上手な甘え方
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夕食を終え、私は食器を洗うためにシンクに向かう。
「洗い物するから、光太郎は先にお風呂入っていいよ。まだでしょ?」
これはいつものルーティンだ。
彼は毎日バレーの練習で汗を流して帰ってくる。
だから、私よりも先に体を休めてほしい。
「ありがとう!」
光太郎はそう言って、リビングを後にした。
彼が出た後、入れ替わるようにして、私も脱衣所へと向かった。
……。
…………。
お風呂から上がり、髪を拭きながらリビングへ向かうと、光太郎がソファに座り、リモコンを手にしながら私を見上げた。
「なんか映画見ようぜー」
「いいね、何がいい?」
私は彼の隣に腰を下ろした。
「●●は何か見たいもんある?」
動画のサブスクの画面を横にスライドしていくと、ちょうど気になっていた映画に新着マークが付いていた。
でも、一瞬で悟る。
これは、絶対に光太郎が興味のないものだ。
私ひとりの時にこっそり見ればいい。
それより、その映画の隣に表示されているタイトルに、見覚えがあった。
「これって、光太郎が気になってるって言っていたアニメじゃない?」
「あっ!本当だ!」
「じゃあ、これにしようか」
「やったあ!……」
喜んでいたと思った光太郎の声が、急に途切れた。
「……?」
光太郎はリモコンをそっとテーブルに置き、私の目を見つめた。
急に真剣な顔つきに変わり、心臓が小さく跳ねる。
「あのさ、これ、本当に●●も見たいやつ?」
「そうだけど?」
彼の探るような視線に、少し居心地の悪さを感じる。
「前々から思ってたけど、なんで遠慮すんの?」
「してた?」
無意識のうちに、目をそらしてしまう。
「してた。形の悪いハンバーグ食べたり、先にお風呂譲ってくれたり、今だって見たいの譲ろうとしてる」
「たまたまだよ」
そう言うのが精一杯だった。
動揺を隠したくて、必死に平静を装う。
「たまたまなんかじゃねぇよ。今朝は割れた目玉焼き食べてたじゃん」
彼の言葉が、私の心の中の、触れてほしくない場所に深く刺さる。
「もういいから!」
思わず、声が大きくなった。
涙が出そうになって、唇をきつく噛む。
「……」
沈黙が重く部屋に広がる。
「だって、その方が、みんなが喜ぶから……」
絞り出した言葉は、震えていた。
膝の上で、両手をぎゅっと握りしめる。
「みんなって?」
「両親とか職場の人とか、いつも私が我慢すればそれで丸く収まるから……」
誰かが不満を持つくらいなら、私が我慢すればいいと。
そうすれば、その場は穏やかになる。
私はずっとそうして生きてきた。
それが、一番平和な方法だったから。
「少なくとも、俺はそのみんなとは違う」
光太郎の強い視線が、私に向けられる。
その言葉には、一切の迷いがないように見えた。
「俺は●●1人に我慢させたくない」
「え……?」
「頼りないかもしれないけど、もっと俺のことを信じて甘えてよ」
言われて、私は言葉を失った。
私のことを、こんなにも真剣に考えてくれている人がいるなんて。
涙が込み上げる感情で熱くなった。
だけど、
「急にそんなこと言われても、どうしたらいいか……」
長年の習慣は、すぐに変えられない。
どう振る舞えばいいのか、どうやって甘えればいいのか、分からなかった。
光太郎は少し笑みを浮かべた。
「なら、ジャンケンしよう」
彼は、私に手を差し出した。
「ジャンケンで決めようぜ!そしたら、●●も気が楽だろ?」
確かに、一方的に甘えて困らせるよりは公平性がある。
「わ、分かった……」
私も、おずおずと彼の前に手を差し出した。
「おっしゃー、やるぞー!じゃーんけーん、ポンッ」
その日は、私の観たい映画になった。
案の定、光太郎は序盤に離脱して寝てしまった。
普通は勝手に先に寝られたら寂しく思うのだろうけど、私の心は温かかった。
これから、少しずつ甘えていけたらいいな。
