頑張っちゃダメなの?
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〜頑張っちゃダメなの?〜
自分の席でお弁当箱を広げ、ひっそりと蓋を開ける。
色とりどりの華やかなお弁当ではないけれど、早起きして自分で作ったお昼ご飯。
「●●の今日の卵焼き、個性的やなぁ」
不意に上から降ってきた声に、心臓が跳ねる。
顔を上げると、いつの間にかノゾミちゃんが私の机の横に立ち、お弁当箱を覗き込んでいた。
「あ、これは……ちょっと失敗しちゃって。だから、あまり見ないでほしいかな……」
焦げ目がついて形が崩れた卵焼きを、咄嗟に手で隠そうとする。
だけど、ノゾミちゃんは面白がるように声を弾ませた。
「こらこら、隠さんといてーな!そんなアートな卵焼き、滅多に見られへんのやから!」
彼女の大きな声に、周囲の視線がこちらを向く。
数人の笑い声が重なり、私は居心地の悪さに肩をすくめた。
「てか、そのイチゴミルク!」
次に彼女が指差したのは、体育館の側にある自販機で買った、パックの飲み物だった。
「似合いすぎやろ。自分が可愛いって分かってて買っとるよね、絶対。あざといわ〜」
ただ甘いものが飲みたかっただけなのに、彼女たちのフィルターを通すと、それはあざとい演出というレッテルに変わってしまう。
「えっ、そんなことないよ!ただこれが好きなだけで……」
「はいはい、その否定しながら困っとる顔、100点満点!」
ノゾミちゃんは満足げに私の肩を叩く。
本当にそんなんじゃないのに……。
そんな言葉が何度も頭の中で渦巻く。
だけど、それを口に出したところで、また笑いのネタにされるだけなのは分かっていた。
私の言葉も、私の失敗も、選ぶ飲み物さえも。
全てはおバカで可愛い弄られキャラを完成させるための小道具として消費されていく。
私は今日も苦笑いを浮かべるしかできなかった。
そんな私の視線の先に、いつも静かに存在している人がいる。
同じクラスの北信介君だ。
彼は、私に向けられるような騒がしい喧騒とは、無縁の場所に立っている。
彼は、学年でもトップクラスの成績を維持しているけれど、それを鼻にかけることもなければ、私のように誰かに振り回されることもない。
ただ、淡々と、当たり前のことを丁寧に積み重ねている。
綺麗に食べ終えたお弁当箱を音を立てずに片付けると、直ぐさま整えられた筆箱から、手入れの行き届いたシャーペンを取り出し、美しい姿勢でノートを埋めていく。
その迷いのない背中を見ていると、胸の奥が少しだけチクッとする。
私とは、住んでいる世界が違いすぎる。
「北、また勉強しとんの?相変わらずやな」
クラスの男子が冗談めかして話しかけても、彼は視線をノートに落としたまま、静かに言葉を返す。
「……ん、ただの予習や」
突き放すわけでもなく、けれど同調もしない。
彼にはキャラなんて必要ないのだ。
自分を偽らなくても、彼は彼のままでそこにいる。
私も、彼のようになりたかった。
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