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それからというもの、お米を購入する際には、北さんと会った時間を狙っていくようにした。
また彼に会ってみたいから。
その甲斐あって、一言二言話す仲にはなった。
「こんにちは、いつもおおきに」
「あ、北さん!“ちゃんと”の美味しさを覚えちゃったら、もう他のお米が食べられませんよ。外食とかしても、なんか違うなーって」
正直、他のお米も美味しいとは思う。
だけど、北さんのお米を褒めたくて、こんな言い方をしてしまった。
北さんは何やら考える素振りをしてから口を開いた。
「せやったら、おにぎり宮って店知ってますか?」
「おにぎり宮……?」
名前からしておにぎり屋さんなのは分かるけれど、行ったことはない。
「知り合いの店なんやけど、そこにも卸してるんで、よかったら行ってみてください」
北さんが勧めるお店。
相当美味しいんだろうな。
「ありがとうございます!早速今晩行ってみますね!」
「おん、店主にもよろしく伝えといてください」
「はい!」
ーーーー
「あ、ここだ」
その晩、宣言通りおにぎり宮へ向った。
「いらっしゃいませ〜。お好きな席へどうぞ」
お店の扉をくぐると、若い店主さんらしき男性が出迎えてくれた。
彼が北さんの知り合いだろうか。
店内はテーブル席が少しの後はカウンター席。
ちらほらお客さんはいるけれど、どちらの席も空いている。
ひとまずカウンター席へと腰を下ろした。
席に置かれていたメニューを眺めると、オススメと書かれたおにぎりセットが目に入った。
選べる具材のおにぎり2つと味噌汁、お新香のシンプルな組み合わせ。
うん、これにしよう。
私はメニュー表を閉じ、店主さんを呼んだ。
「すみません、おにぎりセットをお願いします」
「ありがとうございます。具材は何にします?」
「えっと……梅干しと、ネギトロで」
やっぱりシンプルな梅干しはマストだよね。
カウンター越しに、店主さんが握ってくれる様を眺めた。
丁寧にキュッキュッとおにぎりを握っている。
思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
何となく座ったカウンター席だったけれど、作る様を見られるから当たりだった。
「はい、おまたせしました。梅干しとネギトロね」
「ありがとうございます」
カウンター越しに渡されたおにぎりセットを受け取る。
綺麗な三角のおにぎりのてっぺんからは、中身が分かるように梅干しと、ネギトロがあしらわれていた。
「いただきます」
手を合わせて、梅のおにぎりを一口口に含む。
「……んっ」
美味しい。
このお米は間違いなく“ちゃんと”のお米。
だけど、外はしっかりと、中はふんわりと握られているそのおにぎりは、食べ慣れたお米で作られたはずなのに、美味しさが増しているように感じた。
作る人が違うだけで、こんなにも味が変わるとは。
このお店を教えてくれた北さんに感謝しないと。
そう言えば、よろしく伝えてと言っていたっけ。
「あの……」
店主さんの手が空いたタイミングで話し掛けた。
「どないしました?」
「このお店……北さんって言うお米農家さんから教えてもらって……」
彼と北さんがどのくらい親しいのか分からないけれど、名前を出しただけで分かってもらえるだろうか。
だけど、そんな心配事は杞憂に終わった。
「北さんから?お姉さん、北さんの知り合いなんですか?それやったら少しサービスしますよ」
「あ、いえいえ!そんな」
予想外の反応に驚いた。
別にサービスして欲しくて彼の名前を出したワケじゃないのに。
「ただ、外食に行くと“ちゃんと”のお米が恋しくなるって話を彼にしたら、こちらのお店を紹介してくれたんです」
「せやったら益々サービスせな!」
そう言うと、店主さんは張り切っておにぎりを握り始めた。
なんだか申し訳無い。
そう思っていると、お店の扉が空いた。
視線を入り口の方へ向けると、そこにはなんと、
「北さん?!」
まさか話題に出した本人が来るとは。