ーーFinーー
「洗い物するから、光太郎は先にお風呂入っていいよ。まだでしょ?」
これはいつものルーティンだ。
彼は毎日バレーの練習で汗を流して帰ってくる。
だから、私よりも先に体を休めてほしい。
「ありがとう!」
光太郎はそう言って、リビングを後にした。
彼が出た後、入れ替わるようにして、私も脱衣所へと向かった。
……。
…………。
お風呂から上がり、髪を拭きながらリビングへ向かうと、光太郎がソファに座り、リモコンを手にしながら私を見上げた。
「なんか映画見ようぜー」
「いいね、何がいい?」
私は彼の隣に腰を下ろした。
「●●は何か見たいもんある?」
動画のサブスクの画面を横にスライドしていくと、ちょうど気になっていた映画に新着マークが付いていた。
でも、一瞬で悟る。
これは、絶対に光太郎が興味のないものだ。
私ひとりの時にこっそり見ればいい。
それより、その映画の隣に表示されているタイトルに、見覚えがあった。
「これって、光太郎が気になってるって言っていたアニメじゃない?」
「あっ!本当だ!」
「じゃあ、これにしようか」
「やったあ!……」
喜んでいたと思った光太郎の声が、急に途切れた。
「……?」
光太郎はリモコンをそっとテーブルに置き、私の目を見つめた。
急に真剣な顔つきに変わり、心臓が小さく跳ねる。
「あのさ、これ、本当に●●も見たいやつ?」
「そうだけど?」
彼の探るような視線に、少し居心地の悪さを感じる。
「前々から思ってたけど、なんで遠慮すんの?」
「してた?」
無意識のうちに、目をそらしてしまう。
「してた。形の悪いハンバーグ食べたり、先にお風呂譲ってくれたり、今だって見たいの譲ろうとしてる」
「たまたまだよ」
そう言うのが精一杯だった。
動揺を隠したくて、必死に平静を装う。
「たまたまなんかじゃねぇよ。今朝は割れた目玉焼き食べてたじゃん」
彼の言葉が、私の心の中の、触れてほしくない場所に深く刺さる。
「もういいから!」
思わず、声が大きくなった。
涙が出そうになって、唇をきつく噛む。
「……」
沈黙が重く部屋に広がる。
「だって、その方が、みんなが喜ぶから……」
絞り出した言葉は、震えていた。
膝の上で、両手をぎゅっと握りしめる。
「みんなって?」
「両親とか職場の人とか、いつも私が我慢すればそれで丸く収まるから……」
誰かが不満を持つくらいなら、私が我慢すればいいと。
そうすれば、その場は穏やかになる。
私はずっとそうして生きてきた。
それが、一番平和な方法だったから。
「少なくとも、俺はそのみんなとは違う」
光太郎の強い視線が、私に向けられる。
その言葉には、一切の迷いがないように見えた。
「俺は●●1人に我慢させたくない」
「え……?」
「頼りないかもしれないけど、もっと俺のことを信じて甘えてよ」
言われて、私は言葉を失った。
私のことを、こんなにも真剣に考えてくれている人がいるなんて。
涙が込み上げる感情で熱くなった。
だけど、
「急にそんなこと言われても、どうしたらいいか……」
長年の習慣は、すぐに変えられない。
どう振る舞えばいいのか、どうやって甘えればいいのか、分からなかった。
光太郎は少し笑みを浮かべた。
「なら、ジャンケンしよう」
彼は、私に手を差し出した。
「ジャンケンで決めようぜ!そしたら、●●も気が楽だろ?」
確かに、一方的に甘えて困らせるよりは公平性がある。
「わ、分かった……」
私も、おずおずと彼の前に手を差し出した。
「おっしゃー、やるぞー!じゃーんけーん、ポンッ」
その日は、私の観たい映画になった。
案の定、光太郎は序盤に離脱して寝てしまった。
普通は勝手に先に寝られたら寂しく思うのだろうけど、私の心は温かかった。
これから、少しずつ甘えていけたらいいな。
ーーFinーー
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