている様子を、私は少し離れた場所から見つめた。
店内に響く、賑やかな声。
それは、いつもの伊達工の生徒たちと同じだった。
ーーーー
その日の夜、私は改めて大会について調べた。
だけど、大会名は覚えていない。
仕方なく「男子高校生 バレー 大会」と地域を入力して、検索にかける。
すると、彼らが見せてくれたであろう大会の詳細がヒットした。
「春高予選……」
それは、私が思っていたよりも大きな大会だった。
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