「北さん、いらっしゃい!」
「おー治、久しいな。◯◯さんも今晩は」
「こんばんは……」
店主さんのことを名前で呼んだ北さん。
これは単なる業者さんとお客さんの関係なんだろうか。
「治、おにぎりセットの高菜とおかか」
北さんは注文を済ませると、私の視線に気が付いた。
「ああ……治はな、高校の頃の後輩なんや」
「そうだったんですね!卒業しても関係があるのって素敵ですね」
「◯◯さんは?」
「私は全然ですよ〜。卒業したらそれっきり」
「そうか」
「ところで、北さんもよくここに来るんですか?」
質問してからトンチンカンなことを言ってしまったことに気が付いた。
お米を卸しているんだから、定期的に来ているに決まっている。
「◯◯さんが今晩来るって言 うてたから」
「あ……」
確かに言った。
あんな他愛のない会話を覚えていてくれただけでなく、実際に来てくれたことが嬉しかった。
「はい、おまたせしました。あと、これサービスなんで2人で食べてや」
店主さん、もとい治さんは北さんのおにぎりセットを受け渡すと、もう一皿渡してきた。
お皿には2つのおにぎりが乗っている。
1つは山椒ちりめん、もう1つは焼き鮭。
「そんな、気を遣わなくても……」
全力で断ろうとしたら、
「ええから、ええから。その代わり、常連さんになってくださいね」
「あはは」
半ば無理やり渡された。
「治、あんまし変なこと言うなや」
「すんません」
これだけのやり取りで、高校時代の北さんがどんな感じだったのか、何となく想像できた。
きっと昔からちゃんとした人だったんだ。
「んで、◯◯さんはどっちがええ?」
「北さんはどっちがいいですか?」
「俺はどっちも食うたことあるし、好きな方でええよ」
「それなら……鮭の方を」
「ん」
お皿を差し出され、私は鮭の乗ったおにぎりを取り自分のお皿へと移した。
これでおにぎりを3つ食べることになる。
北さんに食いしん坊って思われていないだろうか。
チラりと彼の方を見ると、そんなことを気にしていないかのように自分のおにぎりを頬張っていた。
私が気にし過ぎか。
それならば、と私も残りのおにぎりをペロリと平らげた。
また彼に会ってみたいから。
その甲斐あって、一言二言話す仲にはなった。
「こんにちは、いつもおおきに」
「あ、北さん!“ちゃんと”の美味しさを覚えちゃったら、もう他のお米が食べられませんよ。外食とかしても、なんか違うなーって」
正直、他のお米も美味しいとは思う。
だけど、北さんのお米を褒めたくて、こんな言い方をしてしまった。
北さんは何やら考える素振りをしてから口を開いた。
「せやったら、おにぎり宮って店知ってますか?」
「おにぎり宮……?」
名前からしておにぎり屋さんなのは分かるけれど、行ったことはない。
「知り合いの店なんやけど、そこにも卸してるんで、よかったら行ってみてください」
北さんが勧めるお店。
相当美味しいんだろうな。
「ありがとうございます!早速今晩行ってみますね!」
「おん、店主にもよろしく伝えといてください」
「はい!」
ーーーー
「あ、ここだ」
その晩、宣言通りおにぎり宮へ向った。
「いらっしゃいませ〜。お好きな席へどうぞ」
お店の扉をくぐると、若い店主さんらしき男性が出迎えてくれた。
彼が北さんの知り合いだろうか。
店内はテーブル席が少しの後はカウンター席。
ちらほらお客さんはいるけれど、どちらの席も空いている。
ひとまずカウンター席へと腰を下ろした。
席に置かれていたメニューを眺めると、オススメと書かれたおにぎりセットが目に入った。
選べる具材のおにぎり2つと味噌汁、お新香のシンプルな組み合わせ。
うん、これにしよう。
私はメニュー表を閉じ、店主さんを呼んだ。
「すみません、おにぎりセットをお願いします」
「ありがとうございます。具材は何にします?」
「えっと……梅干しと、ネギトロで」
やっぱりシンプルな梅干しはマストだよね。
カウンター越しに、店主さんが握ってくれる様を眺めた。
丁寧にキュッキュッとおにぎりを握っている。
思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
何となく座ったカウンター席だったけれど、作る様を見られるから当たりだった。
「はい、おまたせしました。梅干しとネギトロね」
「ありがとうございます」
カウンター越しに渡されたおにぎりセットを受け取る。
綺麗な三角のおにぎりのてっぺんからは、中身が分かるように梅干しと、ネギトロがあしらわれていた。
「いただきます」
手を合わせて、梅のおにぎりを一口口に含む。
「……んっ」
美味しい。
このお米は間違いなく“ちゃんと”のお米。
だけど、外はしっかりと、中はふんわりと握られているそのおにぎりは、食べ慣れたお米で作られたはずなのに、美味しさが増しているように感じた。
作る人が違うだけで、こんなにも味が変わるとは。
このお店を教えてくれた北さんに感謝しないと。
そう言えば、よろしく伝えてと言っていたっけ。
「あの……」
店主さんの手が空いたタイミングで話し掛けた。
「どないしました?」
「このお店……北さんって言うお米農家さんから教えてもらって……」
彼と北さんがどのくらい親しいのか分からないけれど、名前を出しただけで分かってもらえるだろうか。
だけど、そんな心配事は杞憂に終わった。
「北さんから?お姉さん、北さんの知り合いなんですか?それやったら少しサービスしますよ」
「あ、いえいえ!そんな」
予想外の反応に驚いた。
別にサービスして欲しくて彼の名前を出したワケじゃないのに。
「ただ、外食に行くと“ちゃんと”のお米が恋しくなるって話を彼にしたら、こちらのお店を紹介してくれたんです」
「せやったら益々サービスせな!」
そう言うと、店主さんは張り切っておにぎりを握り始めた。
なんだか申し訳無い。
そう思っていると、お店の扉が空いた。
視線を入り口の方へ向けると、そこにはなんと、
「北さん?!」
まさか話題に出した本人が来るとは。
「北さん、いらっしゃい!」
「おー治、久しいな。◯◯さんも今晩は」
「こんばんは……」
店主さんのことを名前で呼んだ北さん。
これは単なる業者さんとお客さんの関係なんだろうか。
「治、おにぎりセットの高菜とおかか」
北さんは注文を済ませると、私の視線に気が付いた。
「ああ……治はな、高校の頃の後輩なんや」
「そうだったんですね!卒業しても関係があるのって素敵ですね」
「◯◯さんは?」
「私は全然ですよ〜。卒業したらそれっきり」
「そうか」
「ところで、北さんもよくここに来るんですか?」
質問してからトンチンカンなことを言ってしまったことに気が付いた。
お米を卸しているんだから、定期的に来ているに決まっている。
「◯◯さんが今晩来るって
「あ……」
確かに言った。
あんな他愛のない会話を覚えていてくれただけでなく、実際に来てくれたことが嬉しかった。
「はい、おまたせしました。あと、これサービスなんで2人で食べてや」
店主さん、もとい治さんは北さんのおにぎりセットを受け渡すと、もう一皿渡してきた。
お皿には2つのおにぎりが乗っている。
1つは山椒ちりめん、もう1つは焼き鮭。
「そんな、気を遣わなくても……」
全力で断ろうとしたら、
「ええから、ええから。その代わり、常連さんになってくださいね」
「あはは」
半ば無理やり渡された。
「治、あんまし変なこと言うなや」
「すんません」
これだけのやり取りで、高校時代の北さんがどんな感じだったのか、何となく想像できた。
きっと昔からちゃんとした人だったんだ。
「んで、◯◯さんはどっちがええ?」
「北さんはどっちがいいですか?」
「俺はどっちも食うたことあるし、好きな方でええよ」
「それなら……鮭の方を」
「ん」
お皿を差し出され、私は鮭の乗ったおにぎりを取り自分のお皿へと移した。
これでおにぎりを3つ食べることになる。
北さんに食いしん坊って思われていないだろうか。
チラりと彼の方を見ると、そんなことを気にしていないかのように自分のおにぎりを頬張っていた。
私が気にし過ぎか。
それならば、と私も残りのおにぎりをペロリと平らげた。
